第5話 2度目の高校生活の始まり
「ねえ、クラス何組だった?」
落ち着かない様子で髪をくるくるいじりながらそう聞いてくる彼女だったが、その期待が打ち砕かれることを俺は既に知っている
「俺はAだけど…」
「え? あ、ふーん、そうなんだ…私はC組だけど、陰キャのアキと違ってクラスに誰一人知り合いがいなくても3日もすれば上手く馴染めるから」
「それは心配してない。ま、俺はぼっちなりに楽しむわ」
「ちょっと!!少しは残念そうにしなさいよ。アキが今、内心あたしと同じクラスになれなかったの超悲しがってるのバレバレなんだからね。」
「いやぼっちには慣れてるし」
「そんなこと言っちゃてさ。これはただの憐れみだから勘違いしないで欲しいけど、ボッチなアキがかわいそうだから本当に仕方なく、仕方なくだけど!! 呼んでくれれば昼ご飯くらい一緒に食べてあげてもいいわよ…」
「俺は食堂で一人でかけうどん食ってるからいいですー」
「は?せっかくの私の好意を何だと思ってるの?もうアキなんて嫌いなんだから べーっ」
そうしてあかねは歩くスピードを上げてスタスタと一人先へ歩いてしまった。あかねの感情はジェットコースターなんだろうか
だが先に行ってくれて助かったと思っている。照れ隠しをするためにこのままそっけない態度を取り続けるのは正直、心が痛む。自分で言うのもおこがましいが1度目の高校生活で全てを知ってしまったので俺はあかねの好意に気づいている。だが、自分には彼女の隣に並んで一緒に歩いていけるほどの素質はない。もう一度チャンスが巡ってきたとはいえ、俺は何をすればあかねの隣に立てるほどの人間になれるのだろうか
そうして下を向きながらこれからのことを考えて歩いていると、一枚の桜の花びらが頬を掠める感覚があった
前を向くと両手の桜並木の先に見えたそれは今から俺が3年間通う花丘東高校だった
第75回花丘東高校入学式と書かれた立て看板、息子の晴れ舞台をカメラに収める親の姿、採寸をミスったのか明らかにぶかぶかの制服に身を包んで辺りを困惑の表情で見回している新入生、白い歯を見せて楽しそうに笑い合っている陽キャ、校門前でもう部活動紹介のチラシを配っているやる気のある在校生
「ああ、俺の高校生活が本当に始まるんだな」
二度目とはいえ、高校生という人生最大の青春を迎える瞬間はやはり新鮮に感じる
そうして俺は柔和な笑みを浮かべながら軽い足取りで校門をくぐっていった
花丘東高校とは偏差値が高いわけでもなければスポーツに強いわけでもない、いわば普通の高校だ。他の高校と違って珍しい点を挙げるとするなら校庭がデカいことだ。普通の高校だと一周200M~250Mが普通だと思うが、うちの高校は何と400Mもある。これは試合本番の陸上競技場と同じサイズであり、本番を意識した練習をすることができる
だが自分がこの高校を選んだのは家から歩いて通えるという利便性だけであり、陸上部に入ったのも何となくの成り行きだ
直接入学式の会場の体育館に行くわけでなく教室で待機してからということなので事前に学校から送られてきたメールを確認し、自分のクラスである1―Aへと向かった。残念ながらあかねとは別のクラスなのでぼっち状態だ
入学初日から隣りの人に話しかけて仲良くできるほどの気概はないので結局スマホをいじって待つことになった
ひとつ言っておきたいのだが自分は充実していた1度目の高校生活でも陽キャだったわけではない。たまたま部活の人間関係に恵まれていただけだ。誰彼構わず話しかけるようなおしゃべり好きな陽キャでもなければ、クラスを盛り上げるムードメーカー的な存在でもなく、何人か部活の仲のいい友達がクラスにいて他の人とは事務的なことがなければ関わることがないような陰キャ寄りの普通の生徒だった。高校まではそのスタンスでもなんとか馴染めていたのだが、大学という毎日同じ人と会うわけでもなく、広く浅い人間関係が一般的とされている場所において自分のボロが出てしまい、落ちぶれてしまったというわけだ
2度目の高校生活なのに何をやっているんだろうと思いながら、気まずさを隠すようにTwitterのホーム画面を延々とスクロールし続けていると、画面上部にピロンっという音と共に通知が表示された。ソシャゲの通知だと思っていつものように軽く見ただけでスワイプしようと思ったが、よく見るとダウンロードした覚えのないアプリの通知だった
「ダウンロード完了。今すぐこのアプリを起動してください」
「え??」
何もインストールした覚えがないのにいきなり表示されたアプリのダウンロード完了通知に思わず声が出てしまったが、幸い周りはガヤガヤしてたので自分が小さな声で驚いたところで周りに知られることはなかった
明らかに怪しいウイルスの類のようなものだと分かっていたが、なぜかそれを押さなければならないという強迫観念にとらわれて誤って指示通り通知をタップしてアプリを起動しまい、アプリを終了しようと必死にスワイプしたり、電源ボタンを押したのだがその画面は消えることがなかった
