『春に咲くおじさん』の感想

春に咲くおじさん

作者 しぇもんご

https://kakuyomu.jp/works/16818093075103731317


 春に咲き、次の満月の夜に散り、金言めいたことを言うおじさんを面白がって上野公園の桜の一割に匹敵するほど植えられたが、都知事の「おじさんにはいつでも会える」発言と、おじさんが吐いた「構わねえよ。もともと見せもんじゃねえしな」によって伐採されて二十年後。父をなくしているヒカリは、ベランダで育てているおじさんに就活の悩みを打ち明け、アドバイスをもらう話。


 春のテーマを新しい始まりと終わり、儚さと思い出の象徴としながら、おじさんが春に咲くといった独自設定の秀逸さに目を引かれる。ユーモラスなキャラクターの魅力やシュールな世界観、人間の孤独と希望をリアルに感じられて、実に面白い。


 主人公は、都内在住の大学生の錦ヒカリ。一人称、私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。


 女性神話の中心軌道に沿って書かれている。

 春になると咲いて、気まぐれに金言めいたことを言っては次の満月の夜に散るおじさんが上野公園の桜の一割を占めるも、桜色のスーツを着た当時の都知事の「桜は春しか見られませんが、おじさんにはいつでも会えるでしょう」と、一本のおじさんが残した「構わねえよ。もともと見せもんじゃねえしな」の言葉により、なにも喋らず立っているだけのおじさんは煙たがられて伐採されて二十年後。今では、研究を兼ねた植物園の隅に見かける程度となっている。

 錦ヒカリが高校生のとき、区の小さな絵画コンクールで賞を取る。父は大喜びして購入した額縁に飾った。娘の前ではほとんど吸わなかったが、『せったーの7みり』を喫煙していた父は亡くなった。

 東京都八王子市南大沢駅から自転車で二十分ほどの距離にある、築三十年の賃貸ワンルームマンションの五階に一人暮らしをしながら大学に通っている。

 大学一年の春、ベランダのプランタでオーソドックスな緑おじさんを育てはじめる。一年後の大学二年の春、咲かなかった。二年目の三年生の春、スポーツ新聞とカップ酒をプランターの近くに置いてみるも咲かない。三年目の大学四年生の春、週刊誌や競馬の予想誌、四季報なども置いてみたが、やはり咲く気配はない。都内ではすでに桜は散り始めていた。今年もダメかと肩を落とし、ヤケになって、父に渡すはずだった編みかけのマフラーを置いてみると翌朝、おじさんが咲いた。

 グレーのデニムと深緑のジャケットを着ており、短めに刈りそろえた白髪混じりの頭髪は清潔感がある。ベランダの窓を開けると、おじさんは手に持っていた編みかけの赤いマフラーを差し出して、「花粉まみれになっちまうぞ」と手わしてきた。お礼をいって受け取ると、「おう」と答えて、欄干の上に両腕をかけ、赤く染まる街を見つめていた。

 次の日の面接は酷い出来だった。その夜、発泡酒を飲みながらおじさんに愚痴ると「就活の話か? ちゃんとSDGsって言ったのか?」

といわれ、言ったと答えれば、「じゃあ、大丈夫だろ」と返される。

 おじさんは人の名前を覚えられないらしいという論文を見つけたので、確かめてみようと自分の名前を教えると「……コメみたいな名前だな」といわれる。

「おじさんは、どうして咲くんですか? 受粉しないんですよね? それは植物としておかしくないですか?」就活がうまくいかず八つ当たると、少しだけ嫌そうな顔をしてから「じゃあ、お前はなんで就活なんかしてんだよ。他にやりたいことがあんだろ? 行きたくもねえ会社に媚びて毎日せっせと説明会やら面接に行くなんざ、そっちの方がよっぽどおかしいだろ」といわれる。

 働かなければ生きていけないと伝えると、「だろ? そういうこった。俺も同じだ」軽い言葉を返され、「そろそろ中入れ。風邪ひいちまうぞ」ちょっと優しかった。次の満月まであと何日だろうと、大きくなった月をみる。

