第4話 将軍 進軍


 首都の防衛を任されていた将軍ベネーノ。彼は魔族の中でも魔王に次いで強いのではないのかと言われている存在であった。


 魔王が勇者を倒す少し前。

 ベネーノは首都防衛軍のテントの中に待機していた。

「お疲れ様でーす。ベネーノさん。」

「・・・。」

「どうしたんです、ベネーノさん。」

 机に向かって俯いたまま一向に返事をしない上司に困惑しつつ、状況報告をしようと強面の魔族がベネーノに近づいた。

「あ、あのー。」

「んぁ、どうしたの。」

 二度目の問いかけでようやく返事をしたベネーノは今起きたかのような顔を上げた。

「いやどうしたのじゃなくて、魔王様と勇者の戦いが始まったようなんですけど、加勢しなくていいんですか?」

「魔王のお手伝い?必要あるかなぁ。だってあの人めっちゃ強いんだよ?」

「いや、知ってますけど。立場的に行った方が良いのかなって。」

「行かない、僕の仕事は首都の防衛。万が一人類軍がここまできた時に戦ってこの国を守るのが僕の役割なの、だから行かない。それにお城にはロンダムさんも居るから大丈b。あっ。」

 などと言いながら魔王城に意識を集中して城内の状況を確認したベネーノは、ふと何か違和感に気付いた。この違和感は本来あるはずの物が無かった時の感覚だと即座に理解した。理解してしまった。魔力を多く持つ魔族は第六感として魔力感知ができ、将軍クラスの魔族になるとその規模も広大かつ精密になる。そんな彼が魔王城の状況を把握するのは造作もないことであった。

「どうしたんですか。」

「ロンダムさん死んじゃったね。」

「ふぇ?あ、あの人がですか?あの人って魔王様のご友人でありながら将軍だったと思うんですが。一体誰にやられたんですか、あの人かなり強いですけど。」

「そりゃ、勇者達でしょ。魔法使いレンと僧侶ミトはロンダムさんにとって相性は抜群に悪いから天敵になり得る。意外な結果とは言い難いね。」

 淡々と語るようではあるが、実際のところベネーノは内心多少なりとも傷ついていた。普段は飄々としていて悲しい顔は滅多に見せない彼だがこの時だけは寂しそうな顔を見せた。魔族の絶対数は人類と比べてはるかに少ない。特に将軍となるとその殆どが顔馴染みと言ってもおかしくないほど数が少ない。そんなロンダムは他の将軍とも積極的に関わっており彼もそのうちの一人だった。

「僕は、彼のこと魔族の中でも変わり者だと思っていたんだけど。いざいなくなると少し寂しいね。」

「・・・、自分は軍の備品の確認に向かいます。」

 重い空気に耐えられなかったのか強面の魔族はテントから出ていった。


 数分後

 ガサガサと音を立てながら、ベネーノのテントに先ほどの魔族とは別の男がやってきた。

「報告です。現在魔王城にて魔王様が勇者を討ち取ったとの報告がありました。また、ロンダム将軍が僧侶の死体とともに発見され、魔法使いと戦士は行方不明とのこと。」

「やっぱり。」

「これにより、ベネーノ将軍には西方のライメルネ戦線へ援軍を率いて向かわれるようにと魔王様から指示が出ています。」

「・・・、了解。」

 ゆっくりと机から立ち上がりながら返事をした。

「各部隊長に知らせて、西方に移動の準備の後テントに集まるようにって。」

「承知しました。」

 というと、男はテントから出て駆け足で仕事へと向かった。

 各隊に指示が伝わり移動の準備も終わる頃。各部隊長が移動の準備を終え将軍のテントに集まっていた。そこにはツノの生えた大柄な体躯の魔族、トカゲのような容姿をした魔族と様々な容姿の魔族が集まっていた。

「みんな集まったね、これより援軍として西方のライメルネ戦線に向かう。ここは、首都から鉄道で1日の位置にあり人類軍のガス兵器が積極的に使われている危険な地域だ。魔力の低いものは極力後方で支援を、各部隊の指揮は副隊長に任せ部隊長は僕と一緒に前線で戦ってもらう。何か質問のあるやついるか。」

「「いいえ。」」

「よし、じゃあ行くか。」

 そうして魔王の命を受けた将軍ベネーノは西方の線へと歩みを進めた。

 

 首都を出発した鉄道で3時間ほど移動した頃、将軍ベネーノは軍用車両の執務室で部下に雑務押し付け、自分は暢気にお茶を啜っていた。

「ところでベネーノさん、鉄道で移動したら早く着くのは分かりますけど鉄道って大きめの魔力炉が使われていますが人類軍に捕捉されると思うんですがだいじょうぶですか?」

この男は先ほどテントでベネーノと雑談していた強面の魔族でありベネーノの補佐のような仕事をしている。だが実際のところはそんな役職はなく、ベネーノが気に入った単純に自分のやりたくない仕事を押し付けられているだけの苦労人。名をトッポ。

「このことは将軍や開発班にしか教えてくれないんだけど、まぁいっか。」

「と言いますと。」

「この軍用鉄道は様々な作戦に運用されることを想定して設計された車両なんだけど、この辺の車両は魔力を探知されないような仕掛けがあるんだって。ほかにもいろいろ教えてもらったけどよく覚えてない。」

「へぇー、なんかすごいっすね。(こんな人にそんな重要なこと教えてもいいのだろうか。というか忘れよ。)」

トッポは、口外したら何となくまずいことになると感じこのことは忘れようと決めたのであった。






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