僕らの出会いは間違ってないはずだ
私、こと、春歌は、彼と初めて出会った。自己紹介は陰キャそのものだったのに、話してみると楽しくて。そんな彼を、ずっと見ていたい。そう、思ってしまった。
・ ・ ・
俺、こと、秋斗は、彼女と初めて出会った。自己紹介は陽キャそのものだったのに、話してみると、嘘が多くて。そんな彼女を、支えてあげてみたい。そう、思ってしまった。
【春歌】
秋斗のことは、はっきり言って、第一印象は最悪だった。あまり話さないし、話すとしても他人への配慮がなく、強い口調。嫌い。そう、思った。
・・・
【秋斗】
桜だ…。たった一本の桜。どうしてこんなにも、心が引き寄せられるのだろう。綺麗で、儚いだけなのに。桜…桜…
「あー!桜だ!」
思わず振り向いてしまう、なんてことはなく、そのまま無視する。
「そうだね~。」
案の定、俺に言ったものではなかった。
「君も、そう思う?」
俺じゃない。勘で分かる――
「君だよ。秋斗君。」
――はずだった。
「お、俺?」
「うん。」
まずい。こういう時にどういう反応をするべきなのか分からない。とりあえず流しておくか…。
「ああ、そうだな。」
普通は、これで去ってくれる。話す意思が無い。そう思わせることで。
「本当に?」
思わず、戸惑ってしまった。こんな人は初めてだ。ちゃんと、ぶつかってきてくれる人は。
「さぁ。考えてみな。」
試してやる。
「そんなの、わかるはずないじゃん。その人の気持ちは、その人にしかわからないんだから。」
思ってたものと違う答え。普通、2択で答えないか?それとも俺がズレてる?いや…そんなはずは…
「合ってる?」
まぁ、確かに間違ってはいない。
「ああ。」
「良かった。」
「は?なんで。」
あ…いや…大丈夫だ。
「だって…」
だって?なんだ。何を言いたい。
「ううん。何でもない。」
そう言い、彼女は去っていった。俺の心に、何かを残して――。
その後は、とても平凡だった。何かが起こるわけでもなく。そういえば、彼女の名前を聞きそびれた。別に大丈夫か。どうせ忘れる。
さて、帰るか。もう、ここには用はない。
玄関に行き、靴を履き替え、外に出る。
「秋斗君。」
呼び止められた。誰なのか、すぐに分かった。
「何。」
「話しに来た。」
「そう言われても俺はお前と話す話題を持ち合わせていない。」
「そっ…か…じゃあクイズ。」
「は?」
この流れで急にクイズ出題は訳分からない。
「私の名前は?」
…分からない。名前、聞きそびれたから。でも、クイズには正解したい。どうする…
「10…9…8…」
制限時間付きは聞いていない。
「2…1…ハイ、不正解。」
「ズルくないか?それ。」
「どうせ分からないんでしょ。」
図星。
「図星だね。当たり前かぁ。君には、言ってないもんね。」
「そうだな。で、名前は?」
「春歌」
これが、俺と春歌の出会いであり、後に、俺の生活が狂っていくキッカケでもある。
それからというもの、春歌は放課後に俺と話すようになった。
一人で過ごしたいが、流石に断りにくくなっている。だって彼女は――。
「秋斗。部活、入らない?」
「部活って…」
部活。それは協調性を求められる空間であり、俺とは無縁の響きだ。
「私が入る部活、人数少なくてさ。良ければって思ってね。」
断ったほうが良いのだろうか。もし、もし彼女がそこで辛くなったら?逃げ出したくなったら?きっと彼女なら――
「分かった。」
「良かった。ありがと。」
「なんの部活だ。」
「演劇部。」
良かった。演劇は少しだけやったことがある。得意ではないが。俺でも、少しは力になるだろう。
「今日の放課後、空いてる?」
「埋まってるとでも?」
「そっか…そうだよね。」
空けてあるに決まってる。君が1番、分かってるだろう?
