最終話 共闘

「アーサー。 跳躍魔法ジャンプを選択だ」


『了解しました。 主人マスターの任意で、車体を跳ね上げることが可能です』


 車のリーフにはリンが乗る。その手には剣を構えていた。


「リン! デーモンウッドは蔦に絡まった人間を盾にしてくるだろう。君は、そいつを斬ってくれ!」


「わかりました!!」


 前進すると案の定。デーモンウッドの邪魔が入った。

 その蔦はまるで生きているかのごとくウネウネと動く。その先には人間が巻き付いていて、盾にすると攻撃されないことを知っているようだった。


 僕はハンドルを操作して、彼女が斬りやすい角度に動く。

 リン。今だ!


「たぁあああああああああああッ!!」


ザクン……!!


 よし。

 デーモンウッドの蔦はリンの斬撃で斬ることができた。


ザクンザクン……!!


 次々と斬る。


世那火せなかさん! 高い蔓が斬れません!」


 ああ、そうなるだろうと思ったよ。


「アーサー。 跳躍魔法ジャンプだ!」


『了解!』


ギュゥウウウウウウウウウウウウウウウンッ!!


 スーパーカーの跳躍。

 それは20メートル以上は跳んだか。


「たぁあああああああああああああああッ!!」


 リンの連撃。

 凄まじい斬撃でデーモンウッドの蔦を斬る。


 僕はハンドルを操作して、落下する者たちを車の上に拾った。


主人マスター。生きている人間は全員助けたようですよ』


「わかった! じゃあ、リン。車から降りてくれ!」


「わかりました! 最後の一撃ぃいいいいいいいいい!!」


 リンはリーフから跳んだ。

 そして、その勢いでデーモンウッドに斬りかかる。


 しかし、


ガキン……!!


 リンの剣は無情にも簡単に折れてしまった。


「ああ!! そんなぁ……」


「リン! 離れてろ!!」


「は、はい!」


 よぉし。

 僕の出番だ。


 アクセル全開!!


「いくぞアーサー!」


『了解!』


 衝突のダメージは魔法障壁が和らげてくれるらしい。

 僕はただ全力でぶつかるだけ。


 ボディアタックだ!


「おりゃぁああああ!」


ガシュゥウウウッ!!


 デーモンウッドは、くの字に曲がる。

 樹の表皮はペキペキと剥がれ落ち、ダメージがあるのはわかった。


 が。


ボヨォオオオオオオオンッ!!


「ぬお!」


 弾かれた!

 まるでゴムタイヤみたいだ。

 こいつは普通の木よりも弾力があるのか!


 アーサーは30メートル以上吹っ飛ばされた。


主人マスター。やはり、今のレベルのボディアタックでは倒せそうにありません。 火炎魔法イグニッションで燃やすことを提案いたします』


「却下だ!」


『なぜです!?』


 僕はデーモンウッドに背を向けたまま車を走らせた。


『逃げるのですか??』


「んなわけないじゃん」


キキキィーーーーッ!!


 ブレーキを踏んで向きを変える。

 奴からは300メートル以上は離れただろう。


ブォオン! ブォオオンン!!


 エンジンは最高の音を奏でた。


火炎魔法イグニッションじゃ売り物にならないからな。素材はできるだけ綺麗に処理する」


『し、しかし、私のボディアタックは通用しませんでした。また、弾き返されるのがオチです』


「でも、多少はダメージはあったさ。奴の体はくの字に曲がっていたからな」


『…… 主人マスターのお考えがわかりましたよ。つまり、距離をとってダメージを増幅させる作戦ですね』


「そういうこと」


 アクセル全開!


 時速0→100kmゼロヒャク0.1秒発進。



ドギュゥウウウウウウウウウウウウウウンッ!!



 でもさ。


「これだけじゃあ、心許ないよな?」


『え?』


 僕は急ハンドルを切ってから、サイドブレーキを思いっきり引いた。


『マ、 主人マスターそんなことすれば!?』


「わかってるよ!」


 漫画で読んだだけだけどさ。

 こういうのやってみたかったんだよな。


 車体はギュルギュルと急回転。


「ぬうぉおおおおおお!!」


 目が回るが、このままいっけぇえええええええええええ!!


 長距離からの慣性力と、回転による遠心力。

 2つを合わせたボディアタックだ。

 

「うぉおおおおおおおおおおおおッ!!」


 さながら、大きな手裏剣のように。

 アーサーは回転してデーモンウッドに激突した。



ベキィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!


 

 その大木は凄まじい破壊音とともに切断された。


「よし、折れたぁああ!」


『生命反応ゼロを確認。お見事です!!』


 いよっし!