 父が吸っていた「せったーの7みり」の煙草を買って渡すと、日はないのかと聞かれる。父が使っていたパンダのライターが見当たらなかったので、コンビニで買った緑色のやすいライターと携帯灰皿を渡すも、上着の内ポケットにしまう。吸わないのか聞くと、「まぁ、吸いたくなったら吸うわな」と言われる。

 父も自分の前では吸わなかったことを思い出す。

 いまだに内定が取れなない雨の日、欄干から離れて外を見ていたおじさんに、コーヒーを入れて近づく。一緒にコーヒーを飲んでいると、「……絵、うまいな」おじさんにいわれる。

 昔、コンクールで賞を取ったとき、父が喜んで額縁を買って飾った絵を、持ってきていた。「……絵なんかどれだけうまくても、お金は稼げませんよ。ていうかうまくないし」

 二日続いた雨がやみ、快晴。高校の時に編みかけのままだったマフラーをようやく完成させ、おじさんに渡す。礼を言って首に巻いた緑おじさんが、クリスマス仕様になる。今夜は満月。明日は面接の予定もないし、一緒に揉むことにする。

「……錦ヒカリ、コメみたいな名前だ」外を眺めていたおじさんが、唐突に喋り出した。「咲きたい時に咲く。別に条件なんてねえ。最近咲きにくいのは花粉がひどいからだ。受粉が必要ないのはそういうもんだからで、喋らねぇのはただの気まぐれだ。気に入った奴が側にいれば喋るだろうさ」「まだわかってねえんだろ? だからそういうの動画配信とかでやれば、ちったあ金になんじゃねえのか? 『本人に聞いてみた』とかなんとか言ってよ。そしたら別に就活なんかしなくても暫くは好きに生きていけるんじゃねえの、知らねえけど」

 おじさんは頭をかいから、ポケットをまさぐり、手ぶらで欄干の上にのせる。吸わないのか聞くと、吸いたいときに吸うと返事。吸いたそうだったけどとたずねると、頑固に「……もう中入れ。風邪引くぞ」といわれる。部屋の中から煙草をすているところを描いていいかたずねると、しばらくヒカリを見つめてから、少しだけ笑い、「構わねえよ。もともと見せもんみたいなもんだしな」

 おじさんの背中を描き終えたとき、空が明るくなっていた。出来上がった絵は滲んでいて、どうしようもなく下手くそだった。

 あさひが差し込むベランダに出て、プランタの赤いマフラーを拾うと、苦さの中に少し甘さを含んだ、懐かしい匂いがした。


 三幕八場の構成で書かれている。

 一幕一場の状況の説明、はじまりでは、春に咲き花見客に混じって気まぐれに金言めいたことを言って満月の夜に散るおじさんを面白がり、上野公園に植えられている桜の一割がおじさんに変わった。だが、「桜は春しか見られませんが、おじさんにはいつでも会えるでしょう」と当時の都知事の言葉と、刈られることを知った一本のおじさんの言葉によって伐採されてから二十年後。いまでは、研究目的のための植物園の隅っこに見かける程度となっている。

 二場の目的の説明では、大学進学のために東京都八王子市南大沢駅から自転車で二十分ほどの距離にある築三十年の賃貸ワンルームマンションの五階で一人暮らしをはじめた錦ヒカリは、ベランダにプラントを置き、オーソドックスな緑おじさんを一本育てることにする。四年生の春、父に渡すはずだった高校時代に編みかけていた赤いマフラーを置くと、清潔感のある短めに刈りそろえた白髪混じりの頭髪に、グレーのデニムと深緑のジャケットを着たおじさんが咲いた。「花粉まみれになっちまうぞ」と差し出したマフラーを放り投げる。慌てて受け取りお礼を言うと、「おう」とだけいって、欄干の上に両腕をかけて街を見つめた。調べてみると、十年以上しゃべった記録はみつからなかった。

 二幕三場の最初の課題では、発泡酒を飲みながら面接が酷いできだったことをおじさんに愚痴ってみる。「就活の話か? ちゃんとSDGsって言ったのか?」言ったと答えると、「じゃあ、大丈夫だろ」と返事。喋れるのはすごいけど、あまり頭が良くないのかもしれないとヒカリは思う。

