星新一と桶星榮美

桶星 榮美OKEHOSIーEMI

第1話 星新一と桶星榮美

誰にでも辿たどれば

親戚に有名人の一人や二人はいるもので

言わずもがな桶星おけほしの親戚は

星新一と森鷗外である

(森鷗外は血の繋がらない遠い親戚)


********


桶星は小学生時代に小説を書き

将来は文学の道に・・・と夢見た

母は幼少期から絵本をたくさん買い与え

なぜか百科事典も買ってくれた

音楽と絵本に囲まれた幼少時代

小学生の中学年になると

自ら物語を創作し文章にした


小学生のとある日

母が父に桶星が小説を書いている事を告げ

父に読んで聞かせるように促され

桶星は恥かしながら読んで聞かせた

(小説といっても短い物語であり

 とても小説などとは言えない)


黙って聞いていた父は朗読が終わると

「それで、お前はなんでこんな物を書いた」


少しは褒めてもらえるかと期待していたので

思いも寄らぬ父の問いに

答えに詰まり下を向いてしまった


母はすかさず

「大人になったら小説家にはるのよね」

と助け船を出してくれ

桶星は一気にテンション上がり

「うん!」

と元気に声を張った

すると父の顔は形容しがたい怒りに満ちていた

父のあんな顔は後にも先にもただ一度

今でも忘れられない怒りの表情


「お前は小説家になりたいのか⁉

 なんでそんな者になりたいんだ⁉

 お婆ちゃんがどんな酷い目に合ったか。

 お前は、お婆ちゃんが大事じゃないのか⁈」

と強く責められ戸惑う桶星

母が

「何も知らない子供なんだから

 怒らなくてもいいじゃない」

と言っても聞く耳持たずの父は

「我が家では小説家になることは

 絶対に許さない!

 今後一切口にするな!」


この時、桶星は自分が書いた小説家が

くだらい稚拙な物だから怒られたのだと

かなり落ち込み

それからは小説を書かなくなり

小説家の夢は諦めた

まぁ書くことは好きだったので

【ポエムノート】なる物を作り

(ただの大学ノート)

高校卒業まで隠れて何冊も書いていた


ところで

「お婆ちゃんがどんな酷い目に合ったか」

このフレーズ桶星には???だったのだが

その真意を大人になって知る

本当に極悪非道な話し・・・


********


父方の祖母の母

ようするに桶星の曾祖母の写真を見た時に

女優さんですか⁈

と思うほど美しい女性だった

(なぜそれが遺伝しない⁉

 桶星も美人に生まれたかったぞ!)


曾祖母、桶田ハナさんは

H県の漁村で生まれ育ったのだが

星家の御曹司に見初みそめられ

身分違いの家へと嫁ぎ一男一女を得

夫に愛され何不自由なく幸せに暮らしていた

(祖母曰く「私は娘時代、箸より重いものを

 持たことがない」暮らしだったそう

 ようするに絶えず使用人さん達が世話をやく

 それほど金持ちだったと言うことだ)


だが不幸は前触れなく突然に襲い来る


曾祖父が海難事故で亡くなった・・・

(この時の曾祖母の気持ちを思うと

 胸が苦しくなる。

 愛する夫が突然帰らぬ人となった悲しみ)


曾祖父は【星製薬】の社長であった

昔なので必然的に幼いながらも

息子の洋一が次期社長になる

だが、ならなかった。阻まれた。


曾祖父の葬儀が始まる前に

曾祖父の弟(新一の父)から

「葬儀には出なくていい。

 もう籍は抜いた。あんたらは星家とは

 関係無い人間だから今直ぐ出ていけ」

と言われ、そのまま星家から追い出された

(祖母曰く「腰巻き一枚持たされず

 着の身着のままで出された」

 今で言えばパンツ一枚持たされずだ)

 

曾祖母は夫から贈られた装飾品も

着物も帯も全て星家に置いたまま

娘と息子の手を引き

愛する夫と過ごした家を後にした。


❝籍を抜く❞とはどういう事か分かりますか?

戸籍から抹消するのです

どうやって?

夫が死んでからの離婚は認められないよね?

そう、離婚なんて生易なまやしいものじゃ無い

婚姻そのものを無かった事にされた

【桶田ハナは未婚で父親不明の子を産んだ】

と桶田家の戸籍を書き換えられ

祖母と大叔父の父親の欄は空白に・・・


そんな事できるの?

できます!

