5品目 コーンフレーククッキー

ゴールデンウィークが終わって、なんだかだるい五月半ば。

……なんて大人は言ってるけど、ピカーンと天気がいい日が続くと、とっても気持ちがいい。


望果みかは鼻歌交じりに、通学路の脇に広がる畑を見る。

うねに並んだ野菜の上を、ヒラヒラと踊るモンシロチョウ達を見ると楽しくなるし、日没が遅くなってきたから、夕方までゆっくり外で遊べるのも嬉しい。



そう、今日は水曜日。

公園に集合の日だ。



「じゃあ後でな!」

「オッケー!」


友達の大翔ヒロトが手を振って角を曲がる。

望果も手を振り返しながら、今日こそは「ただいま」を忘れないようにしなくちゃ!と心構えをして駆け出した。


水曜日はついつい「ただいま」を忘れてしまいがち。

母さんの手作りおやつが待っているから、ワクワクしてたまらないのだ。





家の側まで帰ると、まだ玄関を開けてもいないのに、何とも言えない明るく香ばしい香りが外まで広がっていて、望果は思わず顔を輝かせた。

通りがかりのおじさんも、スンスンと鼻を動かしてこちらを振り向く。


いいでしょう!?

今日は間違いなくクッキーだよ!


そう思いつつ、母さんの手作りクッキーの数あるレシピが頭の中を駆け巡る。

今日は一体どれだろう!?


「お母さん、今日のおやつは!?」




台所に駆け込んだ途端に、母さんの低い声が響いた。


「み〜〜か〜〜ちゃ〜〜ん?」

「ちがっ、間違えた! “ただいま”だよっ!」

「もう、何を間違えたんだか」


呆れて笑いながら、母さんが皿に積み重ねたクッキーを見せた。


「コーンフレーククッキーよ」

「待ってました!」




カラッと晴れた日に食べたくなる、香ばしいクッキー。

ウキウキとしながら、望果は荷物を置き、急いで手洗いうがいを終える。


居間に戻れば、テーブルの上にはゴツゴツとした大きなクッキーが重ねて盛られ、望果が戻るのを待っていた。

望果は急いで座って手を合わせる。


「いただきます」



掴み取ったクッキーは、こんがり小麦色で平べったく、一枚が両手の人差し指と親指で丸を作ったくらいに大きい、いわゆるアメリカンクッキータイプ。

表面にこれでもかと浮き出たコーンフレークが、ゴツゴツの正体だ。


大きく口を開けて齧り付けば、サクッとした生地に、ザクザクとしたコーンフレークの歯ごたえがなんとも軽快だ。

そこに加わるのが、ネチッとした食感のレーズン。

この食感の違いを同時に楽しめるのが、このクッキーの醍醐味なのだ。



あれ?

チョコの味もする!


「お母さん、今日はチョコ入れた?」

「そうなの。この前チョコレートケーキ作った時にちょっと残ったから、入れちゃった」


うふふと母さんが笑う。



このコーンフレーククッキーのすごい所はここだ!

今日みたいにチョコを入れたり、細かくしたマシュマロや、アーモンドスライスなど、その時に半端に余っている材料を足して進化するのだ!


同じコーンフレーククッキーであって、常に全く同じではない!

まさに、びっくり箱クッキー!


……まあ、全く同じものが食べたくても食べられない切なさもあるんだけど。




ザクザクといい音を立てる望果に、母さんは飲み物の入ったコップを渡してくれる。

このクッキーに合わせるのは、コーヒー牛乳。

それも、紙パックで売っている市販の甘いのがいい。

なぜなら、このクッキーは甘みが少ないから。


基本の生地は、牛乳、サラダ油、ホットケーキミックスだけ。

そこにたっぷりのコーンフレークを入れるのだが、それもシュガーレスのもの。

ほんのりとした生地の甘みに、レーズンの濃い甘さが少しだけ。

甘さよりも際立つ香ばしさが、このクッキーの何よりの美味しさなのだ。


そこに甘いコーヒー牛乳が、合う、合う!


ザクザクとしっかり噛みしめて、コップに残ったコーヒー牛乳で流し込むと、望果は満足感にふーと息を吐いた。


「ごちそうさまでした!」





玄関で靴を履きながら、望果はまだ家中に漂う香ばしい香りを吸い込む。


ああ!

やっぱり、あと一枚食べておけば良かったかも!



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