「部室に行くから。放課後。分かった?」
「ちゃんと来いよ。こっちに。」
「分かってる。」
部室って、どこにあるんだ?放課後まで待つしかないが…。
放課後を告げるチャイムが鳴る。
準備するか。
「秋斗。行くよ。」
「春歌か。分かってるさ。」
演劇部。多分、俺にも向いている部活だろう。
「着いたよ。」
直後、先輩が飛んできた。
「春歌、この子新入部員?」
…部員はざっと見て6人か。芝居をやるには一人ひとりの負担が大きすぎる。仕方ない…。入るか。
「はい。そうです。」
「春歌〜ありがと〜。これでやっと6人だよ〜。」
6人か…ん?だったらあの人達は…
「あ、今疑問に思ったね。」
心を読まれた?いや、顔に出てたのか…。
「あの人達はただここにいるだけだよ。でも、今日はずっとここにいるつもりみたい。避けてほしいんだけどね…。」
仕方ない…
「なんとかしますか?」
「できるならそうしたいよ。けど…」
言葉を聞き終える前に、動く。
「すみません。避けていだだけませんか?」
「んだよお前。部外者だろーが!」
「俺は演劇部に入部します。部外者ではありません。」
「残念だが、もう遅いんだよ。ここは俺らの場所だ。」
「何をか言っているのか、さっぱり分かりません。」
敬語とタメ口を混ぜる。
「この学校という場所は公共の場です。部室は、その部活のもの。あなた方こそ、れっきとした部外者なのではないでしょうか?」
「ふ…なるほど。行くぞ。お前ら。ここで集まることは禁止な。」
「は?」
「こいつの言う通りだ。」
「わ、分った。」
話の通じる人で良かったと思う。これで避けてくれなければ為すすべがなかった。
「秋斗君凄いじゃん!」
「お疲れ。秋斗。」
返事はしないでおこう。この部活は、楽にやっていけそうだ。
…結論から言う。思ったよりも大変だった。演劇部は本当に人数が少ない。前に述べた通り、人数は6人。普通は10人以上いなければ負担が大きくなってしまう。もっとも、演劇に興味がない人が多く、入部希望者は多くて4人のようだ。
入部して1ヶ月経った今でも、苦労が多い。
たまり場にする人はもういないが。
今日も劇の練習。何度も言うが、一人ひとりの負担が大きい。セリフの量が多い。やるべきことも多い。
練習は、基礎として、体幹トレーニング、柔軟体操、発声練習がある。演劇部は文化系の部活だ。だが、ここまで見れば運動系に近い部活だと分かるはずだ。それから舞台練習に入る。体力を多く消費する。毎日疲れる。
だが、俺は順調だった。他の人が多く演出から訂正を受けるが、俺は未だにされていない。どうやら、筋が良いらしい。根拠として、先輩に、
『声も出てるし、動くこともできてる。すごいよ。』
と言われたことだ。でも、俺は――いや、今は言わないでおこう。
あと少しでテスト前部活動休動期だ。名の通り、部活が休みになる。おそらく、春歌は俺を下校に誘うだろう。今までに、何度もあった。慣れたものだ。
1日目。放課後。話しかけようとしたが、別の友達と話していた。俺を見たら、
「気をつけて帰ってね。」
と言った。
2日目。放課後。話しかけたが昨日と同じように言われた。
3日目。お互い、何も言わなかった。
4日目も、5日目も。そのまま話さずに、テスト期間が終了した。
期待した俺が馬鹿だった。無駄な期待はもうしない。
部活が始まる。どんなに、期待しないと思っても、少しだけ、期待してしまう自分がいる。部活終了後、話しかける。
「なぁ――」
無視。
「お疲れ様でしたー。」
そう言い、彼女は出ていった。
どうして。なんで、無視するんだ。俺は、何も、していないはずなのに。どうして。
それからも、無視され続けた。
なるほど。もう、俺とは関わりたくないと、そう、言いたいのか。分かった。だったら俺も――。
それから、1ヶ月が経った。春歌とは、必要最低限の会話しかしていない。でも、彼女は、辛そうな感じがした。いつも通りに見えるのに。俺しか知らない秘密。それが、影響しているのか。答えは、彼女しか知らない。
・ ・ ・
