白球とオジサマ!

崔 梨遙(再)

1話完結:900字

 それは、僕達が中学2年生の遠足の日だった。その日は遠足ということで部活は無かった。3年生がいない。グランドが使い放題だ。野球部のメンバーを中心に、僕達は残って野球の紅白戦をやった。僕も文芸部だったがメンバーに入れてもらった。


 盛り上がってきた頃、グランドの前に真っ黒なベンツが停まった。中から、パンチパーマにサングラス、ダブルのソフトスーツのオジサマが、全身ヒョウ柄のオバサマと降りて来た。怖い! 怖いなんてものじゃない!


「兄ちゃーん! 儂もちょっと混ぜてくれや」


 勿論、拒否権は無い。オジサマはバットを持ってバッターボックスへ。1球だ。1

球気持ちよく打ってくれたら機嫌よく帰ってくれるのはわかっている。ピッチャーは絶好球ばかりを投げる。ピッチャーがかわいそうだった。僕はピッチャーに同情した。僕は外野で良かった。とはいえ、外野の僕でさえ緊張した。


 ピッチャーは絶好球を投げ続けるのだが……。


「兄ちゃん、ちょっと速いわ」

「兄ちゃん、もう少し真ん中や」

「兄ちゃん、もう少し高めがええんやけど」

「兄ちゃん、もう少し遅い球を頼むわ」


なかなか打ってくれない。


 そうこうしていると、グランドの隅で寝ていたホームレスのオジサンが目を覚ました。当時、僕等の街にはホームレスがあちらこちらにいた。今、どうなっているのかは知らない。少なくとも、僕が学生の間はホームレスが多数存在する街だった。ホームレスは、パンチパーマのオジサマよりも、先にヒョウ柄のオバサマを見てしまったようで、


「なんや、このオバハン。ケバイなー! ブサイクヤな-!」


と、大声で言ってしまった。誰が相手でも、言わない方がいい言葉だ。なんで、そんなことを言ったのだろう? 僕達は顔面蒼白になった。


「なんやと、こらー!」


オジサマ、ホームレスを金属バットで殴り始めた。みるみる血まみれになるホームレス。僕達は、校舎に一時避難した。


 ベンツが消えてから、ホームレスのオジサンの様子を見に行った。


「おっちゃん、大丈夫か? 生きてるか?」

「おお、生きてるで。ごっつ痛いけど」



 オッチャンが元気そうだったので、僕達は安心して家に帰った。







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白球とオジサマ! 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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