愛が導く再生の物語 ~希望の光を求めて~

島原大知

本編

「いらっしゃいませー」


午前2時、深夜のコンビニに眠たげな声が響く。レジに立つ田中健太は、フリーターとして日雇いのバイトを掛け持ちしながら、なんとか生計を立てている26歳だ。


高校を卒業してからずっと定職には就けず、夢も希望も失ってしまった。虚無感を抱えながら生きる日々。健太にとって、生きるということがただ面倒くさいだけの作業に思えてならない。


「お疲れ様です」


隣のレジに立つ吉岡由美が健太に話しかける。健太と同じ深夜シフトで入ることが多い由美は、健太の数少ない心の支えだった。明るく優しい由美の存在に、健太は密かに癒されていた。


「由美さん、今日もお疲れ様です。ご飯、食べました?」


「まだなの。健太くんは?」


「俺も食べてない。一緒にコンビニ飯にする?」


「うん、そうしよう!」


二人で店内の商品を物色し、レジ脇のイートインスペースに座る。バイト仲間との何気ない会話が、健太の日常に少しだけ彩りを与えていた。


そんな時だった。自動ドアが開き、コンビニに一人の女性が入ってくる。


「いらっしゃいませー」


健太と由美は揃って声をかけるが、その女性の顔を見て健太は目を見開いた。


「岸本…麻里?」


「あら、田中くん?」


高校時代の同級生、岸本麻里だった。スラリとした長身に、涼しげな目元。健太の記憶にある麻里とは雰囲気が違う。流行のファッションに身を包み、高そうなアクセサリーを身につけている。


「ひさしぶりだね、田中くん。元気にしてた?」


「あ、ああ…まあ、ボチボチ」


麻里の鋭い眼光に、健太はうつむきがちに答える。麻里は少しニヤリとすると、特に何も買わずにコンビニを後にした。


「ねえ、さっきの人知ってるの?」


由美が不思議そうに聞いてくる。


「ああ、高校の同級生」


健太はそっけなく答えると、冷めかけた弁当に箸を伸ばした。麻里との再会に、なんだか胸がざわついている。


休憩時間になり、健太は裏口から外の空気を吸いに出る。ネオンに照らされた街は、眠らない不夜城のようだ。麻里の優雅な佇まいが脳裏に浮かび、思わず溜息をついた。


健太の人生は、どこで狂ってしまったのだろう。


高校を卒業し、希望に胸を膨らませていた頃が遠い昔のように感じられる。大学には進学できず、定職にも就けなかった。気がつけばアルバイトの日々。将来への展望が見えず、やる気も希望も失ってしまった。


「俺は、これからどうすればいいんだろう…」


星空に向かってつぶやく。冷たい風が、体を包み込む。


「田中くん、どうしたの?」


背後から優しい声がした。振り返ると、由美が心配そうに立っていた。


「ああ、由美さん」


「具合悪いの? さっきから元気ないみたいだから」


「いや、大丈夫。ちょっと昔のこと思い出しちゃって」


「そっか。田中くんは昔からあんまり自分のこと話さないよね。もし何かあったら、私に言ってね」


由美の言葉に、健太は小さく頷いた。いつも自分を気にかけてくれる由美に、心から感謝していた。


その時、コンビニの方から騒がしい声が聞こえてきた。


「今日はバイトの子、二人だけか〜。じゃあ、ちょっと楽しませてもらおうかな〜」


酔っ払った男の声だった。健太は慌てて店内に駆け込む。


「お客様、ご用件は何でしょうか」


高ぶった声で健太が話しかけるが、酔客の男は聞く耳を持たない。


「うるせえ! 酒もってこい、酒!」


「お客様、お酒はレジ脇の冷蔵ケースに」


「は? 客に取りに行かせるのか? 何だその態度は!」


男は怒鳴り、健太の胸倉を掴んだ。


「す、すみません、お客様。すぐにお持ちしますので」


動揺した健太に代わり、由美が冷静に男を制す。健太は我に返ると、大きく深呼吸をした。


「はい、お待たせしました。お会計350円になります」


健太は酒を袋に入れ、精一杯の笑顔で男に渡す。ようやくその場は収まったが、緊張で脂汗が流れていた。


「ありがとう、由美さん。助かった」


「ううん、気にしないで。バイトあるあるだよ、ああいうの」


そう言って由美は健太の肩をポンポンと叩いた。健太は由美の優しさに、胸が熱くなるのを感じた。


『俺、こんな仕事ばかりしてていいのかな…』


冷めた弁当を口に運びながら、健太はぼんやりと考える。このまま何の展望もないまま、人生を過ごしていくのだろうか。


そんな、あてのない日々を過ごしていた健太の日常に、再び岸本麻里が現れたのは、あれから数日後のことだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「田中くん、ちょっといい?」


