幸せの価値

もちっぱち

幸せの価値

あるところに

若い男がおりました。

その男の名は、太郎ということに

しておきましょう。


太郎はお金を持っていません。


真面目に働いて稼いでいるのですが、

なぜかいつも財布の中は空っぽ。

何に使っているのか分かりません。


でも誰かが挨拶すれば

えくぼを出して、

笑顔で挨拶してくれます。


「おはようございます。」


 それはそれは元気に

 満面の笑みを浮かべて。


 道路にゴミくずが落ちていれば

 すぐに拾って、

 路上のゴミ箱に捨てずに

 いつも持ち歩くのか

 ビニール袋に入れて持ち帰ります。


 何かトラブルが発生すれば、 


 「どうしたんですか?

  大丈夫ですか?」

 

と見返りもなく、助けます。


 助け終わったあとに


「何かお礼をさせてください。」


「いえ、何も入りませんよ。

 私は平和であることで

 満足なのです。

 解決してよかったですね。」


 太郎はこういう人間です。

 

 でもそんな太郎にもデメリットはあります。

 お金を持っていないというデメリット。

 生活においてお金が必要な場面になると

 一目散に逃げます。

 もしくは誰かに払ってほしいと

 懇願してことなきを得るのです。


 器用貧乏というのでしょうか。

 それでも、そのデメリットを除けば、

 太郎にはいつも人が集まっていて

 誰かが助けてくれます。





*****


 はたまた別なところには

 金太郎という男がいました。


 この人は、ものすごくお金持ちです。


 バリバリの敏腕社長で

 経営者だからと言って、

 判を押すなどの書面での仕事しかせず

 ほとんどを

 現場のスタッフに投げやりです。

 

 それでもお金はジャンジャン入ってきます。

 

 仕事のことで厳しい言葉を発言することも

 暴力をふるうこともあります。


 お金は入るんです。


 何か必要なものがあれば、

 すぐに買うし、お金で解決します。


 トラブルが起きた時は交渉するのを恐れ

 すぐにお金で解決させます。


 悪い噂が広がらないように

 メディアにも口封じのお金を

 払っているし、

 

 もちろん口コミなんかではなく

 お金を使って宣伝を広げていきます。


 飲食店の味が美味しいかどうかは

 分からずにみんなが行くから行くという

 狙いをつかもうとします。


 そう、お金は持っているんです。


 でも助けてとトラブルだなんだと

 なった時に何の声をかけてくれることも

 なく、テーブルにドンっとお金だけ置いて

 いきます。

 

 ついにはお金で解決する男だと噂が

 広がって、周りの人たちが

 一切近寄らなくなりました。


 あの人はお金を出せばいいと

 そして会話をしようとせず

 鉄のように冷酷で

 人間なのに

 ロボットだと広まっていきます。


 本当にそれで良いのでしょうか。

 お金があって本当に幸せでしょうか。

 お金が全くなくても幸せでしょうか。


 

 どちらも同じ人間なはずなのに

 何かを忘れています。



 生きているって一体どんな状態が

 正解なのでしょうか。



 【 完 】

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幸せの価値 もちっぱち @mochippachi

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