友達以上恋人未満

@nononn_2525

第1話

🐾叶 side🐾


「はぁ、どうしよう。」


中学校へ入学して早一週間が経過したにも関わらず、まだまだ全然クラスに馴染めていない。


「ん?叶、今何か言った?」


サラサラで美しい長髪をたなびかせながら振り向いてくる彼女の名前は風間 茜(かざま あかね)。幼稚園の頃からの親友だ。


「いや、まじで部活どうしようかなって。」


目の前の彼女は無言で静止したまま、いまだかつて見たことがないほど、目を見開いている。おまけに見事に口まで開いており、だらしないこと極まりない。せっかくの美貌が台無しだ。


「……ぁ、…ぇ…………………。」


彼女は口を開いたまま何か言おうとしたが、何か迷ったような表情した後、結局何も言わずすぐに黙りこんでしまった。


「ぁ…………。ぇ………。ぇ……。ぇ、うん?ぇ。……。」


何だかよく分からない感情を顔に浮かべたまま彼女は魚のように口をパクパクしている。


何を伝えようとしているのか全く分からない。


「え?どうした?大丈夫?ごめん私何か変なこと言っちゃった?」


数秒間の沈黙の後、彼女は再び口を開いた。


「…………。えぇぇぇ、ちょっっと待ってぇぇぇ!」


不意に体がビクッとした。目の前から馬鹿でかい声が発されて、耳が潰れる寸前だった。と、同時にクラス中の視線が集まる。


少し取り乱し過ぎたようだが、やっと茜が正気を取り戻したみたいだ。


「ねぇ。えぇぇ。どういうこと!?部活迷うも何も、あんたは陸上部でしょ。中長(※1)じゃないの?」


あぁそういうことか。


「いや、小学校の時はそうしようと思ってたけど、何か気まずいし辞めとこうと思って。だって今日もう仮入部期間後半じゃん。もう既に仮入部期間前半で陸上部の中でグループ化完成してるっぽいし。苦手な子もちょくちょくいるし、今から既存のグループの中に入るのはかなりキツそうだから、何かもういいかなって思った。」

「いや、入れよ陸上部。あんたなら全国行けるでしょ。だって中長バカ速いじゃん。地区一年生大会だって余裕で優勝狙える圏内にいるじゃん。去年の優勝の記録より、叶のベストタイムの方がかなり早かったじゃん。勿体ないよ。逆に陸上部辞めるなら、何に入るつもり?」


目が本気だ。


「いや、だからそれを迷ってるんだよ。私、球技できないし。特に入りたいのないかも。だからどうしようか迷ってる。」

「いや、陸部入れよ。」


間髪入れず返事が帰って来る。


少し間をおいたまま私は聞いてみた。


「んー。茜は何に入るの?陸上?」

「うん、もちろん。短距離だよ。ね、叶も一緒に入ろ、!!ねぇ一緒に陸部入ろうよ~!!ね、?実力あるんだから、もったいないよ。それに叶、走るの好きじゃん。もしかして、嫌いになった?」


そんなわけない。けど、今更入りづらいし、苦手な子も何人かいるんだもん、仕方ない、うん、仕方ない……。


「いや、別に全く走るの嫌いにはなってないけど、もう何となくいいやって思った。正直部活が全てではないから、入らないのもありかなとも思ってる。」



その時丁度チャイムが鳴った。5限目開始だ。


「叶、もう一度考え直した方が絶対良いよ!部活だって何に入るか、入らないかは個人の自由だけど、このままだと、叶、後で絶対一生後悔することになると思う。あくまで、私の意見だけどね。でも、まじで考え直してみて。」


茜は絶望的な表情を浮かべたまま、くるりと前を向いて、その時間はそのまま振り返ることがなかった。




放課後になると、私はトイレ掃除で、茜は階段掃除。お互いに話す暇なく、担任にさっさと掃除へ行くように促された。


茜は掃除が終わった後、すぐに部活へ行くだろう。それにしても、9年間近くずっと一緒に過ごしてきて、あんなに取り乱した茜を初めてみた。周りが取り乱していても、いつも茜だけは冷静だったのに。


その日は何だか気まずいくて、私はトイレ掃除を終わらせると、逃げるようにそそくさと帰った。幸い今日は金曜日、あと2日は顔を合わせなくて済む。


陸上部の発会式は他の部活より早くて、明日らしい。発会式が終わると中々入部届受理してもらえなくなるから、まぁ、もう一年間入部ほぼ不可能ってこと。うん、それで良いんだ、私はそれで大丈夫。


実は金曜日に私が帰ったあと、急いで掃除を終わらせた茜が何度も校舎内を行ったり来たりしながら、もう一度私と話をするために一生懸命私のことを探していたらしい。が、それを私が知るのはもっともっともーっとずーーっと先のお話。




金曜日の夕方、茜から何通かLINEが届いていた。 

ポップアップで見えた。


"ねぇ叶、陸部入ろうよ。入ってみても馴染めなくてどうしても嫌だったら別にすぐ退部するのもありなんだよ。他に入りたい部活がないなら、陸部入るだけ入ってみない?辞めようと思えばいつでも辞めれるんだし。"


返信しなかった。なんて返せば良いのか分からなかった。



土曜日の朝、茜からLINEで電話がかかってきた。

けど、出なかった。


だって、大丈夫問題ない。どうせ月曜日には会うんだもん。


怒ってるのか無視されてるのか、相手の表情が見えないLINEでのやりとりで返信が帰ってこないことがどれだけ不安なことなことなのか、私は十分理解していた。


でも返さなかった、そして、茜のメッセージに対してなんて返せば良いのか分からないから仕方ない、と勝手に一人で言い訳をして、自分自身をなだめた。




本当は、死ぬほど陸上がしたかった。本当は、自分自身とただ、面と向かって向き合いたくなかっただけ。コミュ力のない私があの環境でやっていけるわけがない、と勝手に自分の限界を決めつけて、なんてことない壁や挑戦から逃げているだけの情けない自分自身。大変哀れだ。






※1 中長……(陸上の種目である)中距離・長距離の略。

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