 四場の重い課題では、おじさんはそこそこの知識と知能を持っている一方、人の名前を覚えられないという論文を見つけ試してみる。

 おじさんは生成AIに近い機構で話している説があり、自分の名前を覚えてもらおうとすると、「……コメみたいな名前だな」と返事。上手くいかない就活のせいで「おじさんは、どうして咲くんですか? 受粉しないんですよね? それは植物としておかしくないですか?」と八つ当たりのように尋ねる。

「じゃあ、お前はなんで就活なんかしてんだよ。他にやりたいことがあんだろ? 行きたくもねえ会社に媚びて毎日せっせと説明会やら面接に行くなんざ、そっちの方がよっぽどおかしいだろ」

 冷たく返される。みんなやっているし、働かなきゃ生きていけないと答えれば、俺も同じだと軽く返される。だが、「そろそろ中入れ。風邪ひいちまうぞ」優しい言葉をかけてくれた。ベランダからみえる月が大きくなっていた。

 五場の状況の再整備、転換点では、おじさんに煙草を買うとき、父が吸っていた「せったーの7みり」を選んで渡すも、ライアーを持っていなかった。父が持っていたパンダの描かれたライターは、母に捨てられたのかと思い、安い緑色のライターと敬体灰皿を買って渡す。受け取るも吸わないおじさん。父も、娘の前では吸わなかったことを思い出し、「そんな気を回すくらいなら、煙草なんかさっさとやめればいいのよ」と亡くなった父の棺に母は大量の禁煙パッチを入れていたのを思い出す。

 六場の最大の課題では、面接結果のお祈りメールが届く。どこにも就職できなかったどうなるのか、不安を抱きながらおじさんにコーヒーを入れて、一緒に飲む。高校生の時にコンクールで賞を取り、喜んだ父が買ってきた額縁に入れて、一人暮らしの部屋に持ってきている絵を見て、おじさんに上手いなと褒められる。天井を見上げながら、絵では稼げないしうまくないと答える。

 三幕七場のどんでん返し、最後の課題では、2日続いた雨がやみ、網掛けのマフラーを完成させておじさんに渡す。ベランダに足だけを投げ出して発泡酒を飲んでいると、コメみたいな名前だなと首に巻いたおじさんにいわれる。「咲きたい時に咲く。別に条件なんてねえ。最近咲きにくいのは花粉がひどいからだ。受粉が必要ないのはそういうもんだからで、喋らねぇのはただの気まぐれだ。気に入った奴が側にいれば喋るだろうさ」

 なにを言っているかわからないという顔を返すと、「だからそういうの動画配信とかでやれば、ちったあ金になんじゃねえのか? 『本人に聞いてみた』とかなんとか言ってよ。そしたら別に就活なんかしなくても暫くは好きに生きていけるんじゃねえの、知らねえけど」とポケットをまさぐるも手ぶらで欄干の上におく。

 煙草を吸いたそうだったので尋ねると、風邪引くから中に入れといわれる。部屋から煙草を吸っているところを描いてもいいか聞くと、少しだけ笑い、「構わねえよ。もともと見せもんみたいなもんだしな」といった。

 八場のエピローグでは、おじさんの背中をかいたときには空が明るくなっていて、絵はにじみ、しかも下手くそだった。朝日が差し込むベランダに出ると、おじさんの姿はもうなく、プランタの上の赤いマフラーを拾う。苦さの中に少しだけ甘さを含んだ、懐かしい匂いがした。


 春になると咲いて金言めいたことを言っては次の満月の夜に散るおじさんの謎と、上野公園から伐採されて二十年後で就職活動が上手くいかず悩んでいる大学四年生の錦ヒカリに起こる様々な出来事が、どんな関わり合いをみせて、どうなっていくのかに興味が惹かれる。

 桜のごとく、春になると咲いて、次の満月に夜に散るまで、花見客に混じって気まぐれに金言めいたことをいうおじさんという存在が実に面白い。


 冒頭の導入部分は、客観的な状況の説明からはじまり、本編では主人公の意見や考えなどが主観で密に描かれ、終わりはまた客観的な視点で粗く書かれています。

 上野公園に植えられている桜の一割が、おじさんになっている光景は実にシュールであるが、おじさんと一口にいえないほど、種類は多いはず。

 国は三十四歳までを若者と定義しているので、三十五歳以上がおじさんと呼べる。しかも年齢や体型、見た目も異なるおじさんには、偉いおじさん、スケベなおじさん、趣味好きなおじさん、イケオジなど、いろいろ存在するので、公園に植えられていたおじさんも、いろいろな種類がいたはず。

