歓喜と安堵と後悔と

@mohoumono

僕は最低な人

目の前には苦しそうに息を吸う息子がいた。酸素マスクをつけた息子は、無理に笑顔を作りながら、僕と話をし続ける。酸素マスクは、いつだってくもっていて、それくらい息子が一生懸命話してくれる事を示していた。それは嬉しくもあったが、安静にしてくれと心配してしまう気持ちと代わってやりたいという気持ちの方が大きかった。でも、こんな笑顔をする息子に、そんな事を口が裂けたとしても言いたくはなかった。今は、早く元気になればと願う事しか出来なくなっていた。息子は、誰かの臓器を待っている。金さえあればどうにでもなるらしいが、金が足りなかった。どうしようもなく金が足りなかった。だから、順番を待つ事しか出来なかった。だが、息子が頑張ってくれたおかげでそれももう目の前だった。いつも通り息子の横でテレビを見ている時だった。速報でニュースが流れた。交通事故が起こり数多の被害者が出たというニュースだった。その直後、僕の頬に弱々しく手が触れた。「辞めてよ。」息子は泣いていた。あぁ、僕は最低な人間だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

歓喜と安堵と後悔と @mohoumono

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る