ACT 11
長の声は嬉しさのあまり、
「陸棲人。おまえは自分のためにジョーカーを使ったつもりだろうが、それは、わしら水棲人のためだった。これからおまえたちは、海水を失ったことによる、重力場異常や気象異常で苦しむだろう。もうおまえたちに未来はない。惑星リウの『ジ・エンド』に向かって、滅びの道を歩いていくがいい」
老人の声が途切れた。
セイの目の前で上昇する海水の中に、無数の白い影が揺らめいていた。そのどれもが、宇宙に向かって両手を差し出し、喜びにキラキラと輝いていた。
鈴のような音。
残響を残して
大合唱となり、セイの耳に押し寄せた。
セイは物体と化したリューの隣りに膝をついて空を見上げた。
宇宙へ向かう海水の柱の中で、
「セレステ。太古の陸棲人たちが、
セイはどんどんと海底が見え始めている、かつての海を見まわした。
「俺は……。俺は、どこで間違えた? 水棲人達を追い出したかっただけだ。それしか考えなかった。俺がジョーカーの使い方を間違えた? 『ラスト・チャンス』の意味を間違えた? リューは『エンド・ファイル』と呼ばれる最重要機密だった。陸棲人の『最終兵器』だからだ。俺は確かに、惑星リウを陸棲人のものにするために、使ったはずなんだ」
セイは何かに憑りつかれたように、ブツブツと呟き続けていた。
「それなのに……。どこで間違えた? 俺は陸棲人の……惑星リュウの……『ジ・エンド』のためにジョーカーを使ってしまった? 俺は神に祟られたのか? 神の力の使い方を間違え、怒りを受けてるというのか?」
海水は、セイの呟きを消すほどの轟音を立てながら、上昇を続けていた。
数えきれないほどの水棲人たちが、海水をシェルターにして、はるか上空、おそらく成層圏すらも飛び越えて宇宙空間へと旅立っているのだろう。
その姿を見て、セイはやっと完全に理解した。
かつての水棲人たちは、やがてシェルターである海水からも離脱し、暗黒空間を生息地にするのだろう。
「そういうことだったのか……。水棲人は一つの星に留まれないほどに、進化していたというわけだ。逆に大地の束縛から逃れられない俺たち陸棲人は、これから滅びの唄を歌いながら終焉へと向かう。俺にはわかる。惑星リウが崩壊する時、彼らは『
セイはリューの死体を膝に乗せて顔を見つめた。切り札としてではなく、一人の少女の顔を。
「愛らしい顔立ちの少女だったんだな。それなのにおまえはジョーカーだった。惑星リウに存在した、唯一無二の『ジョーカー』。けっして誰も、おまえを『エース』にしようとは考えなかった。殺した俺が言う言葉じゃないが、なんと哀れな子だったんだろうか。誰もがカードとしてしか見てなかった」
セイは空を見上げて、大量の息とともに声を発した。
「リュー! せめて
セイはリューの身体を抱きあげ、上昇し続ける海に向かって歩き出した。
(了)
最後の波が寄せる時 柊 あると @soraoda
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