夢の殺人事件

どこだ…ここ。扉を開け、外に。


長い廊下。たくさんある扉。天井にはランタン。俺――永野ながの ゆうは、これで、ここがどこか分かった。

洋館。そう呼ばれる建物だ。どのようにしてここに来たのかは分からない。とりあえず、散策してみるか。俺の部屋は230。

廊下の真ん中と端に、階段。どうやらここは2階らしい。上にも続くらしいが、テープが張ってある。3階以上には行けないらしい。1階に下りる。踊場に、この洋館の平面図がある。この洋館は5階建てで、1階にはエントランスホールと20の部屋。ひとまず、エントランスホールへ。歩く。扉は開いている。そこには、クラスメイトがいた。

「祐。」

瑠美るみ。君もいたのか。」

瑠美。俺の彼女だ。

「永野君。君で最後だよ。」

「山下。」

山下は、学級委員長。

「さて。ここにはクラスメイト全員がいる。そして、今、ここには39人。1人、岩田が、部屋で――」

「それは本当なのか?」

「その部屋は、104だ。信じられないなら見に行ってもらいたい。」

「分かった。」

104。ここだな。意を決して、扉を開ける。

…想像していたよりも、酷い有り様だった。

背中に突き立てられた包丁。いくつもの刺し傷。死んでいることは、明らかだった。

エントランスホールに戻る。

「言われた通りだった。」

「ああ。そして、ここにはクラスメイトしかいない。つまり――」

目が覚める。夢…にしてはリアルだった。時刻は6時。いつもよりも早い。少し早いが、学校に行くか。

準備し、学校に着いた頃には7時だった。

教室には2人いた。

「早いな。瑠美。梨璃りり

「おはよう。祐。」

梨璃は、俺の数少ない友達の1人だ。

「ねぇ…祐。」

「ん?」

「彼…死んでたの。現実でも。」

「は?」

確かに岩田は殺された。だが、あれは夢だ。

「夢だったよ。でも、私、聞いたの。岩田の家は私の家から近いから…死んだって、岩田の母親が…」

「…嘘…だろ…」

「私も、嘘だと、思いたいよ…。でも…」

「っ――!」

殺されたら、現実でも死ぬ。この事実が、怖い。

「夢の中では、一緒にいたほうが良いだろうな。」

「そうだね。」

容疑者は、クラスメイト

見つけなければ。犯人を。


その後、正式に教師から岩田が死んだことが伝えられた。俺達3人を除いた、クラスメイト全員、動揺した。

いったい、誰が犯人なのか。昨日の事件について、何も知らない俺には、為すすべがなかった。


2日目。朝会った2人と合流し、話す。

「来るまで、何をしていた?瑠美。」

そう。瑠美だけ来るのが遅かった。20分だけ、遅かった。だが、1階からここに来るのに、そこまで時間がかからないはずだ。梨璃は、10分で来た。梨璃の部屋からなら妥当な時間だった。

「瑠美?」

「私は友達と喋っていただけ。」

「そうか…。」

「とりあえず、昨日の部屋に行こう?」

「分かった。」

まだモヤモヤするが、今日で分かるかもしれない。犯人が。

ここだな。扉を開ける。

「えー…マジ?」

綺麗になっていた。

「1日経てば全て消えちゃう仕組みかぁ…。」

「残念だ…。」

突如、叫び声が聞こえてきた。

すぐに、声のもとに走る。

――2人めの被害者――音澤が、109で死んでいた。包丁が、すぐ横に転がっている。

部屋番号は、出席番号だと今、気付いた。

「おい…」

「音澤さんの部屋から、川上さんが飛び出してっ。」

「な…」

瑠美が、走っていく。

まさか、川上さんが…。ひとまず、何かないか調べ…ん?これはなんだ。扉に、何か…これは…ピアノ線?他には………無い。何も無い。部屋に戻ろう…。

「祐?」

「…1回、部屋に戻る。」

「分かった。」

230。番号を確認し、入る。

「祐。いる?」

「瑠美か。」

「うん。」

「どうした?」

「川上さん、服の前の方に、血がついていたの。だから…。」

「犯人は川上さんで間違いなさそうだな。」

「うん。それで今は山下君が問い詰めてて…。違うって、言い張ってるみたい。」

「分かった。ありがとう。」

「うん。」

この言葉を最後に、俺は目が覚めた。

嫌な夢だ。もう、夢かどうかも、怪しいくらいだ。疲れた…。

「祐!今、先生から電話が掛かってきたから、代わって!」

寝起きに先生から電話かよ…仕方ない…。

「もしもし。」

『永野君。学校に来てくれ。』

「はぁ…。」

『すぐに来てくれ。私服で構わない。』

「分かりました。」

土曜日に呼び出されるなんて。俺、何かやったっけ?

