醒波村取材記録~史上最強のサメ「サメちゃん」について~

冬野こおろぎ

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「コラム あの村この村」 


 第50回の今回は、ボリューム拡大。今、SNSで話題沸騰の醒波さめなみ村、その村長である鮫島海男氏との対談の様子をお送りいたします。



記者:本日は、貴重なお時間をいただきありがとうございます。

村長:いえいえ、よくこんな辺鄙な村に来てくださって。今回は、ウチの村の

   「サメちゃん」のことを記事にしていただけるそうで。

記者:今、SNSを中心に、厘具浦りんぐうらに「史上最強のサメ」が出没していると話題になっ   

   ておりますが、それについてお聞かせ願えればと……って、サメちゃんです

   か?

村長:多摩川に迷い込んだ、ゴマアザラシの「タマちゃん」が話題になったことがあ  

   るでしょう? 醒波村さめなみむらでも同じように、彼に「サメちゃん」と名前を付けてあ

   げることにしたのです。

   これをきっかけに村おこしになればとも考え、サメちゃんぬいぐるみや、

   サメちゃん抱き枕、サメちゃんコスプレ着ぐるみを制作しました。

   現在、醒波村のホームぺージから通販サイトにアクセスできますので、この

   機会にぜひごひいきに!

記者:ご紹介ありがとうございます。サメちゃんグッズ、よいですね。

   ※ホームページ等の情報は最後に掲載。ぜひご確認ください。



≪掲載写真1≫

 醒波村の村長の鮫島海男さん。まだまだ元気いっぱいの72歳。手に持つのは、

厘具浦にあらわれた「サメちゃん」のぬいぐるみ。

 45歳の頃より醒波村の村長を務める、醒波村名誉村長。現役の漁師でもあり、趣味はサメちゃん研究と筋トレ。座右の銘は、「夢は死ぬまで覚めやらず」。

 

≪厘具浦について≫

記者:まずは、厘具浦について教えていただけますか。

村長:村の西にある浦のことを、厘具浦といいます。ぐるりと崖が囲んでおりまし

   て、だだっ広いプールのようになった場所です。満月の日には、海面に満月が 

   照らし出されて、見事な水月が浮かびあがります。広い浜がありますので、一

   見するとビーチとして利用できそうでもありますが、水深は数歩進んだあたり

   から異様に深くなりますし、また、後でたっぷりと説明しますが、ものすごく

   血生臭い場所ですから、観光客の皆さまの浜への立ち入りは、固く禁止してお

   ります。ですが、南の崖には「厘具浦展望台」がありますので、そちらへは

   気兼ねなくお越しください。


〈掲載写真2〉

 現在の厘具浦の様子をドローンにて撮影したもの。

 険しい崖が椀のように広く周囲を囲っている。その形状は、どことなくローマの闘劇場「コロッセオ」を思わせる。

 また海面には、現在の主である史上最強のサメ「サメちゃん」の背びれが映っている。


記事:血生臭いと聞くと驚いてしまうのですが、それはサメちゃんが現れたからとい

   うことでしょうか。

村長:実は、サメちゃんが現れるずっと昔から血生臭い場所なのです。厘具浦には

   よく、他の海域から流れ着いてくるものがおるのですが、それらのせいです

   ね。

記者:厘具浦に流れ着くものというのは?

村長:本当に色々ですよ。一番多いのはサメですが、タコやイカ、ウツボとかもいま

   す。それもデカくて、元気でたくましい剛の者ばかり。いわば、危険生物で

   すね。海流の影響なのか、他に何かが影響しているのかは不明ですが、あきら

   かに普段、村で見ることのない生き物も流れてくるのです。

   村の者達は、流れ着いたものを「流れ者」と呼んでおります。ワシが若い頃

   は、厘具浦の流れ者を銛でとって食ったこともあります。


〈掲載写真3〉

 鮫島氏は醒波村一番の漁師であり、持ち前の前向きさで、若き日より村中の人々から人気を得ていた。

 写真は、鮫島氏(当時25歳)と漁師仲間達。彼らが抱えるのは、全長5メートルを超える巨大ウツボ。


記者:では、厘具浦に流れ着いた生物は、村の漁師の方々がとることが多いのです

   か。

村長:それは反対に、非常に少ないケースですね。村民が手を出す前に、流れ者同士

   で決着がつくことの方がはるかに多いです。

記者:流れ者同士とは?

