片付け
徒文
片付け
今日、友達がうちに遊びにくるらしい。
正直かなり面倒くさい。
もちろん友達が面倒くさいわけではない。友達が遊びにくるばっかりに、部屋を片付けなければならないのが面倒くさいのだ。
大好きなもの、だれかにもらったもの、押し付けられたもの、綺麗なもの、醜いもの、たくさんの
本当は片付けなんて面倒なことに労力を割きたくないけど、いつも通りのありのままの部屋なんて見せたら、ドン引きされるかからかわれるか縁を切られるのが目に見えている。
ある程度円滑に生きていくには、きちんと片付けるほかないのだ。致し方なし……。
まず、どう見ても人を不快にさせるだけのゴミやクズをまとめてゴミ箱に放り込む。
そして、ゴミ箱ごと奥の部屋へ。
次に、私にとってはきれいで大切で仕方がない、お花や宝石やなんの役にも立たないきらきらした置き物なんかにボロ布をかぶせる。
ボロ布で包みきれないものは奥の部屋へ。
気取っているとか、意識が高いとか、自分をよく見せようとしているのだと思われたらその瞬間に終わりだ。きれいすぎるものには、人は反感を持つものなのだ。たぶん。
ちなみに、おしゃれさや丁寧さを重視して選んだ家電もこの段階で奥の部屋に引っ込めておく。
もちろん家具も同様だ。
次に、まあべつに見た目にはこだわってませんけどね感のある、実用性重視の家電をこれでもかというほど整然と並べる。
おしゃれな抜け感やらインテリアに合わせた配置やらは必要ない。
ただし、とくによく使うであろう電子レンジあたりを、やや斜めにしておくのはアリだ。
こだわってませんけど感を演出できる。
次に、無難かつ、無難なものを選んだわけではありませんよ感は醸し出せる、明るめの色合いのシンプルな家具を無難に配置していく。
もちろんここでもおしゃれな抜け感やらインテリアに合わせた配置やらは必要ない。
次に、ほどほどに清潔感があってほどほどに安っぽい服を、ほどほどに生活感の出る場所にたたんで置いておく。
友達がきたら「あーごめんね、片付け忘れてた!」などと言いながらクローゼットに片付けるためのものだ。
そして、ぜったいに見せるわけにはいかない、どろどろした鉛みたいな汚れを徹底的に隠す。こればかりはすぐに落とすことはできないので、とにかく隠すしかない。
奥の部屋にしまえるものは奥の部屋へ。
どうにもならないものは仕方がないのでボロ布——ではなく、清潔な布で隠す。
醜いものを醜いもので隠したって、いつか隠しきれなくなるだけだ。ここはなるべくきれいなもので隠そう。香水なんかもふりまこう。
ほかがどんなに完璧でも、ここを見抜かれると途端に嫌われてしまうぞ。
さて、最後の仕上げだ。
いつもはリモコンにさわりもしない照明たちを、ぜんぶ最大限明るくする。
まぶしくて気が狂いそうになるほど明るく。
影すら見えなくなるくらい明るく。
とにかく、できるだけ明るく。
これで、ぜんぜん自分をよく見せようなんて考えてないし、気取ったものや意識の高いものには興味もないし、おしゃれとも贅沢とも無縁な人間の、なんならそこかしこにボロ布がぐしゃぐしゃと置かれた、とっても明るい家の完成!
ここまでやって、ようやく人を呼べるのだ。
あー疲れた。
片付け 徒文 @adahumi
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