「秋斗。春歌について知っていること、ない?」
先輩である真莉さんに言われる。
知っていることはある。でも、それが、話して良いことなのか分からない。多分、俺にしか話していないことだから。だから、あえてはぐらかす。
「なんで俺なんですか。」
「仲良いでしょ?」
「さぁ。俺には分かりませんよ。」
前は、仲が良いように見えただろう。今は、違う。
「もう一度聞くね。春歌について知っていることはない?」
「あると思いますか?」
「思う。」
聞き方が悪かったな。これじゃ、あると言ってるのと同じだ。仕方ない…
「お察しの通り。ありますよ。真莉さんも、あるでしょう?」
「なんで…」
「前に少し、話してましたよね。」
「わかったよ…」
「真莉さんも話して下さい。ここじゃちょっとあれなので、あそこに行きましょう。」
デパートを指さす。彼女と話したあの場所は、人が居なかった。
「分かった。」
移動する。
デパートの最上階。ベンチに座る。これ以外何もない。
「話して下さい。あいつについて知ってること。」
「小さい頃に交通事故にあったって聞いたよ。」
「交通事故……それだけですか。」
「うん。」
「そうですか…」
俺が話す内容は、重すぎる…。いや、きっと真莉さんなら。
「彼女は――」
・ ・ ・
「帰ろう。」
「ああ。」
これが、最初だった。春歌のことを知っていくことの。
帰り道に、いつも話す。彼女自身のことを。
「私、お弁当自分で作ってるんだ。親が、ちょっとね。」
「そうか。」
この時は、疑問に思わなかった。『ちょっと』の意味について。
別の日。
「家に…帰りたくない…。」
「寄り道するか。」
「ぅん。」
デパートの最上階。
これは良かったと、今でも思う。少しでも、楽になれたなら。
「私ね……」
そのまま、待つ。
「私、小学の時から暴力を振るわれて…それが中学まで続いたんだ…。」
「っ…!」
暴力…虐めか…。辛いどころじゃない話だ。
「不登校だったのか?」
「ううん。体調不良の時以外、全部通ってた。」
「え…なんで。」
「だって…家でも……」
そう言い、春歌は腕を触る。
「…悪い。」
「…大丈夫…。」
「今は…」
「今は、親が不機嫌な時だけ。」
「そうか。」
「ごめんね。急に。言わないで。君が、本当に信頼してる人以外には。」
「分かった。」
それからテスト3週間前まで何もなかった。いつも通りだった。なのに、急に忙しいと、すぐに帰るようになった。帰りたくない。そう言っていた彼女は、それからずっと――。
・ ・ ・
「これが、聞いたことの全てです。」
「そっか…そういう事情があったんだね…。」
「あまり心配し過ぎないで下さい。」
「うん。」
「それじゃ、俺は帰ります。」
「お疲れー。」
「お疲れ様でした。」
…本当に、良かったのだろうか。俺は、真莉さんのことを、本当に信頼しているわけじゃない。
僕らの出会いは、間違っていたのだろうか。
答えは、分からない。今はまだ。
・・・
それから、何週間か過ぎた。春歌とは関わらなかった。教室では、前と変わらない様に見えた。この日。夏休みに入った。本当は、話したかった――。
夏休みになっても、部活はある。公演のため、練習する。春歌は、来なかった。連絡はない。後から、体調不良だと聞いた。
1週間、春歌は来なかった。練習は少しずつ進んでいる。そしてこの日。春歌が部活に来た。部活終了直前に。彼女は、泣いていた。そして、俺を見たとたん、膝から崩れ落ちた。
「大丈夫!?秋斗。春歌に何かしたの!」
「俺には何の心当たりもありませんよ。」
「秋斗…」
春歌が呟く。
「秋斗…良かった…ここに…ちゃんといた…。」
近くに寄った俺にしか聞こえない声で
そのまま部活が終わった。
「春歌…」
「助けてよ…助けて…秋斗。」
「どうして…今頃…。」
「ごめん…もう、人の助けは借りないって、決めてたのに。」
「…」
「私、中学の時、唯一の友達に助けを求めたの。そしたら、今度はその子が標的になって…私、何も出来なかった。その後に、その子が裏切って、私を虐め始めた。私が助けを求めたら、その人に不幸が起こるから…」
