第3話 一難去って

「ねぇ、リオは何歳なの?」



 無言で前を歩くリオに対し、唐突に比奈乃が質問してきた。リオは呆れたような顔をして比奈乃の方を振り向く。



「…………いきなり呼び捨て?」

「あっ、ごめん……」



 比奈乃はリオの言葉にシュンとなってしまう。比奈乃はこれまで同年代と接してこなかったため、同年代のそれも異性の男子への接し方が分かっていなかった。比奈乃の育った村では、子どもたちは皆、比奈乃よりも歳下だった。


「まぁ、別にいいけど……今年で16」

「えっ、私と一緒じゃん!」

「…………そうは見えないけどな」



 ボソッと小声でつぶやいたリオの言葉を比奈乃は聞き逃さなかった。期待に満ちた目でリオに質問する。


「ねぇねぇ! 今の言葉ってどういう意味!? もしかして私、お姉さんに見えるってこと!?」

「いや、その逆。てっきり、オレより歳下かと思ってた」



 リオは冷静にそう言い放った。純粋な言葉の破壊性によって、比奈乃はその場に凍りつく。



「えっ、君より私の方が身長高いのに?」

「……………………余計なお世話」


 比奈乃の言葉がリオの機嫌を損ねたのか、プイッと比奈乃から顔を背けて歩き出した。最初に会ったときは、かわいい顔をしてるのに大人びた男の子だなと比奈乃は思っていたが、身長の話を振ると年相応の反応するあたりまだまだ子供だなと比奈乃は思った。比奈乃は上機嫌でステップしながらリオに近づき、彼の横に並んだ。



「あっれれぇー拗ねちゃった?」

「うるさい牛女」

「牛女ァ!?」



 比奈乃はその場に立ち尽くす。今まで生きてきて牛女などという酷い言葉を吐かれたことは一度も無かったからだ。そんな彼女を無視してリオは歩き出す。凍結が解除された比奈乃は、リオを追いかけ再び横に並ぶ。



「ねぇ、君デリカシーって言葉知らないの!? せっかくこんなに可愛いレディーが目の前にいるんだよ? それに対して牛女って…………まぁ、確かに食べるのは好きだけど……あっ、太ってないからね!?」


「よくもピーチクパーチクと喋る……お前は文鳥か。確かに如月は可愛いと思うけど、それを自分自身が言うのはどうかと思うよ?」


 リオは困惑した顔で比奈乃に言う。比奈乃は顔がみるみる熱くなっていくのを感じた。


「い、今なんて言ったの?」

「ん?お前は文鳥かって」

「そこじゃない! その後!」

「注文が多いな……如月は可愛いと思うけど、自分自身でそれを言うのは自意識過剰みたいでよくないと思う。自己肯定感が高いのはいいことだと思うけどさ……どうした? 体調でも悪いのか?」


 リオの目線の先には顔を茹でたタコのように真っ赤に染めた比奈乃の姿があった。

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ディテクティブ・ダンジョンズ 不労つぴ @huroutsupi666

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