お母さん 今日のおやつは?

幸まる

1品目 蒸しパン

「また後でねー!」


学校帰り、曲がり角で友達と分かれて、小学四年の望果みかは家までダッシュする。

友達と公園で遊ぶ約束をしたから、急がなくては。


5時間授業の水曜日今日は、家に帰れば大体3時半。

おやつを食べて公園に行けば、まあ、まだ遊ぶ時間はそれなりにある。


いっぱい遊びたいのなら、おやつを食べずに行けば良いのだが、それはそれ。

おやつは欠かせない。

何と言っても育ち盛り。

おやつを食べておかないと、夕飯前にはエネルギー不足でバタンキューだ。



それに、それに。

水曜のおやつは特別なのだ!




望果は勢い良く玄関の扉を開ける。

途端に広がる、ほわんとした、ほんのりと甘い、温かな香り。


「お母さん、今日のおやつは!?」




台所に駆け込んだ望果を、母さんは呆れた顔で振り返る。


「『ただいま』が先でしょうが」

「ただいま! 今日のおやつは?」

「はい、おかえり。今日はコレ」


「じゃーん」と言って、母さんはフライパンの蓋を開けた。

途端に真っ白な湯気が、魔法のようにボワリと広がり、玄関先まで香っていたあの匂いが広がる。

そこに並ぶのは白い蒸しパン。


「やっぱり蒸しパン!」

「そうよ。どうせ遊びに行くんでしょ? しっかり食べて行きなさいな」

「うん!」



ランドセルを部屋に放り込み、手を洗ってうがいをして戻ると、居間のテーブルの上には白い蒸しパンが並んでいる。


100均で買ったシリコンカップから盛り上がった白い生地は、熱い湯気から解放されて、表面を艷やかに張っている。

中央はパカリと裂けて、中に入ったつぶあんが生地からチラリと顔を出す。


望果はこしあん派なのだけれど、母さんがつぶあん好きなので、蒸しパンに入るあんこは大体つぶあんだ。

まあ、そこは作る人に選ぶ権利があるのだろう。

「今度はこしあんにしてよ」の一声を挟みつつ、「いただきます」と望果は熱々の蒸しパンを両手で割った。

もう消えてしまったはずの魔法の湯気が、割ったところから再び現れて、食べられるのを阻止しようと邪魔をする。

しかし、そんなものは望果には通用しない。

唇を尖らせてフーフーと強く息を吹き付ければ、守りの魔法湯気は散じて、あっさり望果の口に蒸しパンは収められるのだった。



割った時にはふんわりと感じる生地は、口に含むと、むちっとした食感。

ほわっと温かく、しっとりしていて、ほんのりと甘い。


小麦粉、米粉、ベーキングパウダー、砂糖、水。

そして、つぶあん。

そんなシンプルな材料で作る母さんの蒸しパンは、とてもあっさりしていて、ペロリ何個でも食べられてしまう。


「あちっ、あちっ」

「ほらほら、ヤケドしないように気を付けてね」


冷たい牛乳を渡されて、望果は急いでゴクリと一口飲んだ。

蒸し立ての蒸しパンの中に入ったあんこは、想像以上に熱い。

せっかちな望果は、何度食べてもヤケドしそうになるのだった。


しかし、しかし!

この熱々のあんこに、冷たい牛乳はめちゃくちゃ合うのだ!

だから、まあ舌をヤケドするくらいは勘弁してやる、と望果は考えている。




「もう一個」と二個目を平らげ、望果は満足して「ごちそうさま」をした。

エネルギーチャージは完了だ!

手早く準備をして、元気いっぱいで玄関へ走る。



ポテトチップスも、チョコレートも、グミもビスケットも大好きだ。

だけど、母さんの作るおやつは特別。


「いってきまーす!!」


今日もおやつの時間は最高だった!


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