俺は、言葉を失った。こんなことも、あったなんて。
「だから、秋斗を避けてた。頼ってしまいそうだったから…でも……」
「だからって……それでも、人を頼らないなんて――泣きたい時に泣けば良いし、笑いたい時に笑えば良い。それと同じで、助けて欲しいときには助けてって言えば良いのに…。」
「……。」
「不幸なんて、人それぞれで、俺は、君に頼ってもらいたかった。だから、俺は、君のことを助けたい。これ以上の理由は必要ないだろ。」
「うん…ありがとう…」
「でも、良かったのか?部員がいる中で…」
「大丈夫……。」
余計だったか。まぁ、いいか。
「春歌〜…私達を頼っても良いんだよ〜」
「ありがとうございます…でも、大丈夫です。」
「そっか…いや…そうだよね。秋斗。春歌を守って。」
「ええ…まぁ、できるだけ頑張りますけど…。」
「自信持てよ。」
「そう言われてもですね…
「ま、頑張って。」
「秋斗…」
「ああ。」
これで条件は揃った。後は――。
デパートの最上階。ここが話をするには最適だ。
「秋斗、ありがとう。」
「今まで何があったのか心配だった。本当はもっと早くに話してくれれば良かったのにな。」
「秋斗、どうして自信が無いの?」
「別に。」
「言って。」
謎の圧がかかる。実際はかかってないはずなのに。
「分かったよ…。俺は、演劇にも自信を持ってない。理由は、分からないんだ。自分でも。」
「じゃあ…演技はどうしてあんなに…」
「演技か…俺は演技をしてるのかすら微妙なんだ。」
「え…」
「俺は性格が安定しない。様々な性格が勝手に出てくるんだ。その人に合っている性格に、変わるんだ。演技をしていると言うより、そのキャラに合った性格が勝手に出てくると言ったほうが正しいかもしれない。今では…本当の自分の性格が、分からなくなった。」
「そんな…そんなこと、あるわけ…」
「あるんだよ。」
「そっか…うん。見つけてあげる。私が、あなたを!」
「さぁ…できないと思うよ。」
「私も、力になりたい。」
「春歌、まずは君だ。」
「うん…そうだね。」
それから作戦のようなものを立てる。明後日決行。絶対に成功させてやる。
・ ・ ・
「準備は良いか?」
「うん。大丈夫。」
「よし。」
春歌の家へ。ちなみに、俺の家から歩いて30
分程度の場所にある。
「ただいま。」
「お邪魔します。」
「その人は?」
「友達。送ってもらったついでにちょっとね。」
「勝手なことしないで。」
情報通り、右手の甲に絆創膏が貼ってある。
「あの、その右手の傷、大丈夫ですか?」
気遣うように。相手を油断させる。
「包丁でちょっとね。」
さすがに本当のことは言わないか。
「え、左利きなんですか。」
「いいえ、右利きよ。」
墓穴を掘ったな。
「右手で包丁を持つんですね。どうして右手で持ってる包丁が右手の甲に傷を付けるのですか?」
「え?何言って……」
「答えて下さいよ。」
「っ……」
「私が、答えてあげる。」
「やめ……」
「なぜ?普通のことならそのまま言わせれば良いはず。止めると言うことは、つまり…」
「あー…」
急に拳が飛んで来る。大丈夫。殴られることには慣れてる。
「暴力では、何も解決しませんよ。ちなみに、俺はもう、あなたを訴えることはできますよ。」
「な……っあ…クソ!」
…これでも解決しなかった場合、どうするか…いや…大丈夫そうだな。
「お母さん…」
「春歌…ごめんね。サヨナラ。」
そう言い、出ていく。
「お母さん!」
「追うか?」
「…大丈夫…そのうち、帰って来るよ。」
「そうか。これで…良かったのかな…。」
「大丈夫。ありがとう。」
「何かあったら連絡してくれ。」
「うん。またね。」
「ああ。」
これで、やっと終わりだ…
・・・
「秋斗、おまたせ。待った?」
「少し。いま来たようなものだ。」
「もう少し、言ってほしい言葉を察して欲しかったけど。」
「ん?」
「なんでもない。」
