第16話 急なバトルはアクセル全開

 アーサーの前には10匹のコボルトがいた。


 犬の顔をした獣人タイプのモンスターで、それぞれ、剣や槍、棍棒なんかを持っている。

 盾を装備している者いるので、器用に戦うモンスターなのだろう。

 強さはC級。D級の僕には相応しい格上の相手だと言えるな。

 

 コボルトたちは石を投げて来た。

 ゴムのついた道具で投石する。

 ゴムの弾力を使うので、その威力は相当に速い。


『スリングショットですね』


「燃やしてくれ」


『了解。 火炎魔法イグニッション!』


 石はアーサーの炎魔法によって燃えかすとなった。


「すごいです! アーサーは魔法を使えるんですね!」


 ふふふ。

 こいつのすごさはこんなもんじゃないさ。


 コボルトたちはスリングショットから武器を持ち替える。

 しかし、それよりも早く、アーサーのボディアタックが炸裂した。


ボォオオオオンッ!!


 ぶっ飛ばされたコボルトは30メートル以上ぶっ飛んで絶命した。

 時速0→100kmゼロヒャク0.1秒の加速力を舐めてもらっては困る。

 目にも止まらない速さ。とは、まさにこのことだろう。


 コボルトたちは大事な素材だ。

 素材は綺麗に持ち帰る。だから、魔法は使わないのさ。


 気がつけば眼前にはコボルトたちが横たわっていた。


「す、すごい……。もう、倒してしまったのですか……」


 リンが驚くのと同時。


『タンタカタンタンターーン!』


 お! 来たぞレベルアップ。


『レベルが4になりました。取得魔法の選択が可能です』


 それは2つの選択肢。

 氷の魔法、 氷結魔法ブリザードと跳躍の魔法、 跳躍魔法ジャンプだった。

  氷結魔法ブリザードはその名のごとく、相手を凍らせる魔法。

  跳躍技ジャンプって──?


主人マスターの任意で、車体を飛び跳ねさせることが可能になります』


「へぇ……。跳ねるスーパーカーか」


『空を飛ぶことはできませんが、その跳躍力は速さに比例します。時速0→100kmゼロヒャク0.1秒の力を使えば、一瞬にして100メートル以上もの跳躍が可能です』


「ふむ。ちょっとした川くらいなら橋いらずってとこか」


『はい。落とし穴の罠なども回避できるかもしれませんね。どちらを選択しましょうか?』


 うーーん。

 悩むな。どっちも使えるんだ。選択は1つだけだから──。


「一旦、保留だ」


『承知しました。保留は次のレベルアップまで可能でございます』


 コボルトは馬車を引いていた。

 馬車といっても、その馬には大きなトカゲを使っているのだが……。

 漢字で書くなら蜴車とでも呼べばいいかな?

 わかりにくいからトカゲの馬車と呼ぶことにする。


 御者であるコボルトは倒したが、馬車籠の中には何が入っているんだろう?


 え? 人間だと?


