第3話 Part.4

 刘星宇の背中に鳥肌が立つ。身体的な寒さを感じるほどヒヤッとしたのだ。

 彼は事務所の一人目のメンバーであり、二人目が所属をするときの世の中のどんな人よりも、怖い李静の怒った姿を知っている。

 そのため、急いで沈思妍の腕を掴み、違う部屋へ連れて行く。文句をぶつぶつ言う彼女に向かって、「思妍、お前のためなんだ」としてやったぞ、というような表情で言い放った。


「李静。あいつはもう犯罪者じゃない。罪は償った。ちゃんと反省して今でもちゃんと仕事をしてる。何も問題を起こさなかったじゃないか」


 さすがの范睿も先ほどの発言を無視することは出来なかった。少し言い方がきつくなる。


「でも、“元”犯罪者なのは変わりないじゃない。それに杨梓乐は強盗未遂犯だけど、そこの人は?立派な殺人犯じゃない。人をほんとに殺してる」

「それは……何か事情が……!」


 范睿は言い終わる前に唇をぐっと噛み、下を俯く。両手は力を込めすぎてぶるぶると震えている。

 徐懍と少ししか過ごしていないのに、范睿はどうしても仲間になりたいと思った。なぜかは分からないが、徐懍は范睿をひきつける。

 

「私達は徐懍のことを何も知らないし、重要なことは何も話さない。だから信用できない。ここで問題を起こされたら困るの。范睿の立場だってあるし、この事務所もいつかは認められて警察署内に入る予定なんだから」

「……そうだな」


 范睿はこんなにも事務所のことや自分のことを考えてくれている李静に根拠がない不確かなことは言えなかった。

 徐懍は范睿の肩に触れ、かばうように前に立つ。

 范睿の目の前には頼もしい背中が広がった。


「問題なんか起こさない」

「そんなことどうして言えるのよ?」

「根拠はない。ただ俺は范睿と仲間になりたい。困ったこととか危険な状況とかがあった時に守りたい。それだけだ」


 李静はやっぱり信じられない、と徐懍を鋭い目つきで見つめる。

 徐懍はただ何も言わずに范睿の前に立っていた。 

 緊張が張り詰める沈黙の中、六時を告げるチャイムが鳴る。 

 范睿はそのチャイムと同時に徐懍を押しのけた。


「あ、もうこんな時間。李静、早く帰らないと、今頃、お前の後輩くんは泣きべそかいて待ってるかもしれないぞ?ほらほら、帰れ帰れ!」


 范睿は李静の肩を無理やり押して出口へと向かわす。

(どうしてふたりとも俺のことでバチバチなんだ。まるで少女漫画の私のことで争わないでくださいって言う主人公みたいじゃないか?!)


 范睿は基本的にめんどくさいことは徹底的に避けたいタイプだ。


「ちょ、ちょっと!何すんのよ」

「まぁまぁ。今日のところはいいだろ?依頼、ちゃんとやるから、そこは心配すんなよ!じゃあな」


 范睿はなんとか李静を押し出して、ドアの鍵をすぐ閉める。

 李静を怒らした原因の人を見ると彼は首をかしげ、腕を組む。そして、一面に咲く百合のように、純粋で無垢な笑顔を見せた。

(ほんとに、こいつは……)


「仕方ないな」


 范睿はすぐさま徐懍に近づき、腕をつかむ。


「今から話さないといけないことが山のようにある!ここの仲間になるからには全部覚えろよ!」

「ああ。もちろん」

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あなたと共に三生を契ろう 明星菜乃 @nanochan

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