今日は春歌と買い物へ。買い物くらい、1人でできるだろうに。まぁ、俺は俺で買いたいものがあったから付いてきたからちょうど良かった。
「えっと…あっ、あった。」
春歌は食材を買っている。
「親、帰って来てないのか?」
「うん。」
「もう20日経ってるのに…か…。」
「大丈夫。大丈夫だから。」
「はいはい。」
何故だ。春歌といる時間が、安心する。
買い物を終え、帰る。
「まだ…終わってないから。」
「終わったんじゃないのか?」
「私の番はね。今度は、秋斗の番。」
「できるものならやってみな。」
「…絶対に、絶対に!」
…眩しいな。信じてるんだ。自分の力を。俺も…信じたかった。
「これで全部かな。秋斗は何か買ったの?」
「今からだ。0.5mmのシャーペンの芯を買う。」
「そこで待ってるから、買ってきて良いよ。」
「ああ。」
無事に買い物も終了した。
それから、平日も、休日も、春歌と過ごすことが多くなった。周りの誤解を招きかねないと言ったが、大丈夫の一点張り。こっちの身にもなってほしいものだ。
「秋斗、何してるの?」
「めんどくさいな…」
「ごめんね〜。でも私はずっと。」
チャイムが鳴る。春歌は席に帰っていく。何だ、何を言いかけたんだ。モヤモヤした気持ちが、渦巻いた。
それから、何日か経った。春歌といるうちに、いつの間にか、楽しい、悲しいが分かるようになった。起こることもあるし、喜ぶこともある。春歌の宣言は、実現した。
「秋斗。行こう。」
「ああ。」
「明るくなったね。」
「君のおかげだよ。ありがとう。」
友達は、増えて無い。
「今度、友達紹介する?」
「いや、大丈夫。君さえ居れば良いよ。」
春歌が俯き、顔に手を当てる。
「どうしたんだ?急に。」
最近、気づいたことがある。俺が誰かのことを思い浮かべる時、必ず、春歌の顔が思い浮かぶ。どうやら、俺は、春歌のことが、好きらしい。
「なんでもない…こっち見るなぁ…!」
「なんだよ…ほんとに。」
家に、着く。
「また明日。」
「ちょっと待って。次の土曜日の祭り、一緒に行かね?」
「2人で…?」
「ああ。2人で。」
彼女は、満面の笑みで、答えた。
「行きたい!」
・ ・ ・
土曜日の夜。待ち合わせ場所で待つ。
「おまたせ。秋斗。待った?」
「今日は全然待ってない。」
「そう。良かった。」
春歌は、浴衣姿だった。
「浴衣…似合ってる。」
「良かった。ありがとう。」
会場へ。
「人、多いなぁ…」
「多過ぎるレベル…。」
どこの屋台も人だかりができている。
「どこに行こうか?」
「人の少ない場所…の前に屋台。」
「分かった。」
「はぐれないように、手…」
「う、うん。」
屋台に並び、りんご飴などを買う。
「行こ。」
「ちょっと、どこに…」
「いいから。」
確か、あの場所。あそこなら、きっと。
ああ…良かった。
「ここって…」
「一番綺麗に花火が見れる穴場。」
「どうしてここを…」
「毎年、ここで花火を見ていたんだ。人混みは嫌いだから。」
「毎年…」
花火が上がる。
「良かった。一番大切な人と来れて。」
花火が光ると同時に、俺は言った。
「好きだよ。春歌のことが。」
「え、ちょっと…」
「好きだよ。」
「っ〜〜!?」
…言ってしまった…知れば知るほど、彼女に惹かれていってしまい、気持ちが分かったときには、もう遅かった。
花火が、上がり続ける。綺麗だ。写真…撮っておくか。シャッターを押す。
「そんな画面よりも、私を見て…秋斗。」
「…は!?」
「私も好きだよ。秋斗。」
ああ。やられた。
「花火、綺麗だね。」
「春歌も、綺麗だよ。」
「ありがと。」
最後の花火が上がり、空に色が無くなる。
「春歌、ごめん。どうせ、出来ないと思ってた。でも、諦めずに…ごめん…いや、ありがとう。」
「私だって…秋斗がいなかったら、今頃どうなっていたのか、分からない。本当にありがとう。」
僕らの出会いは、間違っていなかった――。
end.
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