シフトが終わり、帰り支度をしていた健太に、麻里が声をかけてきた。


「岸本さん、どうしたの?」


「ちょっと話があるの。付き合ってくれない?」


麻里の言葉に、健太は戸惑いを隠せない。数日前に再会したばかりなのに、どうして自分に用があるのだろう。


「…わかった」


コンビニの前で、二人は向かい合って立っていた。


「実は、ルームシェアしてくれる人を探してるの。一緒に暮らしてくれない?」


唐突な申し出に、健太は目を丸くする。


「俺に…? でも、俺はお金もないし…」


「大丈夫よ。家賃は折半だし、生活費はそんなにかからないから」


そう言って麻里は健太の目をじっと見つめる。その瞳に吸い込まれそうだ。


「考えておくよ」


曖昧な返事をして、健太はその場を後にした。麻里との同居。考えただけで、ドキドキしてしまう。


「…きっと、ダメだよな」


一人呟いて、健太はアパートへと向かった。狭い部屋に入ると、いつもの無機質な空間が広がっている。冷蔵庫の中身を確認すれば、またカップ麺とウィンナーだけ。こんな生活、いつまで続けられるだろう。


翌日、健太はシフトに入る前に麻里に連絡を取った。


「…わかった。一緒に住もう」


電話越しに麻里の嬉しそうな声が聞こえる。


「ありがとう、田中くん。今度引っ越しの手伝い、よろしくね」


数日後、麻里の部屋に足を踏み入れた健太は、その豪華さに圧倒された。高級マンションの一室で、おしゃれな家具が並ぶ。大きな窓からは、都会の夜景が見渡せる。


「あ、田中くん。荷物はそこに置いといてね」


麻里はソファに寝そべったまま、健太に言う。


「は、はい…」


この新生活に、健太の胸は期待で高鳴っていた。


「ねえ、仕事どう? 辞めちゃえばいいのに」


麻里の言葉に、健太ははっとする。


「でも、生活のためには…」


「大丈夫よ。私がちゃんと面倒見てあげる」


麻里はウィンクをして、健太の肩に手をかける。その仕草に、健太は何だかくすぐったい気分になった。


次の日、健太は由美にルームシェアを始めたことを報告した。


「へえ、同居かあ。相手は、この前のあの人?」


「そう、高校の同級生の岸本さん」


由美の表情が、少し曇ったように見えた。


「…そっか。上手くいくといいね」


いつもより元気のない様子の由美に、健太は少し戸惑いを覚えた。


麻里との同居生活は、順調だった。家事は麻里が買ってきたお総菜を並べるだけ。健太はただ、麻里と一緒の時間を過ごせば良かった。


ある日、健太が麻里の部屋へ入ると、知らない男が麻里と一緒にいた。健太は思わず、その場に固まる。


「あ、田中くん。紹介するね、私の仕事仲間」


男は不敵な笑みを浮かべ、麻里に手を回す。その瞬間、健太の胸に嫉妬の炎が燃え上がった。


「俺、ちょっと出かけてくる」


そう言い残して、健太は部屋を飛び出した。


公園のベンチに座り、健太は溜息をつく。今の生活に、何だか違和感を覚えていた。


「健太くん?」


優しい声が、耳に飛び込んでくる。顔を上げると、由美が立っていた。


「由美さん…」


「どうしたの、元気ないね」


ベンチに腰掛けた由美に、健太は今の気持ちを打ち明けた。


「俺、岸本さんのこと何も知らないんだ。本当の仕事も、交友関係も…」


「健太くん…」


由美は健太の手を取り、にっこりと微笑む。


「私は、健太くんの味方だからね。何かあったら、いつでも頼ってね」


その言葉に、健太は込み上げてくるものを感じた。


「ありがとう、由美さん…」


夕暮れ時の公園に、二人の影が寄り添っている。健太は由美の存在に、心強さを感じていた。


麻里のマンションに戻った健太を、予想外の光景が待ち受けていた。


リビングには見知らぬ男たちの姿が。テーブルの上には、怪しげな袋が積まれている。


「あ、田中くん。ちょうどよかった。ちょっと手伝ってくれない?」


嫌な予感がした。健太は思わず、一歩後ずさる。


「岸本さん、これは…」


「いいから、早く!」


麻里の強い口調に、健太の体が震える。


『これは、ヤバイことなのかな…』


