2品目 バナナケーキ

望果みか、なんか今日機嫌いいよな」

「あれ? 分かっちゃった?」


下校中に友達の大翔ヒロトに言われて、望果は上機嫌で答えた。

続けて「なになに? 何で?」と聞かれると、「ナイショ!」と答えて曲がり角で別れる。


「公園! 早く来いよーっ!」


大声が背中から追い掛けて来たが、振り向かずに手を降ってダッシュだ。

答えなくったって、公園に集合は毎週水曜のお約束なんだから、大丈夫、大丈夫。





今日のおやつを予想して、望果はニンマリしながら駆ける。

今朝台所で、を見た。

予想的中なら、今日のおやつは望果の大好きなあのケーキ!


望果は勢い良く玄関の扉を開ける。

同時に、ふわ~りと家の中から溢れ出てきた甘い甘い香りを、鼻から大きく吸い込んだ。


「お母さん、今日のおやつは!?」




台所に駆け込んだ途端に母さんがジロリと睨んだので、望果は急いで「ただいま!」と言って側に寄った。


「はい、おかえり。今日も公園に行くの?」

「もちろん。でも、バナナケーキ食べてからね!」


答えながら望果が目を輝かせて見つめるのは、ケーキクーラーの中央に乗った、四角いスクエアのバナナケーキ。

予想は的中だ。


熟れすぎたバナナを使って作るこのケーキは、バナナが大好きな望果の大好物。

これを作る為、母さんはバナナを買ってきたら、皮が黒い斑点で覆われるまで、わざと二本放置しておくのだった。




荷物を置いて手洗いうがいを終える頃には、居間のテーブルには、これまた四角くカットされたバナナケーキが二切れ、小皿の上にちょこんと乗せられている。


「いただきまーす!」


望果は、手掴みでケーキをかじった。

しっかりと焼き色の付いた表面は、焼き上がってから一時間程度の今は、サックリとしていて香ばしい。

まだ微温ぬるい程度の温かさを持った生地は、濃く甘いバナナの香りを口の中に広げる。


“パンとバナナケーキは、冷めたてが一番美味しい”とは、母さんの言葉だ。

パンの焼き立てはイーストの香りが強く、バナナケーキの焼き立ては、バナナのエグさが匂いに混ざる。

程よく熱が逃げた“冷めたて”が、最高の香りを一緒に口に入れられる美味しい瞬間なのだとか。


望果も、食べ頃の温度が一番良いとは思っている。

なにせ、手で持っても熱くないし、せっかちの望果でも口の中をヤケドしない。

ここ重要だ!



一つ目を急いで平らげてしまったので、二つ目はゆっくり目に味わう。


かじると、ねっとりとしたバナナの塊が出てきて、望果の頬は思わず緩む。

母さんのバナナケーキは、バナナをフォークの背で粗く潰して生地に混ぜ込む。

その為、時々こうして塊が「こんにちは」して、口の中でバナナの濃い甘さを更に広げてくれるのだ。


このケーキは良く熟れたバナナを使うので、砂糖は少ないはずなのにとても甘い。

しかし果物の自然な甘さなので、口の中が甘くて甘くて…ということにはならないのがいい。

合わせる飲み物は、断然ホットミルク!

この時ばかりは、蜂蜜なんて垂らしちゃダメ。

純粋に温めただけの牛乳は、バナナケーキの美味しさをまるっとまとめてくれて、満足度アップだ。




「お母さん、もう一つだけ!」

「いいけど、明日の分がなくなるわよ?」

「んっ! んん~〜……」


望果はケーキクーラーの上に置かれた残りのバナナケーキを見つめ、唇を突き出して悩む。


焼いたその日も美味しいが、一日経って、全体的にしっとりと馴染んだバナナケーキも、これまた絶品なのだ。

絶対食べたい!



「うん、やっぱりガマンする! ごちそうさま。公園行ってくるね!」


望果は手早く準備をして、元気よく玄関へ走る。



ああ、どうしよう。

もう明日のおやつが待ち遠しいっ!

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