村長:そのまんまの意味です。例として、サメが一匹、厘具浦に流れてくるとしま

   すよね。次に、新しく別のサメが一匹流れ着いてくる。するとどうなるか。

   喧嘩です。

   二匹が目を合わせた瞬間、いきなり喧嘩が始まるわけです。

記者:なるほど。その二匹が共存する例はないのですか?

村長:ワシが知る限りないですね。エサが無くて飢えとるのかもしれませんが、ワシ

   にはあれは縄張り争い……表現を変えれば、己の意地の突っ張り合いに思えま

   す。

   どのような理屈で喧嘩が始まるのかについては、流れ者に聞いてみるしかあり

   ませんが、それはともかくとして、厘具浦の中では半ば必然的に勝者と敗者が   

   決まるわけです。勝者は、次の挑戦者が流れ着いてくるまで、厘具浦の主とし  

   て留まるわけですね。

記者:そう聞くと、なんだかすごい場所ですね。決闘のリングのようです。血生臭い

   場所というのも納得ですが、いつからこのような場所になったかご存じです

   か?

村長:ずっとずっと、大昔からみたいですよ。文献によると、江戸時代には既にこの

   形に納まっていたようです。ワシの曾祖父は、子供の時に厘具浦で、巨大な

   マンボウとサメが戦っているのを見たと言っていました。その時は、マンボウ

   が勝ったらしいですが。

記者:へえ、マンボウがサメに勝てるものなんですね。

村長:きっとマンボウにも意地があったのでしょう。



≪厘具浦のサメちゃん≫


記者:では、今話題の「史上最強のサメ」のサメちゃんも、元々は厘具浦に流れ着い

   た、流れ者のサメだったのですね。

村長:その通りです。サメちゃんが厘具浦にやって来たのは、今から10年前のこと

   です。村の衆が、「村長。かつてない、いかつすぎるフカがおるぞ」と教えて

   くれたので、慌てて見物にいったのを覚えております。厘具浦展望台から覗い

    たのですが、あれは横にも縦にも明らかにデカい。体長は6メートルはある

    と思います。それが、もう一匹の流れ者と戦っておりました。

記者:サメちゃんは何と戦っていたのですか?

村長:イッカクです、クジラの仲間の。

記者:イッカクですか? あれは確か、北極あたりに生息する生き物ですよね。この  

   あたりに出るのはあまりにもおかしい気が……。

村長:厘具浦にはなんでも流れてきますからね。イッカクの参戦ぐらい、何もおかし

   いことではありません。

記者:戦いの結果は、サメちゃんが勝ったのですか。

村長:簡単に言ってしまえばそうなります。まず、仕掛けたのはイッカクの方でし

  た。イッカクが長い角(記者注:イッカクの角は、歯が鋭角化した牙である)

  を、サメちゃんの体に深々と突き刺したのです。しかし、凄いのはサメちゃんの

  方で、なんと全く痛がる素振りもなく、身体を大きくねじって、そのまま相手の

  角をねじ折ってしまった。そして驚くイッカクの首めがけて、ぐあっと噛み

  つきましてね。サメちゃんが上げるでかい水しぶきと、イッカクから噴出した煙

  のような血しぶきが、今もありありと思い出されます。

記者:壮絶なデビュー戦ですね。(笑)

村長:そうそう、まさにデビュー戦ですね。

   その後も、流れ者が厘具浦に現れるわけですが、それらを次々と倒していくん

   です。

   サメちゃんが他のサメを相手にするのは一度や二度ではありませんでしたし、

   映画で見るような巨大へビも退けたことがあります。

   巨大タコ・巨大イカとの三つ巴の死闘を制したのを見た時に、私はこう思いま

   したよ。

   このサメは、これまでのサメ達とは気合いが違うのだと。


≪掲載写真4≫

 巨大タコと巨大イカを相手に奮闘するサメちゃんの姿。サメちゃんの牙が、しっかりと巨大イカの頭部に食い込んでいる。写真をよく観察すると、サメちゃんに絡みつくタコの足は、ところどころ吸盤が崩れ、荒れたようにボロボロになっている。