不安と恐怖が、健太の心を支配していく。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

健太は信じられない光景を目の当たりにしていた。麻里がテーブルの上の袋を開け、中から白い粉を取り出す。


「これ、運んでくれない? 簡単なバイトよ」


麻里の言葉に、健太は愕然とする。


「そ、それって…まさか、ドラッグ…?」


「そんなに驚かないでよ。ちょっとしたお小遣い稼ぎよ」


麻里は涼しい顔で言うが、健太の脳裏には由美の顔がよぎる。


「…悪いけど、俺にはできない」


そう言い残すと、健太はマンションを飛び出した。どこへ行けば良いのかわからず、ただひたすらに街を彷徨う。


「…どうしよう」


公園のベンチに腰を下ろし、健太は頭を抱えた。こんな状況に巻き込まれるなんて。


「健太くん?」


聞き覚えのある声に顔を上げると、そこには由美が立っていた。


「由美さん…」


「どうしたの、そんな顔して。何かあった?」


優しく微笑む由美に、健太は思わず全てを打ち明けていた。麻里の違法な仕事、巻き込まれそうになった恐怖。


「健太くん、警察に相談した方がいいよ」


「でも、岸本さんのこと、俺…」


複雑な感情を抱える健太に、由美はそっと寄り添う。


「健太くんは悪くないよ。岸本さんに騙されたんだよ」


その言葉に、健太は涙がこぼれそうになるのを堪えた。


「俺、どうしたらいいかわからない…」


「一緒に考えよう。私は健太くんの味方だから」


そう言って由美は健太の手を握る。その温もりに、健太は救われる思いだった。


数日後、健太は麻里との同居を解消し、仕事も辞めた。麻里からの執拗な連絡は、由美の助言でシカトを決め込む。


「由美さん、ありがとう。君がいなかったら、俺…」


「ううん、健太くんが勇気を出したんだよ」


満面の笑みを浮かべる由美を見て、健太の胸は高鳴った。いつの間にか、由美への想いが芽生えていた。


「…好きだ。由美さんが、好きなんだ」


そう告げると、由美は驚いたように目を見開く。


「私も…健太くんのこと、ずっと…」


二人は恥ずかしそうに顔を見合わせ、そっと手を重ねた。


「一緒にがんばろう」


「うん、二人でね」


希望に満ちた笑顔を交わし合う二人。健太は、自分の人生をやり直せる気がしていた。


しかしそんなある日、健太の前に麻里が現れた。


「田中くん、話があるの」


「…何の用だよ」


警戒する健太に、麻里は悲しそうな表情を見せる。


「私、あなたが居なくなって、寂しくて…」


「岸本さん、もう俺に近づかないでくれ」


そう言い放つと、健太は踵を返した。しかし、麻里は諦めない。


「お願い、私と一緒に…あなたがいないと、生きていけない…!」


必死の形相で健太につかみかかる麻里。その瞬間、健太は麻里を振り払おうと手を振るった。


「きゃっ…!」


派手な音を立てて、麻里が地面に倒れ込む。その手には、かつて健太が贈ったネックレスが握られていた。


「ごめん…でも、俺には由美さんがいるんだ」


立ち尽くす健太に、麻里は涙を浮かべて呟いた。


「…お幸せに」


そう言い残すと、麻里はフラフラと歩き去っていった。


「健太くん、大丈夫?」


かけつけてきた由美が、心配そうに健太を見つめる。


「ああ、もう大丈夫。俺、由美さんと一緒にいたいんだ」


「健太くん…!」


感極まった由美が、健太に飛びつく。健太はそんな由美をしっかりと抱きしめた。


『俺、ちゃんと生きていける気がする』


希望に満ちた未来が、二人を待っているはずだ。


夕暮れの街に、二人の歩む後ろ姿が映し出される。引っ越しの荷物を抱えた健太と、その隣で微笑む由美。


新居のドアを開け、ふたりで部屋に入る。


「ただいま」


「お帰りなさい」


笑顔で迎え合うふたり。これから始まる新生活に、健太の胸は希望で満たされていた。


窓の外には、オレンジ色に染まる空が広がっている。暖かな日差しが、二人を優しく包み込んでいた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