そうして諦めて画面が変わるのを待っていると何やら文字が表示された
「Blue missionへようこそ。事前に説明があった通り、あなたにはこれからミッションを行ってもらいます。これからあなたには不定期にミッションが課せられ、それを達成し、青春という授業の一環として人間的にレベルアップしてもらいます。ミッションを行う際のルールは以下の通りです」
そうしてバーッとミッションのルールが羅列された
ルール説明
・ミッションの内容は1日で達成できるものもあれば数週間かけないと達成できないものまで様々であり、いずれのミッションも期限が設定されていてそれまでに達成出来なかった場合、そのミッションは失敗したことになり、失敗カウントが1増加する
・失敗カウントが3になった場合、ゲームオーバーとなる。ゲームオーバーになった場合、強制的にその時点から4年後の世界へと強制的にタイムリープする。ただし、1回成功するごとに失敗カウントは0になる。例えば、2回連続でミッションに失敗しても次に成功すれば失敗カウントがまた0に戻る
・ミッションが発表されるのは不定期で決まった曜日に通知されるわけではないが、その日に発表がある場合、朝7時に通知が送られる。その通知が表示されてから4時間以内にアプリを起動しない場合、そのミッションは失敗したことになる
・ミッションの難易度ごとに経験値が異なり、レベルアップに繋がる
・レベルアップによる直接的な報酬はないが、人間的な成長に繋がる
・どんな理由があろうとミッションを拒否することはできない
・これは第一段階のルールであり、一定のレベルを超えて第二段階に入るとこれらのルールに新たなルールが追加される他、一部のルールが改変される
・2学期に入るまでに第二段階に突入できない場合、ゲームオーバーとなる
・このミッションの存在を自分以外の人間に確証をもって知られた場合、失敗カウントが2に変化して(その前の時点で失敗カウントが2だった場合はそのまま)2未満に減少することがなくなり、それ以降に成功したとしても失敗カウントは0に戻らず、失敗すればゲームオーバーとなる
・このミッションの存在を自分以外の2人以上の人間に知られた場合、その時点でゲームオーバーとなる
タイムリープする前の現代で青凪俊教授からミッションの存在は何となく聞いていたが、これだけ一気に説明されるとやはり混乱する。やたらとゲームオーバーが強調されててなんか怖い
「ルール説明は以上です。このルールはアプリを開けば常時確認できる状態になっているのでご自由に活用してください。それでは良い高校生活を…」
そうして強制的にアプリが終了した
とりあえずもう1度アプリを開き、ルールの欄をタップして再度読み直し、頭の中で整理することにした
3回連続で失敗するとゲームオーバーになることは知っていたが、それ以外にもゲームオーバーの条件が増えている。
(2学期までに第二段階突入しないとゲームオーバーってどんくらいレベルを上げれば突入できんだよー!あと2人以上にバレたら終わりって条件厳しすぎないか?)
正直このルールだけじゃ不明点が多すぎるので実践してちゃんと確かめる必要がありそうだ
そうしてため息をついてると号令がかかり、体育館へ移動することになった
当たり前のことだが、2度目の入学式もお偉いさんの長話を聞かされるだけで何も面白くなかった。まあでもこれも良い
入学式が終わり、解散となったが現時点で新しい友達はいないので一人で帰ることになった。あかねと一緒に帰ろうと思ってラインを起動しかけたが、あかねは俺と違ってもう10人くらい友達作ってそうだし、帰りに新しく出来た友達とカフェでお茶会でもするんだろうなと思い、彼女の邪魔をしないようにラインの画面を閉じて一人で下校した
その夜あかねから「なんで一緒に帰ろうって誘ってくんなかったの!!!!」と怒りの電話がかかってきたが、もうどうすればいいのか分からなかった
これも青春ハプニングとしてやがて日常になっていくんだろうとしみじみ思いながら部屋の電気を消してベッドにつく。
だが、一つの違和感が俺の睡眠を妨げようとしてきた
一度目の高校生活と違ってなにかがおかしくないか?
普通に考えて当たり前だ。1度目と違ってBlue missionという謎の課題をクリアしなければいけない事態になったし、1度目の高校生活の記憶を持ったまま行動しているんだからそりゃ自分の行動にも無意識に変化が起きるはずだ。だがそれとは違う何かがある気がして…
「ふあぁ〜」
そんな疑問も身体の疲労と眠気を前にしては無力であり、体感2分もしないうちに俺は夢の世界へと入り込んでいった…
そして朝7時、最初のミッションの内容が発表される
「ミッション:友達を1人作れ レベル1」
青春再履修 シャノル @kagenoyuki
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