 そんな描写がされていないのは、遺伝子操作で生み出されたであろう人工植物のおじさんではなく、錦ヒカリと彼女が育てるおじさんとの物語を描きたいからだ。

 同様に、ラストの場面でも、夜明けを迎えたときにおじさんがどうなったのかは厳密に描かれていないのも、おじさんの生態を描いた作品ではないためである。

 対して、ヒカリが植えたおじさんの描写は、はっきり描かれている。品種は一番オーソドックスな緑おじさんで、グレーのデニムと深緑のジャケットを着ており、短めに刈りそろえた白髪混じりの頭髪は清潔感がある。ベランダやプランタの場面の描写も具体的。

 限られた字数の中で、なにを描きなにを描かないのかが明確にされているおかげで、本作に描かれているのは、ヒカリとおじさんの物語だと素直にわかるのだ。


 主人公に共感できるよう、ヒカルには就活が上手くいかないことや父親が亡くなっていることなど、不幸な一面が描かれている。

 高校時にコンクールで賞を取ったとき喜んで額縁を買って飾っていることから父親に愛されていたこともわかるし、ベランダで育てているおじさんに対して、夜は冷えるからと寒いからマフラーを渡したり、雨の日にはコーヒーを入れて一緒に飲んだり、優しさががある子のようにも書かれている。

 本人は下手といっているが、小さなコンクールとはいえ賞を取るほど絵の良さがある点には、絵が苦手な人にとっては憧れるだろう。


 全体的に描き方がいい。ヒカリの状況や心情を表すとき、ナレーションのように真実を語って説明するのではなく、動作や出来事で示しているおかげで、読みがいのある文章となっている。

 とくに、父が亡くなっていることを示す描き方がいい。

 おじさんに煙草を買い、父が吸っていた銘柄を選ぶも、ライターを忘れたことにきづく。おじさんはライターを持っていないのかと考えたあと、父のライターはもう母が捨ててしまっただろうかと振り返り、翌日安いライターと敬愛灰皿を渡す。でもおじさんは吸いたくなったら吸うわな、といって吸わない。その姿に、父も自分の前ではほとんど吸わなかったと思い出し、気を回すくらいならやめればいいのよと言っていた母が、棺に大量の禁煙パッチを入れていたのを思い出す。

 誰の棺だと書かなくてもわかるし、死んだと説明しなくても全体の流れから、高校時代になくなったのではと想像できる。

 父が亡くなっているから、一人暮らしをするとき、身近に父親を感じたくて、ベランダに植えたのかもしれない。

 もし大学時代に亡くなったのならば、入学して一人暮らしを始めた一年生の春の時点から、おじさんを植えたりしないだろう。寂しければ、連絡するなり帰省するなりできるから。

 

 より強く共感させるには、五感に訴えかける必要がある。視覚的情報は充実するが、音や匂い、味や触感などの感覚情報は、意識しなければ、なかなか書けない。

 本作では視覚以外の表現は少ないものの、おじさんとの最後の夜の場面に用いられている。

 夜は冷えるからとマフラーを渡し、発泡酒を飲むと、「ジーという虫の鳴き声、車が通り過ぎる音、遠くで電車が走る音、人の声」という聴覚の表現が書かれ、朝日が差し込んだベランダに残されていた赤いマフラーを拾うと、「苦さの中に少しだけ甘さを含んだ、懐かしい匂いがした」と味覚と嗅覚の表現がされている。

 五感によって、読み手は自分の記憶を思い越し、追体験するため、擬似的にも親子の会話をして別れる場面に、引き込まれて感動するのだ。


 会話文以外にも、主人公の内面の声が口語的に書かれている。 

 とくにおじさんとの距離感がまだつかめなない中、面接がひどいできだったことを打ち明ける緊張する場面で、会話では敬語を使いながら、心情では口語を用いることで、柔らかさを生み、読みやすくしている。

