第3話 実戦、そして……
俺が向かったのは、隣町にあるスラム街だ。
昨今の街というのは基本的に壁に囲まれている。
何故かと問われれば、モンスターが存在しているからだ。
先の大戦において作り出された改造生物たちは、世界各地に跳梁跋扈し独自の生態系を築いている。
そんなモンスターは当然の如く人を襲う。
なので人類は居住権を壁で囲う必要に迫られたということだ。
そして壁で囲まれた街は、一つ一つが高い独立性を誇るようになった。
古代の都市国家のようなカタチだ。
そして俺がこれから向かうスラム街はそのせいか、無法地帯と化している。
薬物の売買は当たり前、道のそこらへんに当然のように死体が転がっている。
挙句の果てに、警察の代わりにヤクザが街を取り仕切っているといった具合だ。
「到着、と」
俺はそんな街を囲う壁の上にいた。
十メートルを超える壁に立ち、その街並みを眺める。
小汚い街だ。窓ガラスは割れ、車は乗り捨てられ、人の死体が転がっている。
小さめのビルが立ち並ぶこの街は、かつてはオフィス街だったらしい。街の中央には高層ビルだって存在していた。
あそこは多分、この街の権力者が牛耳っている場所だろう。
「行くか」
俺は街の中へと飛び込んだ。
更なる力を求めて。
□
そこから先は戦いの連続だった。
初めに戦ったのは拳銃を持ったごろつきだった。
女性を襲おうとしていたので、蹴りをかましてやった。
どうやら銃火器の弾薬を自在に生成する能力を持っているらしく、何発も俺に向かって撃ってきた。
しかし今の俺には、対シフター用に火薬の量と火力を跳ね上げさせた、ハイパワーライフルすらも通用しないだろう。
無論そんな上等な代物を向こうが持っているわけもなく、ワンパンで決着した。
そんな俺を見たスラム街の住人が、わらわらと出てきて俺を取り囲んだ。
何でも今俺が倒した相手は、彼らの頭だったらしい。
それもだいぶ慕われていたそうだ。
そしてそれ以上に自分たちの頭がやられては、メンツが立たないと感じたのであろう。
知った事ではないが、戦いを挑んでくるというのならばこちらにとっても好都合だ。
無抵抗の相手にいきなり殴りかかるなんてことはごめん被りたいしな。
というわけでごろつきを一掃した。
色々な種類のパラダイムがあった。
オーソドックスな獣化や身体強化などや、これまたオーソドックスなパイロキネシスなどなど。
どれもあんまり鍛えられてはいなかった。
何も考えずに作ったんだろうな、というのが分かるパラダイムだった。
そこから先はひたすらに敵と戦い続けた。
というか困っている人を助けようとすると、自然と困らせている相手を倒す羽目になった。
色々な敵と戦った。
体がゴムみたいになるやつもいれば、シャコの体に変化させる奴もいた。
風を操る相手もいれば、バリアを張る相手もいた。
触れたものを液化する能力者と、液体を操る能力者のコンビはかなり手強かった。
しかしその全てに俺は勝利していった。
それだけ俺が実現させた即応集中は強力だったということだ。
というか即応集中なしでも俺の魔力は途方もない量に達しており、全身に魔力を纏った状態でも、並の攻撃なら効きはしない。
その莫大な魔力量をさらに一点集中させて相手に叩き込むのだ。
基本的に必殺であるといえた。
むしろ殺さないように手加減が必要なくらいだった。
そんなこんなでバッタバッタと薙ぎ倒していると、この街の有力者たちに目をつけられた。
最初は自分たちの支配下に加わるような打診だった。
しかしそれを断ると、相手は攻撃を仕掛けてきた。
容赦なく返り討ちにして行った。
流石に
即応集中によって無傷で勝利を収めた俺は、ついにこの街の頂点に挑むことにした。
そして勝った。
俺は更にこの街の三人の巨視能力者を撃破して、この街の頂点に立った。
