第50話(最終話)


カぺルマンはレベル30で武力は93。

自分はレベルが50に達しているが、武力は65。

凡人が才能のあるものに能力で勝てないのは普遍的な事実……。


だが、それがどうした?

これまで、ステータスが格上の相手でも諦めなかった。

神様に与えられた能力チカラは、己が折れない・・・・限り無限の可能性を秘めている。


4本の腕を持つ石像と戦って体得した「慧眼」と「未来視」。

黒王鬼オーバーロードの死闘の中で目覚めた「無我」。

そして隠密蜂ステルスビーと何百回と戦って身に着いた「高速剣」。


生と死の狭間で足掻き続けて身体に染み込ませた自分だけの技倆わざ

あの地下迷宮の最下層には目ぼしい宝はなかった。


──だから考えた。


あの地下迷宮は「英雄を生み出すための試練」の場ではないかと……。

まあ、自分は49階層からだったので、英雄と呼べる代物ではないかもしれない。

でも、少なくとも大陸屈指の実力を持つ帝国軍大将と真っ向から渡り合えるほどに成長している。


「死ね、死ね、死ね、死ねぇぇ!?」


剣を重ねてわかったことがある。

レッドテラ軍大将という肩書に騙されていた。

まさか、こちらの想像以下・・・・だったとは正直、驚きを隠せない。


単騎で乗り込んできたのは、味方の犠牲者を気にしている訳ではない。

深い孤独に包まれた人……。

心がまっすぐ育つ前に「折れて」しまったんだと思う。

その原因は子どもの頃にペリシテという村が襲われたからだろうか?


その類まれなる力が仇となり、恐れられるばかり。

戦場で彼について行けるものはいない。

ユリアル達、連邦兵はさしずめ単騎で突撃する彼のお守役だったのかもしれない。


もし、心に器というものがあるとしたら、彼はとても小さく焼き上がった器。

眼は充血し、激情に駆られ歯ぎしりをしている。

器という点において、シンバ将軍やカルテア王女と比べるのはあまりにも礼を欠くというもの。


彼の剣には、殺気しか込められていない。

すべての人を憎み、傷つける大義名分が、さも自分にあるとでも言いたげ。


たかが、それだけの理由で?

人は剣を握る時、命より重い何らかの使命を見出す。

だが、剣を手放す時は使命よりも大切なものが命だということに気付く。


ペリシテの巨人が聞いて呆れる。

使命もなければ、命の尊さも知らずに剣を振りかざす小さき者・・・・に負ける気はない。


覚悟なき者の剣は軽い。

どんなに地面を割ろうが、木を叩き折ろうが関係ない。

直剣グラディウスで傷を与えていく。


「畜生……畜生畜生畜生ぉぉ!?」


正面からぶつかって折れなかった相手は自分が初めてなのかもしれない。

憤怒の形相が、焦慮に捕らわれ、やがて蒼ざめる。

踵を返して逃亡を図ろうとしたので、籠手の金属球を太腿に当てた。


逃がさない。

敵軍の大将である以上、討ち取るか捕縛しなければ戦争は終わらない。


「くっ、くるなぁぁぁ!」


右足を引きずりながら、巨大な剣を振り回す。


「あ……」

「不意打ちは得意でーす!」


背後から鬣犬人スカベンジのギュートンが何の躊躇もなく剣で敵大将の胸を剣で貫いた。

カぺルマンは短く小さな呻き声をあげると、そのまま前のめりに崩れ落ちた。




大将を討ち取ったので、すぐに終わると思ったが、そのまま夕方まで戦闘が続いた。

大将カぺルマンは人嫌いなことで有名。

彼の顔は、帝国内部でも一部の将校のみしか知らされていないんだと思う。

彼を討ち取ったと敵軍に伝えてもなかなか信用してもらえなかった。

まさか単騎で敵陣深くへ潜り込んでいたなんて、兵達は思いもよらなかっただろう。

連邦の赤い騎士がひとり丘の上から逃げた。

だが、敗戦が濃厚だったことを帝国軍にワザと知らせなかったかもしれない。

あるいは帝国軍とは密接な関係はなく、戦場を駆けまわっていた可能性もある。


夕方、ようやく大将の訃報が敵全軍に伝わり、組織的な戦闘が終了した。

総数はまだまだ帝国軍の方が多かったが、明らかに士気が落ちたのが原因。

それだけ大将カぺルマンの不敗神話が彼らの士気に大きく影響していたのだろう。


帝国軍は速やかにキサ、ジューヴォ連合軍を破るつもりでいたはず。

旧キサ王国領地はそもそも食糧が乏しいため、奪えるものがほとんど無い。

そのため、帝国は本国からの物資に頼っていたと考えられる。

そういった背景から、フェン・ロー平原の戦いは早期の決着を予定していたはず。

その後、共和国の領土に踏み入って略奪を働こうとでも企んでいたことだろう。

大将亡き今、丘攻めは彼らにとっては、はるかに高くそびえ立つ壁同然……。

無類の戦闘能力を誇るカぺルマンがいたからこそ、丘攻めを選択した将校たち。

彼らが、今ごろ頭を抱えているのが目に浮かぶ。


4か月以上に及ぶ帝国軍の王国侵攻は呆気なく幕を降ろした。


第3大陸暦101年8月。

帝国はキサ王国からも撤退したが、王国の西側の一部は依然、帝国が駐留する形となった。


同年9月。

帝国が撤退したことにより、カルテア王女は王都テジンケリへの帰還を果たした。

キューロビア連邦は、ホン皇国より禁忌指定技術盗用の疑いで糾弾されたが、一切の関与を否定し続けた。

また、レッドテラ帝国との同盟についても否定し、その後、沈黙を貫いた。


キサ王国は、キューロビア連邦からの物資支援を受けて王国を再興した。

だが、荒廃が進んでいて、先々王の代のような国力に戻るのは数年はかかる見通しである。


レッドテラ帝国は大陸の覇権をかけて望んだ戦いの中で帝国最強戦力を失い、敗北に喫した。

実りのない遠征結果を受けて、国内の情勢が悪くなったという噂が流れてきた。



そして2年近くの月日が流れた。





第3大陸暦103年4月。

これまで静観に徹していたキューロビア連邦が沈黙を破り、キサ王国へ宣戦布告した。

時同じくして、帝国も同様にキサ王国とジューヴォ共和国を打倒すると発表した。

これに対し、キサ王国女王カルテアが敵国征伐の任をある男に与えた。

救国の英雄「黒腕のサオン」。

彼は「鋼砕きバタリオン」という唯一無二の愛剣を片手に1万の兵を引き連れて進軍した。


サオン将軍の下にはこの時代の英傑が結集している。

レッドテラ帝国作戦参謀長ジェイド・マクトリアス。

元レッドテラ帝国民で、操霊術師コンジャラーのニウ・コトン。

王国の圧政時代に反王国派だった攻守魔法兼備のリードマン姉妹。

元々は傭兵隊長だった王国軍大隊長ハイレゾ・フリュンゲル。

サオン将軍と同じ平民出身のミカ・エンドリはハイレゾ大隊長の下で中隊長として活躍している。

そして、サオン将軍に引けを取らない実力だと噂のある「銀髪の麗人」ユリヤル・シーカー。

他にも王国に留まり、サオン将軍を支援するホン皇国第6皇女メイメイ・リー・ローアン。


第3大陸暦103年6月。

黒腕のサオン率いる王国軍が活躍する物語が今、まさに始まろうとしていた……。











 ─ Fin ─




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