第15話 初めてのドライブデート
〜〜三人称視点〜〜
デート当日。
朝9時。
王都グランデルモ、中央広場の噴水前。
そこに立っていたのは白いワンピースを着た受付嬢のリンだった。
「少し、早く到着しちゃったな。ふふふ」
嬢の制服は、少し堅い雰囲気を醸し出していたが、私服となるとガラリと印象を変える。
17歳の少女がそこにはいた。
彼女が待っているのは中嶋
今日は彼の車でドライブデートをする日なのだ。
待ち合わせ時間は10時。
1時間も早い到着にも関わらず、彼女の胸は膨らむばかり。
胸の鼓動を高鳴らせ、頬を少しだけピンク色に染めていた。
(ああ、
彼女の白い肌は白い洋服によく映える。
清潔感、という表現が正しいか。
道ゆく男は彼女の輝く容姿に目を奪われた。
可愛いすぎる女の子が、今、ここに立っているのだ。
そこに、スーパーカーが颯爽とやって来た。
リンは状況が理解できずに目をパチクリとさせる。
見たこともない車体の低い車がこっちに向かって来るのである。
軽快なエンジン音。輝く真っ赤なボディ。シザーズドア。
乗っているのは、もちろん、中嶋
車内では、彼女を探す彼の姿があった。
「ちょっと早く到着しちゃったかな? まだ9時半だよ」
『そうでもないようですよ』
「え? あ! ……あの子か!?」
『様子からして待ち人を探しているようですね。私は彼女を見たことはありませんが、事前情報から推測するに彼女かと思われます』
「はぁ……。か、可愛い……」
シザーズドアを開けて外に出る。
「やぁ。待たせたかな?」
「い、い、今来たところです!」
などという、お決まりのセリフ。
「こ、これが噂の赤い魔導車……。す、すごい車ですね!?」
「アーサーっていうんだ」
スーパーカーはヘッドライトを点滅させて、
『アーサーです。よろしくお願いします。リンさん』
「うわ! 喋った!?」
リンはスーパーカーに目が奪われた。
「うわぁ……。すごい……。こんな魔導車。見たことがありません」
そんな彼女に、
「あのさ……。これ。今日はありがとう」
「え?」
「僕の車に乗ってくれるからさ。プレゼント」
「あ、あああ……ああああああ」
彼女の震えに、意味がわからない
「あれ? 僕、なにか悪いことしたかな??」
リンはポロポロと泣き始めたのだ。
「うぐ……うぐ……」
「えええええええええええええええええ!? なんでぇええええええ!?」
事前の想定では大喜びをしてくれるはず。
それが号泣をしているのである。
これには流石のアーサーにもわからない。
ヘッドライトをピカピカと光らせて混乱する。
『すいません! 私が出しゃばったからですよね? そもそも喋る魔導車などというのはおかしい! 私が悪いのです。
リンは涙を拭いながら、
「ち、違います。う、嬉しくて……」
そう、この涙は嬉し泣き。
それを知った2人はホッと胸をなでおろした。
リンはしばらく泣いていた。
(王子様だ……。
花束という素敵なプレゼントを前に、彼女の気持ちを爆発していた。
幼い頃からの夢が叶ったのである。
白馬に乗った王子様が自分を迎えに来てくれる。
そんな子供からの夢物語。
もちろん、迎えに来たのは白い馬ではなくて、真っ赤なボディのスーパーカーだったのだが……。
☆
〜〜
びっくりしたぁ。
急に泣き出すんだもん。
一瞬、終わったかと思ったよ。
まぁ、もう落ち着いたみたいだから、彼女を車に乗せようか。
僕は右側のシザーズドアを開けた。
左ハンドルだから助手席は右になるんだよな。
「花束は
『あ、ありがとうございます』
「帰る時にまた渡すからさ。さぁ、乗って」
「は、はい……。失礼します」
い、いよいよだ。
念願の夢が今叶う……。
まさか、異世界でそれが成就するとは思わなかったが、こんな可愛い子ならどこの世界だってかまわないや。
ギルドでは女子アナみたいな感じだったけどさ。白いワンピースだと、まるでアイドルだよ。
可愛いすぎる。そんな子が、僕の車の助手席に乗るんだ。
彼女が車内に入ると、それだけで石鹸のいい匂いが充満した。
髪につけているリンスだろうか? とにかく清潔感のある、花のようないい香り。
これが女の子か!
「す、すごい……」
彼女はアーサーの内装にまたも驚いていた。
最新の計器類は初めて見るのだろう。彼女の視線は一箇所に止まらなかった。
「じゃあ出すね」
「は、はい」
ブゥウウウン。ブゥウウウウウウウウ……!!