新居で新生活をスタートさせた健太と由美。しかし、現実の壁は厳しかった。


「ただいま…」


疲れきった様子で帰宅する健太を、由美が温かく迎える。


「お帰りなさい。今日も仕事、大変だったね」


「ああ、なかなか見つからなくて…」


健太は自分を情けなく感じていた。由美に頼りきりの生活を変えたくて必死だが、なかなかうまくいかない。


「そういえば、岸本さんから連絡があったの…」


そう言う由美の表情は、どこか曇っていた。


「俺には関係ない」


そう言い切る健太だったが、心のどこかでまだ麻里への未練を感じていた。


ある日、公園のベンチに座る健太の横に、麻里が現れた。


「田中くん、私…」


「俺には、もう関係ないだろ」


冷たく言い放つ健太に、麻里は悲しそうな表情を見せる。


「私、あなたと一緒にいた時が、一番幸せだった」


そう言い残して、麻里は立ち去った。複雑な思いを抱える健太。自分の気持ちに嘘をつけない。


「健太くん、どうしたの?」


そんな健太を、由美が心配そうに見つめる。


「何でもないよ。仕事、頑張るよ」


由美に笑顔を向ける健太。でも、心の奥底では麻里への思いがくすぶり続けていた。


就職活動に行き詰まりを感じていた健太の前に、ある男が現れた。


「君、仕事探してるんだって?」


「え、どなたですか…?」


警戒する健太に、男は名刺を差し出す。


「俺は山岸。岸本から君の話は聞いている」


その言葉に、健太の表情が曇る。


「俺は、もうあの世界には…」


「安心しろ。合法的な仕事だ。君の力になれると思う」


そう言って、山岸は健太に仕事の話を持ちかける。警備員の仕事だという。


「健太くん、その仕事、大丈夫なの…?」


由美は不安そうな表情を浮かべる。


「大丈夫だよ。ちゃんと調べたから」


健太は由美を安心させようと、笑顔を見せる。しかし、どこか胸に引っかかるものを感じていた。


新しい職場で働き始めた健太。しかし、そこで目にしたものに愕然とする。


「これって…まさか…」


違法な取引の現場を目の当たりにし、健太は思わず後ずさる。


「君も仲間になるんだろう?」


山岸が不敵な笑みを浮かべて言う。


「俺は…こんなことには…」


「君の過去は知ってるんだ。逃げられないよ」


脅迫めいた口調の山岸に、健太は言葉を失う。


「健太くん、どうしたの…?」


由美は健太の変化に気付き、心配そうに尋ねる。


「何でもないよ。ちょっと疲れてるだけ」


由美に心配をかけまいと、健太は笑顔を作る。しかし、心は深く傷ついていた。


『俺は、結局変われなかったのかな…』


自己嫌悪に苛まれる健太。そんなある日、健太は山岸から呼び出しを受ける。


「今日は特別な仕事があるんだ」


「もう、俺は…」


「君の彼女、吉岡由美さんだっけ?」


その言葉に、健太は身体を強張らせる。


「彼女に危害を加えるつもりはない。君が俺の言うことを聞けば、な」


脅されて、健太は違法な仕事に手を染めていく。真面目に生きようとしているのに、過去が足枷となって自分を苦しめる。


「私、健太くんのそばにいるから」


そんな健太を、由美は優しく支え続けてくれた。けれど、いつまでもこんな状況は続けられない。


『もう、決着をつけなきゃ…』


健太は、山岸との対決を決意する。全てを打ち明け、警察に相談するつもりだ。


「俺、もう逃げない。自分の人生、取り戻すんだ!」


強い決意を胸に、健太は山岸との対決の日を迎える。真実を知った由美も、健太の決意を応援してくれた。


運命の日。健太は山岸の前に立ちはだかる。


「俺は、もうお前の言いなりにはならない」


「何だと…?」


驚く山岸に、健太は真実を突きつける。そこへ、警察が踏み込んでくる。


「山岸容疑者、あなたを逮捕します!」


抵抗する山岸を、警察官たちが取り押さえる。


「健太くん!」


由美が駆け寄り、健太を抱きしめる。


「ありがとう、由美さん。君がいてくれたから、頑張れた」


涙を浮かべる由美に、健太は優しく微笑む。


「こっちこそ、ありがとう…!」


二人は、再び手を取り合った。今度こそ、まっすぐに生きていこうと誓い合う。


暗い過去に決別し、希望に満ちた未来へ歩み出す二人。青空の下、凛々しい表情で前を見据える健太の横顔に、由美は幸せを感じていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「健太、そろそろ行こうか」