令和の時代には絶対に無理でも

昭和時代には地位の有る者

権力の有る者には可能でした


かくしてわれて星家に嫁入りした曾祖母は

父親が誰かも分からぬ子を産んだ

淫らな女となり

立派な家に生まれ育った祖母と大叔父は

父親の無い❝私生児❞となってしまった


今でも私生児の方は父親から認知されないと

父親の遺産が相続できないなどの

デメリットはあるが

昭和時代の私生児は世間から後ろ指刺され

さげすまれる存在で

就職や結婚にも大きく影響した


なぜ曾祖父の弟は、そんな非道に走ったのか

答えは、

兄の跡を継ぎ自分が星製薬の社長になり

行く行くは自分の一人息子の新一に

会社を継がせるため。

(ついでに言うと、全てを隠すため

 曾祖父さえも、戸籍から消され

 始めからこの世に存在しない者にされた

 まさしく星家の大きな闇である)

 

新一(祖母の従兄弟)はある小説の後書きに

「自分は社長になるはずでは無かったのに

 親に社長にさせられた。なりたくなかった」

と綴っていた、お気の毒である。

大叔父の洋一(祖母の弟・新一の従兄弟)

「新一はバカだから星製薬を潰した

 俺が継いでいたら潰さなかったのに」

と怒っていました(笑)


********


それから曾祖母、祖母、大叔父は

大変な苦労をしたそうだ


曾祖母の実家があるH県に戻るのに

東京から歩いての移動

お金がないから食事もできない

祖母と大叔父は生まれながらの

お嬢様とお坊ちゃま

掃除も炊事も買い物も身支度も

自分でした事が無い(マジかよ!)

サバイバル生き残れない人種


曾祖母は腹を空かした子供達に

「ここで待って居なさい」

と神社に置いて一人でどこかへ

世間知らずの姉弟はじっと待っていた

数時間すると曾祖母が

一個の握り飯を持って来た

姉弟は、それを仲良く

半分づつ分けて食べ飢えをしのいだ

その握り飯は

曾祖母が知らない家を何軒も頭を下げて回り

やっと恵んで貰った物だった・・・

さすが一般ピープル強しである


この曾祖母はパワフルなひとだったそうだ

そして桶星の知る祖母も超絶パワフルで変り者

大叔父も変り者(笑)

逆境を蹴飛ばし吹き飛ばし生き抜いた

わが曾祖母と祖母と大叔父

この他にも新一とのエピソードや

貧乏を乗り越えた話しなどが有るが

その話はいつか機会があれば書いてみたい。


祖母と大叔父は仲が良かった

支え合い苦労を乗り越えてきた二人

大叔父は生涯に渡り祖母を

「姉ちゃん、姉ちゃん」と慕い大切にしていた


********


そうそう、

なんで桶星に父が

「小説家になるのは絶対に許さない!」

と言ったか

桶星父マツオさんは親孝行で

20代で父(享年52歳)を亡くしてからは

残された母を大切にしていた


マツオさんにとって

マツオさんの母を苦しめた星家は

許し難い敵であり

新一もその中に含まれ【小説家=当家の敵】

と脳にインプットされていたらしい

(まぁ新一さんも、大人になってから

 従兄弟である大叔父にやらかしてるから

 仕方ないかも・・・)


でも納得いかん!のは桶星である

過去の家同士の争いが元で夢を奪われた


(マツオさんは本が好きで

 本棚には沢山の本が並んでいたし

 詩を書いたり和歌を詠んだりしてたのにさっ

 納得できんわ!)


文章に携わる仕事ができなかった事が

人生の唯一つの悔いで

本当にやりたかった事をやらずに死ぬのか

このまま一生を終えたら死んで後悔する

と桶星の心を大きくモヤモヤさせていた

そして・・・

今更ではありますが、小説を書き

こうして人目に晒している次第です

(関係者各位全て没したので)


ペンネームは桶田から星

そして桶田へ戻されながらも

凹む事なく人生を謳歌した曾祖母に敬意を込め

❝桶星❞と付けました

そして小説を書き公開することは

曾祖母に代わってのリベンジでもある!


***おまけの話し***


桶星母ナホ子さん

「物心ついた頃から

 私は将来❝星❞という苗字の家に嫁ぐ

 と感じていたのに

 別の苗字の家に嫁ぐことになって

 結婚式で本当は星さんと結婚する

 はずだったのにって独り言を言ったら

 義母さんが『星は私の旧姓だよ』

 って言うからビックリしたわぁ

 やっぱり私の感は正しかったのよ

 すごいでしょ~」

この話を聞いた時、驚きすぎて

全身の身の毛がよだちましたよ!


しかもナホ子さんの実家は

薬を入れる瓶を作っていて

星製薬も顧客だったんだよ・・・

なんか怖いわぁ~

因縁を感じるわぁ~


   ————おしまい————

     【簡略相関図】

  星タケ(祖母)⇐いとこ⇒星新一

    ❙

  マツオ(父)

    ❙

  桶星おけほし榮美えみ





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