「す、すごいエンジン音です」
「ふふふ。大きいでしょ? すぐに慣れるからさ」
「カ、カッコいい!!」
ああ、この言葉が聞きたかったんだよなぁ。
ありがとう、すごく嬉しいです。
心なしか、アーサーも嬉しそうだった。声には出さないが、なんとなくそんな気がする。
彼女は終始笑顔で、会話は弾んだ。
そして、その流れは年齢の話へ進む。
「私は17歳なんです。
まさか、そんなに若いとはな。
いいのだろうか?
以前の世界なら未成年に該当するな。
まぁ、アーサーに事前に聞いてはいたんだが、この世界の成人は男女ともに15歳なんだそう。
つまり、彼女は立派な大人というわけだ。
もちろん、僕の感覚だと『美少女』ということになるけどね。
「なので……その……。さ、さん付けはやめて欲しいかもしれません」
「え?」
「ほら……。
「まぁ……。礼儀かなって。じゃあ、ちゃん付けの方がいっか」
彼女は顔を赤くしてモジモジした。
「よ、呼び捨てで呼んで欲しいです」
なるほど。
そっちの方が親近感が湧くか。
「オケ。うんじゃ、リンで」
「はい! えへへ。私は
ドライブデートは最高に盛り上がった。
互いにいろんなことを話す。ほとんどリンの話ばかりだったが、デートとはそんなもんだろう。
女の子がたくさん話した方が、会話は盛り上がるんだ。多分。
とりあえず、僕が転移者である話は避けた。遠い国から旅をして来たということにしている。
理由は色々とあるけれど、あまり目立ちたくないことと、転移者がこの世界でどんな評価なのかまだわからないのが大きな要因だ。
迂闊に、元の世界の情報を漏らすのは危険だろう。ただでさえ、この真っ赤なスーパーカーだからな。目立ちたくなくても嫌でも注目を浴びてしまう。
これ以上、目立つのは危険すぎるよ。
グランデルモから少し出て、小さな街に行った。そこには装飾品が有名な店があって、そこで売っている『危ない法衣』は日本でいう水着そのものだった。もしも、リンがこんな服を来てアーサーを展示させたら、ちょっとしたモーターショーになるよな。そんなことを思いながら、ちょっとした買い物を楽しむ。
その街を出て、ドライブは続く。
お昼。
僕たちは見晴らしいのいい高原に来ていた。
彼女はその風景に大喜び。
「わは! とっても綺麗です!
事前に下見をしといたからね。
努力が実って良かったよ。
僕たちは見晴らしのいい場所で昼食をとることにした。
リンは大きなバスケットを開ける。
「たくさん、作って来ました。お口に合えばいいのですが」
それは手作りのサンドイッチだった。
その具材は多種多様。肉、魚、野菜に卵。そしてたっぷりのチーズ。
どれを食べても、
「うま!」
「あは! 良かったです!」
お世辞抜きで、今まで食べたどんなサンドイッチより独創的で美味い。
店を開けるレベルだ。料理が得意といっていたけれど、これほどとはな。
独身男の、食べ歩きが好きな肥えた男の舌を唸らせるなんて、相当な実力だよ。
リンは器用な子だなぁ。
「亡くなった父が料理が好きだったんです。私の料理はその父の影響のようで。剣士の母は料理は全然なんです。ふふふ」
彼女は父親を亡くしていて、母親は有名な冒険者だ。
そんな繋がりがあって、ギルドの受付嬢をやっているらしい。
ドライブデートは順調だった。
楽しすぎて、時間を忘れてしまう。
最高のドライブだったな。
気がつけば夕方前。
僕は彼女を自宅に送ることにした。
その帰り道。
『
「モンスターの種類と強さはわかるか?」
『コボルトのようですね。犬の顔をした獣人タイプのモンスターです。ランクはC級。ゴブリンより武器の使い方が上手いのが特徴です』
これにはリンが血相を変える。
「迂回しましょう!
しかし、C級といえばウネルスネークと同ランクだ。
別に負ける気はしないが、数は重要か。
「何匹いるんだ?」
『10匹ですね』
「よし。やるか」
「無茶です! C級のモンスターが10匹もいるなんて、複数人でパーティーを組んで挑むのが定石ですよ!」
なるほど。
さすがは受付嬢。
普段から冒険者にアドバイスをしているから的確だな。
でもさ。
「複数人ならパーティーを組んでいるよ」
「え? どこに他のメンバーがいるのですか?」
「僕と、アーサーの2人パーティーさ。あ……正確には1人と1台かもしれないけど……」
「ええええええええええええ!?」
僕はこいつを信じているからね。
「倒せそうか?」
『私の能力は
よし。
んじゃあ素材ゲットだな。
「リン。シートベルト絞めてくれ」
「た、戦うのですか!?」
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