3品目 ポップコーン

今日は昼過ぎから雨が降り出した。 

せっかくの水曜日なのに、お楽しみの公園も、今日ばかりはガマンしなければならない。



がっかりした気持ちを浮き立たせてくれるのは、お楽しみのおやつ!

その期待と共に玄関を開けた望果みかだったが、いつものようなワクワクする香りが漂ってこないことに首をひねった。

匂いがない時のおやつは冷菓が多いが、今日は少し肌寒いのだけれど?


濡れた靴をポイポイと脱ぎ捨てて、一直線に台所へ。


「お母さん、今日のおやつは!?」




台所に入った途端、フライパンを持つ母さんの顔を見て、望果は急いで「ただいま」を付け足した。

そして、台の上に置かれた乾燥コーンの黄色い粒を見て、パッと顔を輝かせる。


「ポップコーンだ!」

「おかえり。久しぶりにどうかしらと思って」

「やった! キャラメル味にしてね!」

「全部?」

「う〜ん……、半分はのり塩で!」



ポップコーンは専用のコーンさえ買っておけば、食べたい時にいつでも簡単に出来て、しかも出来立てはとても美味しい。

味付けだって自由自在だ。


家で作りたてを食べてしまえば、「映画館や遊園地で高いお金を出して食べるなんて、馬鹿らしくなっちゃうわ」と母さんは言う。

遊園地に行ったら、それはそれで食べたくなると思うけど…と望果は思うが、まあ、そこは母さんの意見を立てて、ウンウンと頷いておくのだ。


 


望果が荷物を置いて、手洗いうがいを済ませて戻ると、母さんはフライパンにマーガリンを敷いたところだった。


普段のおやつに、母さんはバターを使わない。

油脂はマーガリンやサラダ油。

バターは高い!ということもあるが、“常備している材料で出来て、あっさりと重くないもの”が原則のおやつは、バターでない方が良いのだとか。


マーガリンの上にコーンの粒を散らし、蓋をして火を点ける。

待つことしばし。

ポン!と小さな破裂音が聞こえると、続けてポン!ポン!と賑やかに音を響かせて、フライパンの中でコーンが弾け飛ぶ。

この楽しくも騒々しい音と共に、香ばしく温かなポップコーンの香りが台所に広がると、望果の胸も弾む。



全て弾け終わると、フライパンはポップコーンで満タンだ。


そこから半量を塩と青のりを入れたビニール袋に入れて、母さんは望果に手渡した。

熱々のポップコーンを香りごと閉じ込めて、望果は両手でシャカシャカと袋を振る。

あっという間に青のりがまぶされたポップコーンは、袋を開ければふわりと海苔の香りを広げた。



のり塩味を作っている間に、フライパンでは溶けた砂糖が甘い甘い香りと共に、グツグツと恐ろしい音を立て始めた。


この甘い匂いに釣られて近寄ってはならない。

色付いた砂糖にコーヒーフレッシュを入れる時、マグマのように煮え立った熱い飛沫しぶきが散るのだ。


怖い!

でも早く食べたいっ!


そんな望果の期待を背負い、母さんは果敢にもコーヒーフレッシュを流し込む。

ジュワワン!という音にもひるまず、手早くキャラメルを仕上げると、残してあったポップコーンを入れて手早く絡める。

ああ、うちの母さん、なんて勇敢なんだ!





お皿に盛られた二色のポップコーン。


「さあ、どうぞ」

「いただきまーす!」


まず口に入れたのは、出来立てキャラメル味だ。

カリッとした表面に歯を立てれば、サクッと小気味よくポップコーンは割れる。

濃く甘いキャラメルは、あと引く美味しさだ。

いくつも頬張って口の中が甘さで満ちた頃、のり塩味に手を伸ばす。

濃い海藻の風味が鼻に抜け、程よい塩気が口の中に残った甘さを消してゆく。


ここで合わせるのは、キリッと冷えた炭酸水。

炭酸のシュワシュワとした清涼感が、二種の濃い風味をサラリと流してくれる。

甘いジュースを合せるなんて、お子ちゃまのすることだ、と望果は一人得意顔。

この炭酸水で口中をリセットすると、甘い、辛いを無限ループ出来てしまうのだ!



「望果、お兄ちゃんにも残しておいてよ」

「わ、分かってるよ」


危ない、危ない。

無限ループの罠にハマるところだった。

望果はあと一口だけ、とキャラメル味で締める。


今度はコンソメ味とココアシュガーがいいなぁ。

それもとカレー味?

そんなことを考えながら、いつの間にか浮き立った気持ちで、望果は両手をパンッと合わせた。


「ごちそうさま!」


雨の日のおやつも、大満足だ。

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