 鮫島村長曰く、サメちゃんの強靭過ぎる鮫肌によって、絡みつくタコ足・イカ足はヤスリで削られるように、少しずつボロボロになってしまったのではないかとのこと。


≪サメちゃんVS陸の王者≫

記者:サメちゃんは、幾度も戦いを制した、厘具浦の主というわけですね。防衛戦を

   制するチャンピオンのようです。村長が思う、サメちゃんの一番の闘いとは     

   なんでしょう。

村長:巨大ライオンとの戦いですね。あれは色々な意味で忘れられません。

記者:えっ、巨大なライオン? 厘具浦って、陸上生物も流れ着いてくるんです

   か。

村長:厘具浦に流れ着いてくるものは、只者ではない剛の者ばかりですからね。

   ライオンも強者を求めるあまり、泳いで厘具浦にやって来たのでしょう。

   それだけの偉業、よほどの胆力でなければできません。

記者:人知を超えた胆力ですね……。

   そのライオンはどのような姿でしたか。

村長:全身傷だらけでしたが、たてがみは眩しいくらいの金色で、面構えもものすご

   くオラついている……まさに、王の中の王という貫禄でした。

   陸上生物の王様が、海の王様であるサメに立ち向かう。これは見ものだと、

   村の中はおおいに盛り上がりました。

記者:ですがライオンは、おそらく海から泳いで渡って来たのですよね。体力を完全

   に消耗しているでしょうし、最初からサメちゃんとは勝負にならなかったので

   は?

村長:サメちゃんは、突然現れたライオンを襲わなかったんですよ。ライオンが消耗

   しているのを察して、あえて見逃したのかもしれません。

   ライオンは浜から陸へ出て、村の近くでエサをとり始めました。

記者:えっ……。

   もしかして、巨大なライオンが一時的に村を徘徊していたということですか?     

   そのころの村は、大変危険な状況だったのでは?

村長:別に、危険でも無かったですよ。アレは賢いライオンでしたから、今、人と

   勝負しても勝てないと思ったのかもしれません。村民達も、ぜひ元気になって     

   欲しいと思い、手当や餌付けをやっておりました。そうこうする内に、ライオ

   ンの方も人に慣れてきましてね。

   まあ、よほどの悪人しか襲わなかったですし、村のもんを困らせていたヤンチ

   ャな巨大熊を、あのライオンが代わりに退治してくれたりもしました。村とし

   てはとても助かったくらいですよ。


≪掲載写真5≫

 村民と戯れる超巨大ライオンの姿。子供たちに背中を触れられて、陸の王者もすっかりリラックスした様子。

当時、醒波小学校の児童たちは、ライオンのことを「らいおん丸」と呼び、アイドルのように扱っていた。


≪掲載写真6≫

村長と村民に暖かく見送られ、最後の闘いにおもむくライオンの姿。

彼らに背を向け、厘具浦に向けて悠然と歩くその姿には、厘具浦到着時の衰弱した姿はどこにもなかった。


記者:ライオンは、村民との暮らしより、サメちゃんとの決闘を選んだわけですね。

村長:戦うために生まれてきたといいたげな顔でしたからね。平穏よりも闘争を求め

   ている……ならば、こうなるのは必然だったのでしょう。しばらくして、ライ

   オンは浜辺で、サメちゃんと対峙しました。

記者:こうしてサメちゃんとの戦いの火ぶたが切って落とされたわけですね。です

   が、海と陸、どちらも得意な場所が全く違いますが……。

村長:ワシらも、海と陸で睨み合いを続けるだけの、将棋で言う千日手になるかと

   思っていました。ですが、サメちゃんの行動は、ワシらの想像を超えていまし

   た。

   サメちゃんは、飛んだのです。

記者:飛んだのですか?