教室へ。空いている席が、4つ。

「永野君。遅いよ。」

デジャヴだな。これは。

「全員集まったな。」

これで全員ってことは…まさか、2人も被害者が…

「今日の朝、川上さんが飛び降り自殺をしたらしい。」

ざわめきが起こる。

…川上さん…犯人と思われる人。

追い詰められすぎたか…。


―――3日目。もう、殺人は、起こらない。そう、安心していた。皆、そう思っていた。なのに、熊野君が、殺された。

部屋には、何も残っておらず、死体だけが、横たわっていた――。


もう終わった。そう思っていたのに、犠牲者が出た。証拠が何もない。犯人は誰なのか。振り出しに戻ってしまった。

それから4日過ぎた。クラスメイトに聞き込みをし、アリバイがあるかどうか調べた。残り31人。現実でも、死人が1人増えてしまった。これも、犯人の策略なのだろうか。ドアにピアノ線がつけられていた。調べたところ、返り血は包丁を抜いた時に多く発生するらしい。ドアは廊下側に開くタイプだから、ピアノ線に包丁をつけて抜けるようにすれば返り血がドアを開けた人につく。それを利用したのだろう。そして、アリバイが無い人は6人に絞れた。紗耶、波瑠、灰夏、卓也、華梨、澪斗。犯人は、誰か――。

「私は違うよ。恨みも何もない。逆に助けたかったな…。」

と、紗耶。

「僕も違う。友達を殺してから他の人を殺すなんて出来ないよ。」

と、まぁ、全員こんな言い分だ。これに、死亡推定時刻とやらが分かれば良いんだが…戻ったら調べてみるか。


なるほど…ドラマのようにはいかないのか。細かい時間まで推定はできない。そういえば、死後硬直とやらもあったな。えっと、2時間程で顎関節が硬直する…なるほど。これならいける。普段の滞在時間は7時間。23時から6時までだ。23時になると、どう足掻いても眠ってしまう。そして、必ず6時に目が覚める。必ず時計を着けていけば、なんとかなるはずだ。そしてクラスの全員にも、時計を着けさせよう。そうすればきっと、もっと絞れるはずだ。


洋館だ。この悲劇は止められるはずだ。あの考えは2人にも話し、協力してもらうことにした。何故か、毎回スタートは部屋の中だ。一番狙われやすい時間帯だろうから、合流を急ぐ。


「梨璃だけか。」

「瑠美はまだ来てないよ。」

「そうか…一昨日も、遅かったよな。構造は分かっているはずなのに。」

「おまたせ。」

「どこに行ってたのさ。」

「紗耶のところ。」

「分かった。」

「それじゃあ、あのことは覚えているよな。」

「朝、話してくれたことでしょ?」

「ああ。」

「30分おきに少し動かしてみれば良いんだっけ。」

「そう。」

「見廻りにでも行くか。」

「オッケー。」

「最初は…澪斗のところに行ってみるか。」


      ・  ・  ・


それから、華梨と卓也のところへ。そして、紗耶の部屋に向かう途中。悲鳴が聞こえた。2時。紗耶の死体を発見。包丁が床に転がっている。いったい何本の包丁があるんだ…。今回もトラップ形式。もう、簡単に見破られるのに、まだ続けるのか。とりあえず、死後硬直を調べてみるか。


結果。24時頃。澪斗と華梨は俺達といたため、犯人ではない。そして、朝、全員のアリバイ確認をしてみたら、全員のアリバイが立証されてしまった――。

いったいどういうことだ…全員アリバイがあるなんて…。

「これじゃあ、犯人を見つけられない…」

10分の誤差があると仮定したとしても、全員アリバイが…ん?

「紗耶の部屋に行った人は?」

誰も、手を挙げない。

「どうして手を挙げないんだ?瑠美。」

「もう知ってるから良いかなって。」

「そうか。他には?」

誰も、手を挙げない。

「そうか。分かった。」

紗耶の部屋に行った人は、少なくとも0人。多くとも1人だろう。彼女を疑うことは躊躇われるが、仕方ない。

しかし、アリバイが全員あるとは、どういうことだ?死後硬直の時間を変えたとしか…ああ…そうか。あるじゃないか。あのピアノ線を使えば、きっと、できるはずだ。そして、これをできたのは――。待ってろよ。もう、逃げられないからな。







犯人は、死後硬直のことを知っている人物。更に、俺がそれを、使う事が分かっていた人物。そして、人を殺す為に、来る時間を遅くした。

「瑠美。君なのか。」

「…なんのことかな。」

「君しかいないんだ。犯人と思える人間が。」

「私にもアリバイが…」

「トリックはこうだ。」

まず、動けないように足に釘か何かを差しておく。その後、椅子に座らせる。椅子に括りつけるのにはピアノ線でも使ったのだろう。そのピアノ線の端にナイフを付ける。2本使えば充分だ。最後に、それを扉の前で引けるようにすれば完成だ。引いたら、そのまま斬れるってことだ。