「うん、行こう。由美」


入社式を迎えた健太は、真新しいスーツに身を包み、由美と手を携えて会場へと向かう。


「緊張する?」


「ちょっとだけ。でも、今日から頑張るよ」


久しぶりに見る健太の凛々しい表情に、由美は嬉しくなる。


会場では、新入社員たちが集まっていた。健太は由美の手を握り締め、一歩踏み出す。


「これから、俺は自分の人生を生きる」


そう誓う健太に、由美は力強く頷いた。


入社式が終わり、健太は配属先の営業部で自己紹介をする。


「田中健太です。皆さん、よろしくお願いします」


「田中くんは警備員の経験があるそうだね。心強いなぁ」


上司の言葉に、健太は驚きを隠せない。過去を知られていたことに動揺する。


「はい、そうですね。あの経験を活かせたらと思います」


取り繕うように答える健太。上司は満足そうに頷いた。


会社に慣れない日々が続く。徐々に仕事にも慣れてきた頃、健太はある日、麻里と偶然再会する。


「田中くん…!」


「岸本さん…」


二人は、しばし言葉を失う。沈黙の後、麻里が口を開いた。


「私、田中くんに謝りたくて…本当にごめんなさい」


涙を浮かべる麻里に、健太は複雑な思いを抱く。


「俺も、君を巻き込んでしまって悪かった」


「私のせいで、田中くんは苦しんだのに…」


「もう、過去のことだ。俺は、前を向いて生きるよ」


そう言って、健太は麻里に別れを告げる。すっきりとした表情で、健太は歩き去っていった。


健太と由美の恋は、着実に実りつつあった。


「健太、これからどうする?」


「そうだな…結婚しよう、由美」


突然のプロポーズに、由美は驚きと喜びで言葉を失う。


「私、健太の支えになるよ。ずっとそばにいるから」


涙ながらに答える由美を、健太はそっと抱きしめる。


「ありがとう。俺も、君を幸せにするよ」


窓の外には、オレンジ色の夕日が沈みつつあった。その美しい光景を眺めながら、二人は幸せな未来を想像する。


数ヶ月後、二人の結婚式が執り行われた。


「健太くん、本当におめでとう」


「由美ちゃんも、お幸せに」


かつての同僚たちが、祝福の言葉を贈る。


「みんな、ありがとう。俺、この人と幸せになります」


由美の手を取りながら、健太は宣言する。


「私も、健太と共に歩んでいきます」


由美も、健太を見つめながら誓いの言葉を口にする。


かつては希望を失っていた健太。そんな彼を、由美の愛が救ってくれた。


「俺たちなりに、精一杯生きていこう」


「うん、二人で乗り越えていこう。何があっても」


祝福の拍手に包まれながら、二人は清々しい表情で新たな人生の一歩を踏み出す。


式場の外には、青空が広がっていた。柔らかな日差しが、二人の門出を祝福しているかのようだ。


あれから5年。健太と由美には、可愛い娘が生まれていた。


「パパ、お仕事行ってらっしゃい!」


「行ってきます、愛娘」


娘にキスをして、健太は会社へと向かう。


「いってらっしゃい、あなた」


由美も、健太を見送る。


会社では後輩の指導に励む健太。かつての自分のように、悩める若者の相談に乗ることもある。


「田中先輩、ありがとうございます!」


「どういたしまして。俺もそうやって、支えてもらったんだ」


健太は、温かな眼差しで後輩を見守る。


公園で娘と遊ぶ健太の姿を、由美は微笑んで見つめている。


「私、幸せ者ね」


そのつぶやきに、健太が振り返る。


「俺もだよ、由美」


娘を抱き上げながら、健太はそう言葉を返した。


夕暮れ時の公園に、幸せな家族の笑い声が響く。


健太と由美は、どんな困難にも立ち向かっていく強さを持っている。愛する家族を守るために、二人は手を携えて生きていく。


これから先も、二人の人生は続いていく。時には苦しいこともあるだろう。しかし、互いを思いやる心があれば、乗り越えられない壁はない。


「これからもよろしくね、由美」


「こちらこそ、健太」


愛する妻に優しく微笑みかける健太。その笑顔に、由美も幸せを感じていた。


オレンジ色の夕焼けが、幸せな家族を包み込む。


これが、彼らの新しい人生の始まりだった。

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愛が導く再生の物語 ~希望の光を求めて~ 島原大知 @SHIMAHARA_DAICHI

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