クラスの一軍女子に自分がオタクという事がバレてしまった…でもなんかラブコメが始まったんだけど?
栗坊
オタクに優しいギャルというのは存在するのだろうか?
趣味はアニメ鑑賞、ゲームに漫画。毎日学校に登校してはオタク友達ともに前日放送された深夜アニメや漫画の新刊の内容を語り合う日々を送っていた。
そんな彼もこの春、高校2年生へと進級する。高校2年生ともなれば青春真っ盛り。異性という存在をかなり意識する時期だ。
現にクラスメイトたちはやれ「〇〇ちゃん可愛い」だの「△△君カッコイイ!」などと友達と語り合い、オシャレに力を入れたり、異性と積極的にコミュニケーションをとっていた。
しかしクラスメイトたちがそのような状態にあっても、卓のやる事はそれ以前と何も変わらなかった。オタク友達と共に趣味の内容を語り合うだけだ。
もちろん卓も異性に全く興味が無かった訳ではない。ラブコメ漫画・ラノベも好きだし、ギャルゲーもやる。
卓がそれまでと全く変わらない行動を続けている理由…それは、彼は自分の身の程を知って自重しているだけなのだ。オタク男子である自分が異性にモテるはずがないと。
だから他の人間が恋人を作るのに当てる時間を趣味に費やしている。
その日も学校に登校した卓は早速友人の姿を探した。昨日放送していた深夜アニメの感想を語り合うためである。
彼は教室中をキョロキョロと見渡し、小太りで眼鏡をかけた男が教室の隅の席にいるのを確認すると手を振って声をかけた。
「よぉ佐吉! 昨日の『ギャル僕』見た?」
その小太りの男の名前は
「おおっ、卓殿ではござらぬか! おはようでござる! いやぁ~昨日の美香たんのデレ凄まじかったですなぁ~。
佐吉もまた典型的なオタク男子であった。彼の口調がこんななのは、彼の好きなキャラクターを真似ての事である。少しでもそのキャラに近づきたくて、まず形から入る事にした…と卓は聞いていた。
卓は佐吉の前の席に座るとすぐさま昨日放送していたアニメの感想を語り始める。
彼らが現在語り合っているのは今期の覇権アニメ『ギャルの彼女がオタクの僕に恋する訳がない!』というオタク主人公とギャルヒロインのドタバタラブコメディである。通称は『ギャル僕』。
その王道ともいえる展開が視聴者にウケ、今期の覇権と呼ばれていた。
「実は某…あの作品を見るまではギャルが苦手だったのでござるが、ぶっちゃけギャルもアリだと思うようになりましたな。美香たん推せますなぁ~」
美香というのは『ギャル僕』のヒロインの名前である。普段はダウナー系でつれない態度をしているのだが、主人公にデレた時の破壊力が凄まじく、それが多くの視聴者を虜にしていた。
「はぁ…某にも可愛いギャルの恋人ができませんかなぁ~」
佐吉はそう言ってため息を吐き、黒板の前で楽しそうにおしゃべりしている女子の集団に目を向ける。
このクラスで可愛いギャルと言えば…あの人が当てはまるだろう。
制服のブラウスの胸元は開け放たれ、胸の谷間の始まりが見えており、スカートは短く、少し風に揺られただけでパンツが見えてしまいそうだ。爪にはカラフルな付け爪がつけてある。
性格は社交的で友達が多く、ノリも良いので男女問わず人気が高い。
彼女はまごう事なきこのクラスのトップカースト、一軍女子であった。
「篠崎さん…彼氏とかいるんですかな?」
一軍女子の方を向いてそんな事を言う佐吉に卓は苦言を呈した。
「おいおい、『ギャル僕』はあくまでアニメの…空想の産物だぞ。現実でも同じ事が起きると思うんじゃない。俺たちは日陰者だという事を忘れるな」
卓がこう言ったのは友人を思っての事である。現実とアニメの世界は違うのだ。
もし友人が勘違いを起こしてあの一軍女子に告白などしようものなら、彼はクラスメイトたちから「村八分の刑」を受ける事になるであろう。卓は友人にそのような目にあって欲しくなかった。
そもそもな話、ギャルがあのような派手な格好をしている理由の半分はオタク避け…自分に近寄って来る弱者男性を排除するためにあのような格好をしているのだ。派手な格好をしている女子に弱者は恐れをなして寄ってこないからである。
ちなみにもう半分はオシャレのためだ。
つまり…ギャルはオタクという存在が元々嫌いなのである。両者は決して相容れない。
そういう理由で空想の世界でギャルとオタクがくっつく事はあっても、現実の世界でギャルとオタクがくっつく事はありえないと卓は思っていた。
「それにさ、あんな可愛い女の子に彼氏がいないなんてありえない。今だってほら…」
卓が指さした先では篠崎志乃とこのクラスで同じくトップカーストに君臨しているイケメン君が談笑していた。
可愛い女の子は常に男子から言い寄られている。
だから彼氏がいないなんてまずありえないし、言い寄って来るイケメンたちを差し置いて、オタクを選ぶ事などありえないだろう。
「はぁ、現実は某たちに厳しいですぞ…」
「仕方ないさ」
佐吉は特大のため息をついた。卓は佐吉の肩に手を置き、彼を慰める。
そうこうしているうちに予鈴が鳴り、朝のSHRの時間となった。卓たちの担任教師である
数分後、あらかた本日の連絡事項を伝達し終えた辻本はSHRの最後にある事を言い放つ。
「新しいクラスになって2週間、お前らもそろそろクラスメイトの顔と名前を覚えてきた頃だろう。そこでだ。今日は記念すべき第1回目の席替えをやるぞ!」
辻本の言葉にクラス中が湧きたった。
席替え。ほとんどの生徒にとっては楽しみな行事に違いないだろう。
しかし仲の良いクラスメイトの少ない卓にとっては少し憂鬱な行事でもあった。彼と仲の良い佐吉が近くにいればいいが、もしトップカースト連中の近くになったらと思うと気が重い。
「よーし、じゃあ出席番号1番から順にクジを引けー!」
このクラスの席替えはクジ引き型のようだった。クジを引き、その番号が書いてある場所に席を移動させるのである。
卓が引いたのは「30番」だ。窓際の1番前の席から「1番」と順に番号が割り振られているので「30番」は廊下側の1番後ろの席だった。
「全員クジ引いたかー? じゃあ移動しろー」
教師の号令に従い、クラスメイトたちは机を伴って移動を始める。卓も移動した。
「卓殿! 近くの席で良かったですなぁ!」
彼の新しい席の前には佐吉が座っていた。彼は「29番」を引いたらしい。卓は仲の良い友人と近くになれた事に安堵した。
あとは隣の席に無難な奴が来てくれればそれでいい。
だが彼のささやかな願いは無惨にも打ち砕かれる事となる。
「25番はここかな?」
元気のいい蝶の様な可憐な声が卓の耳に響いた。もしやと思って横を向くとそこには件の一軍女子・篠崎志乃がいた。
そのあまりにも輝かしい陽キャオーラに卓は目が潰れそうになる。こんなにも間近で彼女の姿を見たのは初めてだった。緊張で彼の背中に冷や汗が流れる。
「ヨロヨロ~! えっと…オタク君だっけ?」
「…
これはとんでもない人物が隣になってしまったと卓は思った。
◇◇◇
※当作品は「お試し連載」となります。1週間ほど連載して評判が良いようなら本格連載に入ります。
※投稿予定
10/5(土)~10/11(金)で1日2話、7時と19時に更新します。計14話。
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