しかしそんなことは重要ではない。
俺にとって大事なのは――。
□
「着いたな」
一つの集中治療室だった。
俺はそこにたどり着いた。
ここに、彼女がいる。
彼女は、シフターであった。
それもただのシフターではない。
では彼女は俺と同等の強者なのかと問われれば、それは違うと断言できる。
彼女は生まれつきのシフターであった。
そして同時に自分のパラダイムを制御できない能力者でもあったのだ。
彼女のパラダイムは【
全身の細胞が人間の形を超えて再生、増殖し続けてしまい、癌のような症状が体を襲うチカラだ。いや、力というよりは呪いか。
そんな力を持っている彼女は、歩くことは愚か立つことすらままならない。それどころか喋ることも眠ることも、激痛のせいで叶わない。
そして。
死ぬことすら、パラダイムのせいで出来ないのだ。
これを。
これを呪いと言わずして、何と言えばいいのだ。
だから俺はソレを解除する方法を作りたかった。
彼女と共に笑い合える日々を送りたかった。
だから作った。
能力を奪い、貸し、取り立てる力を。
後者二つは、彼女が新しい能力を必要とした時に渡すために作った。
「ずいぶん、時間がかかっちまったな」
「うー、あー」
「もう、大丈夫だからな」
彼女が能力を制御しきれなくなったのは、六歳の時だ。
それまで俺と彼女は親友だった。
俺は今も親友だと思っている。見舞いは毎週欠かさず来ている。まともな反応が返ってきたことはないが。
俺が能力を奪う際の条件は五つ。
一つ目は相手の能力名を知っていること。
二つ目は相手の能力が一人以上の人間に後遺症を残すレベルのダメージを与えていること。
三つ目は相手に触れていること。
四つ目は相手が意識を失っていること。
五つ目は相手からダメージを受けていること。
後者二つに関しては、両者の同意があれば省略できる。
俺は少女の手のひらに優しく触れた。
いびつな手のひらだった。
癌細胞と化した彼女の肉体が、そうさせているのだろう。
俺は彼女に問いかけた。
「今から俺は君からこの
「うー、うー」
「大丈夫。鍛えているからな。この程度の力になんか負けないさ。だから、俺を信じてくれ」
少女は黙った。
そして俺の手のひらへと、力が流れ込んでくる。
どうやら彼女は俺のことを信じてくれたようだ。
「ありがとう」
莫大な生命力が肉体の内側を迸る。それに呼応して全身の細胞がボコボコと泡立つ。
しかし。
俺は魔力操作の要領で、完璧にそれを制御してのけた。
俺は今、彼女の呪いを完全に制御下に置いたのだ。
「…………」
あとは。
彼女が目覚めるだけでいい。
頼む。
どうか、この子にまともな人生を送らせてくれ。
何も悪いことをしていないじゃないか。だからどうか。
「……あ、」
「アヤノ?」
「あ、らた……」
「分かるか? 俺のことが」
少女がゆっくりと体を起こす。
肉腫によってはち切れんばかりだった入院着が、ほっそりとした彼女の体を覆っている。
ああ、十年ぶりだ。
「アラタ」
「アヤノ」
彼女に名前を呼ばれたのも。
彼女に微笑みかけられたのも。
彼女が俺の手のひらを握り返してくれたのも。
「ありがとう。私を助けてくれて」
「良いんだ。いいんだ……。ごめんな、こんなにっ、こんなに待たせて……!」
「いいよ。アラタは約束を守ってくれたもん。だから、いいよ」
「アヤノ!」
「アラタ」
俺と少女は力いっぱいお互いを抱きしめ合った。
もう二度と離さないように。
もう二度とどんな呪いにも侵させはしないように。
これが俺が最強の力を求めた理由だった。
一人の少年はどうして最強の力を求めたのか? ポテッ党 @poteto_party
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