『コボルトは人間を捕まえていたようですね』


「食べるのかな?」


『いえ。おそらく奴隷にしようとしたのだと思います』


 なるほど。

 とりあえず、コボルトは亜空間収納箱アイテムボックスに回収して、この馬車籠はアーサーで牽引して家に送ってやればいいか。


 そんな風に思っていると、


「ぎゃああああああああああああ!! 助けてぇええええ!」


 突然の悲鳴。

 それは緑色の蔦に体が絡まった人間だった。

 どうやら、その蔦が動いてトカゲの馬車籠から人間を拐ったようだ。


世那火せなかさん、見てください!! あれ!!」


 リンが指差す方向には大きな樹の化け物。


「デ、デーモンウッドですよ!!」


 ほぉ。

 随分、大きなモンスターだな。

 横幅は10メートルはあるだろうか。

 樹の表面が大きな顔のようになっている。

 全高は……そうだな。40メートルくらいはあるかも。


「び、B級のモンスター! 今度こそ本当に討伐隊が必要です!」


 ふむ。確かにコボルトよりかは強そうだ。

 木の枝からはたくさんの蔦が垂れていて、そこにぶら下がっているのは白骨化した人間の死体。


『どうやら、コボルトはデーモンウッドを育てていたようですね』


「人間を養分にしてか?」


『そのようです』


 悪趣味だな。


「倒せそうか?」


『樹のモンスターですからね。 火炎魔法イグニッションを使えば有利に戦うことが可能です』


 なるほど。

 樹と炎は相性が抜群か。

 僕たちにとって楽な相手ってわけだな。

 そうなると、


「……樹の蔦には人間が捕まっている。まずはそれらの救助が先だ」

 

 それに、


「なんとかして素材にしたいからな」


『では、ボディアタックになりますね』


「通じそうか?」


『わかりません。デーモンウッドの防御力は随分と高いようです。私のアタックで倒せるかどうか……』


「じゃあ、囚われた人間を救出して、魔法で燃やす作戦が有効そうだな」

 

 と、考えつくや否や。

 デーモンウッドの蔦は大量に襲って来た。

 アーサーに近づく蔦は燃やすことが可能だが、馬車籠にいる人間が次々に奪われる。


 籠の中には子供もいて、母親から引き剥がされて蔦に絡まった。


「アーサー!」


 と、僕が指示を出そうとしたのも束の間。


「たぁあああああああああああああああああああッ!!」


ザクン……!!


 それは剣の斬撃。

 

「リン!? どうして!?」


 助手席はもぬけの空。

 助手席の窓は全開だった。


 あんな場所から外に出たのか?


 外にいるのは、剣を持ったリンだった。


 動き早……。

 僕に気づかれずに窓から降車していたんだからな。相当な速さだよ。


 彼女が持っている剣は、コボルトが使っていた武器だろう。

 白いワンピースに剣ってのは、なかなかに乙な格好だが、


「てやぁああああああああああッ!!」


ザクン……!!


 彼女の斬撃はすごい威力だ。

 蔦を斬ってみんなを助けている。

 たしか、彼女の母親がA級剣士の冒険者だったな。

 どうやら、その血を継いでいるらしい。


世那火せなかさん! 私、こう見えて、剣技には少し、自信があります!!」


「みたいだな! 助かったよ!!」


 蔦の攻撃が激しい。

 2人で馬車を守っていたんじゃ埒が開かない。

 よし、


「そっちは任した!」


「はい!」


 僕は本体だ。


 アーサーを走らせるも、デーモンウッドは賢かった。

 捕獲している人間をチラつかせて、僕らの進行を阻む。

 これじゃあ、 火炎魔法イグニッションも撃てやしない。


『コボルト戦を見ていたのでしょう。どうやら学習しているようですね』


「厄介だな」


『では、 氷結魔法ブリザードを使うのはどうでしょうか? 蔦を凍らせることができれば、蔦の邪魔は解消します』


「……それはそうだが」


 よし。


「リン! 乗れ!」


「で、でも馬車が……」


「本体を倒すのが先決だ」


「わ、わかりました! では扉を開けてください!」


「いや、そのままでいい。車の屋根に乗ってくれ」


「や、屋根ですか!?」


「ああ、早く」


「は、はい!」


 彼女は素早い動きでアーサーのルーフに飛び乗った。


『なるほど! 流石は 主人マスターだ。 氷結魔法ブリザードとリンさんの斬撃でデーモンウッドを倒すのですね!』


「あーー、ちょっと違うな」


『なぜです??』


「選択するのは 跳躍魔法ジャンプの方さ」


『ええ!?』


「氷の魔法じゃ、人間に当たってしまう可能性がある」


『し、しかし、囚われた人間を盾にされたのでは、こちらが攻撃できませんよ?』


「だから、落としてもらうのさ」


 彼女の、達人級の斬撃でな。


「僕とアーサー。そして、リン! 3人でデーモンウッドを倒すんだ!」


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