4品目 いちご大福

日中は随分暖かくなった。

朝は着ていた上着を下校時いまは脱ぎ、手に持ってブンブンと振り回す望果みかはご機嫌だ。


「いてっ! おまえ、振り回すなよ」

「あ、ごめーん」


あんまり悪いと思ってなさそうな望果を睨んで、大翔ヒロトが唇を突き出す。


「またおやつを想像してニヤニヤしてんだろ?」

「当たり!」

「今日は何だ?」

「分かんない。いちごの何かだと思うんだけどな〜」

「ショートケーキじゃね?」

「それ大翔が食べたいだけでしょ!」


「後で教えろよ!」と言われて、曲がり角で大翔と別れる。

水曜日は公園で遊ぶ日だから、後で答え合わせだ。




昨日、母さんはスーパーでいちごを買って来ていた。

旬の名残りのこの時期、産直コーナーには、小振りなものやジャム用のものが多く並ぶ。

それが狙い目とばかりに、母さんは毎年買って来て、美味しいおやつにしてくれるのだった。


去年も色々食べたけど、今年はどんなおやつに変身するのかな。

いちごの可能性は無限大!


ワクワクして、望果は玄関の扉を開ける。


「お母さん、今日のおやつは!?」




「『ただいま』!」

「たっ、ただいまっ!」

「はい、おかえり」


毎度「ただいま」を忘れる望果に、母さんは先手を打ってきた。

そして、白くて丸いものが四つ乗った大皿を見せた。


「いちご大福!」

「ふふ、こしあん仕様よ」

「やった!」


望果は手を叩いて、急いで荷物を置きに二階へ走った。




母さん以外の家族はこしあん派なので、最中もなかやお饅頭まんじゅうを買ってくる時は、大体こしあんの物を買って来てくれる。

しかし、手作りの場合は「作る人に権限があるの!」と言って、大体粒あんを使うのが母さんだ。

こしあんのいちご大福、嬉しい!




手洗いうがいを済ませ、期待を込めて居間に戻れば、テーブルの上には、大皿から小皿に移動したいちご大福が一つ。


粉をまとった白い餅の奥に、いちごの赤とこしあんの薄墨色が薄っすらと滲んで見えるのが、なんとも奥ゆかしい。

まるで小さなお姫様が、ちょこんと座っていらっしゃるようで、望果は思わずそそっと座布団の上に正座をした。

背筋を伸ばして手を合わせる。


「いただきます」


両手で持ち上げ、アルミカップを外して大きくガブリ。


途端に溢れ出すのは、いちごの甘酸っぱい果汁と、明るく華やかな香りだ。

白玉粉で作った餅は、まぶされた粉のおかげで歯切れよく、口の中では潰れたいちごと柔らかく混ざり合う。

一緒に口の中に入るこしあんは、つぶあんと違って食感を主張しないので、いちごと餅を上手にまとめ上げる素晴らしい役回り!


ん?

いちご大福って、いちごと餅とあんこ、どれが主役かな?


そんなことを考えながら、もう一口。



最近は、大福に切り目を入れていちごを乗せるタイプのいちご大福をよく見るけれど、やっぱりこうして、いちごとあんこを餅ですっかり包んだタイプのものが最高に美味しいと、望果は思う。

なぜなら、いちごの素敵な香りがあんこに移り、一体感を増した大福に変化するから!


白あんのいちご大福も好きだけど、一番好きなのはやっぱりこしあんのもの。

白あんでは、いちごあんみたいな風味になるけれど、こしあんだと、いちごの香りはまとっても、ちゃんと小豆の風味がなくならない。


私の大好きなこしあんって、すごくない!?



「んふふ〜」

「なあに、幸せそう」


笑って母さんが渡してくれたのは、微温ぬるめの緑茶だ。


望果が猫舌なのもあるが、いちご大福には微温めのお茶が合うから。

熱くても冷たくても、緑茶の香りがいちごの香りとぶつかり合ってしまう。

微温めの柔らかさが、繊細で甘やかないちご大福を、まあるく迎えてくれるように感じるのだ。


まあ、母さんは熱いのを飲んでるけどね。



「美味しかった! ごちそうさま」


最後まで行儀よく手を合わせれば、大皿に乗った家族用のいちご大福お姫様がニッコリ笑ったように見えた。




玄関に向かう望果を、「残りのいちごはジャムにするからね」という母さんの声が追いかけて来た。


ええー!

もう次のおやつに期待しちゃうよ!?




 □ □ □


「いちご大福って作れるんだ?」と思われた方の為に、レンジで作れる簡単な求肥のレシピを近況ノートに書きました。

作ってみたい!と思われる方は、是非ともチャレンジしてオリジナル大福をお楽しみ下さいませ!

https://kakuyomu.jp/users/karamitu/news/16818093077260480292

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