 リンは呆気に取られていた。


「す、すごい……」


「お疲れ様。怪我はないか?」


「わ、私は大丈夫です。世那火せなかさんは大丈夫ですか?」


「ああ。僕も大丈夫だ」


「す、すごいですね。デーモンウッドを倒してしまいました」


「ああ。君のおかげだよ。凄まじく助かった」


「いえ。私なんか全然」


 いやいや。リンのおかげだってば。

 ふふふ。彼女の活躍で燃やさなくて済んだからな。

 デーモンウッドの素材が丸々手に入ったんだ。

 これを売ればかなりの大金になりそうだぞ。


 その後は色々と大変だったな。

 コボルトによって囚われた人々は、近くの村から連れてこられたと言う。

 僕はそんな人たちを馬車籠に乗せてアーサーで牽引することにした。


 村に着くと大歓迎を受けた。

 みんなは大喜び。帰還した村人たちの安否に涙を流す者もいた。


 僕とリンは村で手厚く接待された。

 村人たちは食糧とかアイテムをいっぱいくれる。どうやら感謝の気持ちらしい。

 もう夜も遅いということで泊まることになった。

 宿泊場所は村一番の綺麗な客室。

 ああ、もちろん、部屋は別々だよ。

 

 次の朝。

 旅立つ僕たちを村人たちは送ってくれることになった。

 村長はいう。


世那火せなかさん。あなたはピット村を救ってくれた英雄だ。あなたのおかげで、コボルトの襲来に怯えずに済みます。心から感謝いたします」


 コボルトどもは、定期的に村人を連れ去っていたという。

 どうやら、デーモンウッドを育てることが目的だったらしいが、その大きな目的はわからない。

 まぁ、モンスターだし、悪いことをするのが生き甲斐なんだろう。

 そんなことより、


「とんだドライブになっちゃったね」


「えへへ。私は楽しかったです」


 リンは頬を赤く染めた。

 なんだか喜んでくれたみたいだ。

 まぁ、初めてのドライブデートは上手くいったってことでいいのかな?


 それから、王都グランデルモに帰ってからも大変だった。

 リンはデーモンウッド討伐の報告書をまとめ、僕は報酬をギルドから受けることになる。


「え? 僕がC級になったの?」


「はい。世那火せなかさんの功績は飛び級扱いになりました」


 おお……。僕はドライブデートをしただけなんだがなぁ。

 

「王室から、星の授与もされるそうですよ」


 星はその人の功績の証らしい。

 アーサーは大賢者ナゾットの功績として五つ星を所有しているんだけどな。

 僕は星ゼロ個なんだ。


 そんなわけで、僕は神殿に行って星をもらうことになった。


 神官が呪文を唱え、僕の体が淡い光に包まれる。

 光が消えると、僕の右手からはホログラムのような星が一つ。フワァっと浮かび上がった。


 すごい。

 なんだか少し感慨深い。

 これで僕は、この世界の住民になったんだなぁ。


 デーモンウッドの素材は高値で売れた。

 デーモンウッドが綺麗に素材になるのは珍しいらしく、解体屋の職人が目を丸くしていたのはいうまでもない。


 なんだかんだで順調だ。

 めちゃくちゃ楽しい毎日だよ。


 僕は王都を中心に異世界の生活を楽しんだ。


世那火せなかさん。大変です。隣国で魔導車のレースが開催されるそうですよ!」


「へぇ。面白そうだね」


「優勝した者には、超激レアアイテムが贈呈されるそうです」


「ほぉ。それは気になるな」


「なんでも、体型を思いのままに変化させる魔石なんだとか……」


「え!? それって変化の魔石か?」


「詳しくはわかりません。でも、その可能性は高いですね」


 ふぅむ。

 魔導車のレースか。

 興味はあるが、隣国の状況がわからないからな。

 迂闊に行動するのは危険か。

 一旦、様子を見るという手もあるな。


 などと思っていた矢先。

 嫌な声がギルドに響いた。


世那火せなかぁああ!! そのレースに参加しろぉおおおおおおお!!」


 ああ、こいつは以前に僕を勧誘してきたB級冒険者のジャレルだ。


「まさか、お前も出るのか?」


「当然だ。このボンクラがぁ。優勝は俺様がいただく。俺様の魔導車の方が世界最速なんだよぉおおおおおお!! 勝負だ世那火せなかぁああああああ!!」 


 やれやれ。断る理由がなくなった。

 この世界って本当に面白いな。


 僕は凛々しく笑った。

 



 魔導者のレース……。

 なんだかワクワクするな。


 僕はエンジンを蒸した。

 スーパーカー特有の、雑味のないエンジン音が響き渡る。


「行こうアーサー。ナビを隣国にセットしてくれ」


『レースに参加されるのですね?』


「ああ」


 アクセル全開だ。



おしまい。



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最強のスーパーカーはご主人様を乗せて異世界でスローライフを満喫する〜異世界転移は愛車とともに。このエンジン音、高級感、シザーズドア、最高じゃね?〜 神伊 咲児 @hukudahappy

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