 読みやすい文章として、行変えをし、一文を短くして 全体のテンポやリズムよく書かれているため、物語の世界へ入り込めやすい。

 主人公の名前が、錦ヒカリであり、コシヒカリを連想させる。それでいて、おじさんに「……コメみたいな名前だな」とつぶやく場面では、おもわず同意してしまう。

 名前を覚えられないという論文に対して、実験のために名前を覚えてもらおうとしている緊迫する場面で、主人公としてはまじめなことをしている。

 それでいて、くすっと笑えるところでもある。笑えるということは、共感している証でもある。

 

 会話や地の文で、登場人物の性格を感じられるのも、共感できる要素の一つ。面接の愚痴を言ったとき、「就活の話か? ちゃんとSDGsって言ったのか?」と時事ネタを外さず書かれていたり、「またお祈りメールが来た。ちゃんとSDGsって言ったのに」と嘆いたり。

 就職活動をしたことがある、もしくは最中の大学生に共通点をもたせた、時代性のある書き方がされているのも、実に共感を生む。


 プランタに植えて開花するまで三年かかっている。桃栗三年柿八年のように、植えてから結実するまで年数が必要なのかもしれない。

 

 おじさんは人の名前を覚えられないらしいとあるが、「……錦ヒカリ、コメみたいな名前だ」とつぶやき、以前どうしてどうして咲くのかという問いに対して、「咲きたい時に咲く。別に条件なんてねえ。最近咲きにくいのは花粉がひどいからだ。受粉が必要ないのはそういうもんだからで、喋らねぇのはただの気まぐれだ。気に入った奴が側にいれば喋るだろうさ」と答えている。

 つまりおじさんは、覚えられないのではなく覚えている。

 ただ、喋りたくないときは喋らないという、人間みたいなところがあるのがわかる。


 おじさんが最初にしゃべったとき、「花粉まみれになっちまうぞ」だった。花粉を気にしている。

 おじさんのセリフはいい加減なものではないとするならば、花粉が原因で開花しにくかったのは、本当なのかもしれない。


 最後の夜、おじさんがクリスマス仕様になったことが書かれている。つまり、おじさんの言葉やアドバイスは、ヒカリへのプレゼントなのだ。

 サンタクロースのカラーは、本来は緑。コカコーラの宣伝に使われたとき、赤い服を来ていたため、世界中にサンタクロースは赤い服を着たおじさんだと広まった経緯がある。

 そう考えると、緑おじさんは、ヒカルにとってサンタクロースとして書かれていたのだろう。


 父に贈るはずだった赤いマフラーを使って、おじさんは開花している。おじさんの言葉は、父からの贈り物かもしれない。

 

 ヒカリはおじさんのアドバイスを聞いて、もっとおじさんについて調べ、自分で書いた絵を用いた『おじさん図鑑』を発表、書籍化し、おじさん研究の第一人者になれるかもしれない。

 あるいは、おじさんの絵をたくさん描いてSNSで発表し、『おじさんアート展』を開くまでになるのも面白い。


「せったーの7みり」とは、セブンスター7ミリ、と思われる。

 日本たばこ産業(JT)が製造・販売している紙巻きたばこの銘柄「セブンスター」の中で、タール値7ミリグラム、ニコチン値0.6.ミリグラムの商品。

 セブンスターシリーズの中では比較的低タール。吸いやすく、初心者向き。チャコールフィルターを使用しているため、雑味が抑えられスッキリとした味わい。辛味を抑えつつ、独特の甘み。軽く吸えばほんのり甘く、強く吸えば辛みを感じる。

 煙のにおいを嗅ぐと、まるでシロップのような甘いの匂いがする。かすかにスパイシー。タバコ本来の香りと風味を残しつつ、強すぎずマイルドな味わいが楽しめるのが特徴。強いタバコが好きだという方には物足りないかもしれない。

 

 おじさんが散ったあとに残ったマフラーには、父も吸っていた煙草の匂いがしていた。ひょっとすると、父と同じ匂いかもしれない。

 おじさんと父の思い出を胸に、マフラーをカバンに忍ばせて就活すれば、きっと道が開けてくるのではと思いたくなる。


 遅咲きの桜が散る前に見せたくれた夢が、亡き父と再会するような話だからこそ、儚くも寂しく、それでいて希望も見えるラストに感動する。

 ヒカリの就職が上手くいき、人生に幸多くあらんことを願わずにはいられない。


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