村長:サメちゃんは、やはりただのサメではなかったのです。そこらのサメとは、

   気合いも、そして根性の据わり方も違うのです。

   大きく口をくわっと開けて、身体ごと、陸で待ち構えるライオンに体当たりを

   仕掛けたのですよ。最初から捨て身、自ら陸に打ち上げられることになるのも

   いとわずにです。

記者:それはすごい。奇襲を受けたライオンはひとたまりも無かったでしょう。

村長:いいえ、ライオンも相当な手練れでした。

   突っ込んでくるサメちゃんにすぐさま反応し、横っ飛びに避けたのです。

   まるでネコのような俊敏さでした。

記者:さすがはネコ科動物ですね。ですが、サメちゃんが陸に打ち上げたのだとした

   ら、もうライオンの独壇場のようです。

村長:ですが、サメちゃんの鮫肌は厚くて鋭く、ライオンには手も足もでなかったの

   ですよ。爪で引っかいたり、噛んだりしていましたが、表面には傷すらついて

   いませんでした。

   ライオンが攻撃に手間どっている隙をつくように、サメちゃんの身体が跳ね 

   たのです。そして、ライオンの腹にがぶり。どくどくと血が湧きだしているの

   を見て、勝負が決したことを確信しました。

記者:これではもう助かりません。

村長:ちなみに、打ち上げられたサメちゃんですが、その後に潮が満ちてきて、浜が

   波に覆われたおかげで、サメちゃんは自力で水の中に戻ることが出来ました。

   サメちゃんは、最初から全てを計算してやってのけたのだと思うのは……ワシ

   の買いかぶりでしょうか。

記者:サメちゃんは強いだけではなくて、頭も良いのかもしれませんね。


≪掲載写真7≫

 厘具浦展望台に配置された、「サメちゃんVSライオン」記念像。

 宙からライオンに飛び掛かるサメちゃんと、大きく前足を上げて応じるライオンの

 姿をよく表現している。


≪村長、サメちゃんと対峙する≫

村長:実は、ワシもサメちゃんに挑んだことがあるのですよ。

記者:えっ、村長がサメちゃんと!? それはいくらなんでも……。

村長:こう見えてワシも、江戸っ子ならぬ醒めっ子ですからね。ああいうのを見せられると、我慢できませんよ。(記者注:醒波村では、度胸および根性のある気質を、「醒めっ子」という)

記者:そういう問題ではないような気がしますが。

村長:ちなみにワシ、サメちゃんとやる前に、海外遠征でホオジロザメや巨大シロ

   クマ、巨大トラを倒してますからね。

記者:おみそれしました。



≪掲載写真8≫

 鮫島村長宅に飾られた、全長5メートルに達する巨大シロクマのはく製。

北極大陸にて、鮫島村長が正面から銛で仕留めた。村長の胸には、その時に熊から受けた引っかき傷が残されている。



村長:そういうわけで、ワシも自信満々、銛を片手に素潜りで挑んだのです。

記者:戦いの結果はどうだったのです?

村長:ダメでした。まるで格が違う。サメちゃんはただ遊んどるだけだと思い知ら

   されました。

記者:……あっさりしていますね。具体的にはどのような戦いでした?

村長:そもそも、上手く近づけないのです。

   泳いでサメちゃんに近づこうとすると、巨大な尾であしらわれる。直接、尾で

   はたかれたりはしませんでしたが、水のうねり自体が海流となって、ワシの

   身体を強く押し戻します。ですから、何度泳いでも近づけない。一度、何とか

   銛をサメちゃんに刺す機会に恵まれましたが、簡単に弾かれてしまって。

記者:襲われはしませんでしたか?

村長:文字通り、サメちゃんの歯牙にもかからなかったのです。

記者:助かっただけすごいと思います。

村長:ですが、サメちゃんに相手として見てもらえなかったということですからね。

   くやしさだけが残っていますよ。

記者:いつか、サメちゃんにリベンジされるおつもりですか?

村長:実は現在、サメちゃんに挑むため、水泳特化の肉体改造に励んでいるところ

   です。あと、水流に巻き込まれないよう、水の動きの予兆を体で感じとる訓練

   等を取り入れています。まず、近づかなければ、話にならないですからね。

   そして知識面では、海外のサメハンターの皆さんの協力を得つつ、サメの弱点

   を研究しています。人間が誇る最高の武器、それは頭脳ですからね。

   打倒サメちゃん。

   それがワシの生きがいですね(笑)

記者:ぜひ頑張ってください。本日は貴重なお話、ありがとうございました。

村長:こちらこそ、ありがとうございました。



サメちゃんをモデルに制作された映画〈流れし者の挽歌~リングの王者サメちゃん~〉(配給会社:東影)は、全国の映画館で絶賛上映中です。


また、醒波村ホームページはこちら――


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醒波村取材記録~史上最強のサメ「サメちゃん」について~ 冬野こおろぎ @nakid

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