「合ってるか?」

「…正解。まさか、こんなに早く見破られるなんてね。」

「どうして、人を、」

「祐は、これ、知らないよね。」

そう言って腕を捲る。そこには、無数の痣があった。

「長袖の服ばかり着ていると思ったら…」

「今まで殺してきた人は、全員私を殴ってたんだよ。」

「…っ……知らなかった…気づいてあげれなくて…ごめん。」

「それじゃあね。祐。大好きだよ。」

そう言い、瑠美はナイフを取り出し、自分の首に…血が、垂れる。

「瑠美…!遅かった…クソッ…」

目が覚める。時刻は、5時。

瑠美………いったい、何があったんだ……。


・・・


瑠美side〜過去〜


〜2年前、中3〜

「っ…!?」

「可愛いからって調子のんじゃねぇーぞ?男たらし。」

「どんな男にも色目を使って、何も起きないと思ってたの?」

笑い声が、耳に響く。

「お願いだから…もう…やめて…。」

「は?やめる訳ね〜だろ。」

「元はと言えばお前が悪いんだよ。人の彼氏取りやがって、サイテーの屑が!」

そうだそうだと囃し立てる声がする。

「何人もの敵を作ったんだ。これからも覚悟しとけよ?」

恐怖、恐怖、恐怖。続く、続く、恐怖、恐怖。



〜約1年前、高1〜

「なんかつまんなくなってきた。」

「あ、そうだ、こいつの醜態が学年中に広まったわけだしさ〜ゲームしない?」

「ゲーム…?」

「例えばさ〜、―――。」

「お、良いね、それ。」

「でしょ〜?」

「っ………」

どうしてこうなったのか、もう、覚えていない。


〜8ヶ月前。高1、秋〜

「それじゃあ〜……学年1の陰キャに嘘告白ドッキリしようよ!」

「おお!良いね!」

「やっちゃえ〜。」

「私以外の人に…危害を、」

「何?ヒーロー振ってるの?ウケる〜。」

「逆らったら、どうなるかわかってるんだろうな?」

「…っ。」

「明日の朝に、靴箱に手紙を入れて、昼休みに嘘告白。さて、あの陰キャはどんな反応するのかな〜?」

「あの陰キャの名前って何だったっけ?」

「確か、祐。永野祐だ。」

「良く覚えてるねー。」

「それじゃあ、今日は解散。また明日ね。」

「うん。…逃げるなよ。瑠美」

「う…うん……」


祐。彼は学年1の陰キャと呼ばれるくらいに暗かった。友達はいないという噂も立っている。そんな人に瑠美が告白する。みな、祐が勘違いをし、面白い画が見れるのではないかと期待する。

祐は中学の頃から暗かった。友達は、梨璃のみ。小学校からの親友だそうだ。高校1年の時、放課後はよく2人で遊んでいた。学校内で見た人はいない。また、これは噂でしかないが、2人に付き合っているのかと聞くと付き合ってないと答え、好きなのかと聞くと好きだと答える。らしい。


さて、次の日の放課後。瑠美は祐を校舎裏に呼び出した。


「なんだよ、話って。接点ないだろ。」

「あのね、えっと………私は、あなたのことが好きです!」

「あっそ。……悪い。」

祐は瑠美を抱きしめた。

「え、ちょ、」

「嘘告だろ。これ。」

「っ…なんで知って」

「さぁな。1つ提案がある。」

「何?」

「このまま本気で付き合うことにしたって嘘をつかないか?彼女等あいつらを驚かしてみよう。」

「…面白そう。」

「さて、一回離れるぞ。」

そして、2人は手を繋ぐ。

甲高い声が響く。

「アハハハ!勘違いして!バッカみたい!」

「えっと…私達、付き合うことにしたから…。」

「へ?」

「「「えーーー!?」」」


それからは平和だった。高2になるまでは。


・・・


祐のことは付き合う中で好きになっていった。

もう、本当の恋人だ。祐は梨璃と遊ぶ時間が減ると少し嘆いていた。友達がいるなんて、びっくりした。梨璃とは友達になれた。おめでとうと祝福もしてくれた。

それが気に食わなかったのか、彼女等は虐めを再開した。祐の見ていない場所で、祐のいない時に。

身体に痣が増えていった。祐に心配をかけたくなかったから必死で隠した。

憎悪が、殺意に変わった。それが具現化し、洋館となった。



・・・



俺は瑠美の過去を夢で見た。瑠美は、虐めて来た人を全員殺す予定だった。まだ、達せられていない。他クラスにも、彼女を虐めていた人はいる。だけど、もう、終わったんだ。


・・・


数日後。

俺達は日常に戻った。失った者は元に戻らない。

だから、その分、俺達は生きていかなければならないんだ。


〜end〜

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1話完結集 夜影空 @koasyado2

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