6品目 フルーツゼリー

最近少しずつ暑くなってきた。

しかも、ここ数日は雨が降ったりんだりしてスッキリしない感じ。

今日も午前中はザーザー降っていたが、今は止みかけている。


望果みかは傘を傾けて空を見上げた。


雨は止みそうだけど、まだ空はどんよりだ。

ムシムシ、ジメジメ……。

もう梅雨が来るのかなぁ。


雨も嫌いというわけではないけれど、今日みたいに水曜日に降るのは勘弁してほしい。

せっかく公園で遊べる日だったのに!



「じゃあ、また明日な」

「うん、バイバイ」


友達の大翔ヒロトと、なんとなくだるい挨拶を交わし、望果は家へ向かう。




外で遊べないのは残念だけど、今日は母さんのおやつの日。

気分を切り替えて、元気に帰ろう!

おっと、落ち着いて。

今日はちゃんと「ただいま」を言うもんね。


望果は行儀よく玄関の扉を開けた。


「ただいま」



し―――ん。



何の反応もなければ、美味しい匂いが少しもしない。

急いで台所に行っても、おやつらしいものは見当たらない。


あれ? 私、曜日間違えてないよね?


誰かが階段を降りる音と共に、「望果、帰ったの?」と母さんの声が聞こえて、望果は振り返った。


「お母さん、今日のおやつは!?」

「も〜! “ただいま”は!?」

「え〜、言ったよ! 言ったもん!」

「ええ〜?」




ちゃんと言った時に限って聞いてないなんて!と憤慨しつつ、望果は部屋に荷物を置いて、手洗いとうがいを済ませた。


こんな日は、めっちゃ美味しいおやつじゃなきゃ許せないんだからね!


そう思って居間に戻った望果は、キラキラと輝く美しい宝石のようなおやつを見て声を上げた。


「フルーツゼリーだ!」



数種類の缶詰フルーツで作るフルーツゼリー。

そうか、今日は匂いがしなかったわけだ。 

望果はそそくさと席について手を合わせた。


「いただきます」


大きめのスプーンを手にして、まずひとすくい。

スプーンに乗ったのは、ふるるんと揺れる透き通ったゼリーに、白桃とみかん。

光まで閉じ込めたような塊をパクリといけば、柔らかく崩れるゼリーと甘い缶詰の果物が合わさって、お口の中はパラダイスだ!



暑い夏に食べてももちろん美味しいゼリーだが、氷のようにキンキンに冷えていない優しい冷たさが、ムシムシ、ジメジメしたこの時期にとてもよく合う。

定番のフルーツは白桃、みかん、パイナップル、時々黄桃も。

お!?

今日はさくらんぼも入っていて、気分も上がるね!


缶詰の甘さ、レモン汁が入ったゼリーのちょっぴりの酸味。

これを食べると爽やかな気分になるのは当然と言えよう!

望果はご満悦でもう一口。



母さんのフルーツゼリーはアガーで作るから、ゼリー部分の柔らかさと、そこに閉じ込められたフルーツ達との一体感は格別だ。

ゼリーを寒天で作れば、スプーンを入れた時にフルーツが離れてしまい、一体感が感じられない。

かと言ってゼラチンで作れば、ゼリーがフルーツに絡みつきすぎて、全てが一緒くたになってしまう。


アガーで作ったものが、ゼリーの柔らかさと口溶けを感じつつ、個々のフルーツの食感と風味を損なわない、最高のフルーツゼリーだと望果は思っている。

そして何より、このキラッキラの透明感もいいよね!



バナナがあるときは、スライスして上に数切れ乗せるのもいい。

缶詰フルーツと一緒に混ぜてしまうと、全体にバナナの匂いが移ってしまうし、時間が経つと色が変わるので、食べる直前に上に乗せるのがベター。

バナナ好きの望果がよくやる食べ方だ。


「あ、今日はバナナないからね」

「はーい」


ちょっぴり残念だけど、今日はさくらんぼが入ってるからね!



さくらんぼをスプーンに乗せて眺める望果に笑いながら、母さんがグラスを渡してくれた。


今日の飲み物は水出しのアイスティー。

それも、冷蔵庫で冷えただけのストレート。

氷を入れたらゼリーと温度差が出来ちゃうから、入れないのが望果流だ。

水出しのアイスティーは渋みが少ないから、爽やかなフルーツゼリーの味を邪魔しないのがいい。


お兄ちゃんはレモンティーの方が合うって言うけど、私は断然ストレートだなぁ。

そう思いつつ、最後の一口分を大事に掬って食べ、望果はスプーンを置いた。


「ごちそうさまでした!」




晴れやかな気持ちになったところで、母さんが窓の外を見ながら手招きした。


「あ、虹だ!」


色とりどりの美味しいフルーツゼリー、雨上がりに虹まで呼び寄せちゃった?

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