第13話 月夜
祝宴会は終わりを迎えつつあった。
やがて、帰路に着くものも現れ始め、最初の熱気が嘘かのように静かになっていた。
少し寂しくも思うが、パーティーとはそういうものだ。
盛り上がりとはいつまでも続くものではない。
いつかは終わりを迎える。
まあ、俺はこんな感じの雰囲気も別に嫌いじゃないけどな。
なんなら好きなまである。
この、なんとも言えない静寂感と寂しさが心地いいのだ。
「……月が綺麗だ」
俺は、パーティー会場である中庭から離れた場所にて夜風にあたっていた。
冷たくそれでいて心地の良い風が頬を撫で、このうっとおしく思える白髪はなびいている。
この体に転生して一年が経過した。
この一年、俺はこの体の持ち主であったエゲレアに出来る限り似るように振舞ってきた。最初は言葉遣いそのものに違和感を感じたが、今では、まあ、普通に板についてきたと思う。
とはいっても、まだまだエゲレアに似せられているかは怪しい部分もある。
……流石に一年も図書室に引きこもったのは不味かったかな。
ここだけの話、実は俺、ボッチなのだ。
まあ、そりゃそうだ。
病から回復して元気になったかと思えば、「算術?言語学?そんな事している暇があったら魔導を学びたいです」とばかりに図書室に籠りだしたのだ。
結果、同世代の子供と顔合わせする機会もなく……御覧のありさまだ。
……最近、明らかに家族から向けられる目線に諦めの様な物が混じっているのを感じる。
ああ、こいつボッチなんだ、みたいな目線を向けられているような気がするのだ。
最初こそ「エゲレア、友達は居た方が良いですよ」みたいな事を言われていたのだが、この頃になると、俺が友人関係を構築する事は無理だと諦めたのか、何も言わなくなってきた。
まあ、別に良いんだけどな。
友達なんかよりも俺は魔導の方が好きだ。
別に悔しくなんてないからな!
……こんな事を言っているから友人関係の一つで持てないんだろうけどな。
ちなみに、普通こういうパーティーの場というのは、貴重な同世代の貴族の子供と触れ合える機会らしい。
だから、新しい友人関係が生まれるというのが一般的なのだ。
ちなリソースはペレー。
しかしながら、ボッチガチ勢の俺が自分から話しかけれると思うか?
否、話しかけれる訳がないのだ。
あ、あの下級貴族の人たちはノーカウントな。
利害関係を考慮すると、それは友人関係とは言えないからな。
前世ではなんとか頑張って社交辞令的にやっていたのだが、心の底から楽しいなどと思ったことはない。
それに、同世代の子供と何を話せばいいのかなんて分からないのだ。
俺の趣味である、鍛錬と魔導について話せばいいのか?
うん、間違いなく引かれる。
そうに決まっているのだ。
だから俺は悪くないし、話しかけられる訳がないのである。
証明完了QED。
……あれ?
なぜだか目から水が。
この水、しょっぱいぞ?
「……」
──まあ、この話題は考えないようにしよう。
考えていると悲しくなるだけだ。
自分で自分自身の傷をえぐるのは愚かな行為。
だから、考えない考えない。
「もう、一年か」
そう、もう一年なのだ。
この体に転生してから一年も経ったのである。
色々なことは……なかった。
ずっと引きこもっていたから。
あれ?また戻ってきたぞ?
「あー、だめだ、だめだ」
頭を振り、この話題をかき消さんと試みる。
こういう時はもっと別の事を考えるべきだ。
……そうだな。
俺の前世での職業は暗殺者だった。
もしも、こういうパーティーで、俺が暗殺者だったとして、エゲレアが暗殺対象だったらばどうするだろうか?
難しいな……。
なにせ対象がいる会場はお貴族様の屋敷なのだ。
武器は持ち込めない。
さらに逃走経路も確保しなければならない。
そう考えるとまず毒殺が浮かんでくるが、残念な事にナシだ。
確実性に欠ける。
それに、非ターゲットまで殺しかねない。
それは暗殺者としてナシだ。
じゃあ、パーティーの最中にこっそり殺すか?
殺すには確実だろう。
しかし、これもナシだ。
目立ちすぎる。
目立つというのは暗殺者として致命的なのだ。
今後の仕事依頼が減る可能性がある。
ならば、どうするか?
「……そうだな」
俺ならば、ターゲットが一人になったところで、持ち込んだ小型ナイフでこっそり後ろから刺すだろう。
死体の発見は遅れるし、何よりも確実に殺せる。
それに対象はただの女児だ。
抵抗もないだろう。
きっと、俺がこう考えるってことは、
「──ああ、そうだな。俺だったらそうする」
その時だった。
後ろから何者かが接近し、その手を振り上げた。
キラリ、と月光が刀身に輝く。
「その方法は対象の暗殺が確実で、逃走経路を確保するまでの時間を稼げるというメリットがある」
しかし、と付け加える。
「一つ欠点があるとするならば、私が暗殺対象という事です」
ニヤリと笑う。
振り下ろされる刀身は高速でこちらへ迫るが、振り向くまでもなく俺は手を後ろへやり摘まむ。
魔力による身体強化も使用しているのだろう。とてもじゃないが、目でとらえられないようなスピードで振り下ろされたはずのナイフは、俺の人差し指と中指に挟まれることでピクリとも動かなくなった。
まさか、ただの非力な小娘だと思っていたのだろう。
驚愕する暗殺者に蹴りを放つ。
「グッ!」
それをまともに受けた暗殺者は吹っ飛んだ。
「こんばんは。今夜は月が綺麗ですね」
吹っ飛んだ先で血を吐く暗殺者。
その顔に仮面を被っている。
しかしこちらを見る表情は、仮面越しにも驚きに包まれている事がわかる。
「さて、私に手を出したのです。今夜は返しませんよ?」
「チッ!クソガキが!」
舌打ちとともに起き上がる。
どうやら、やる気の様だ。
いいね、いいね、楽しめそうだ。
嫌いじゃないぞ、そういう闘志に燃えた表情は。
これは、久々に骨のある戦闘が出来そうだな。
ペロリと唇を舐める。
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【あとがき】
マジで、良いストーリーが思い浮かんでしまったので、新作を書きました。
割とすぐ終わる計画ですので、こちらへはあまり影響がないと思います。
新作
底辺冒険者の俺、実は白髪美少女なんですけど恥ずかしいので正体隠そうと思います
↓
https://kakuyomu.jp/works/16818093077147591623
プロットからかなり考えて執筆しましたので、かなり面白いと思います。
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闇の暗殺者はお嬢様に転生したようです〜俺が白髪美少女?残念、戦闘狂でした〜 絶対一般厳守マン @mikumiku100
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