Vtuber「桜宮みゆ」の夢は、わたしの夢。
島原大知
本編
キャンパスの片隅、ひっそりと静まり返った温室の中で、私は親友の吉岡莉子としゃがみ込んでいた。ガラス越しに差し込む冬の日差しに照らされ、観葉植物が生い茂る空間は、まるで秘密基地のようだ。
「ねえ莉子、私、Vtuberになろうと思うの」
唐突に切り出した私の言葉に、隣で水やりをしていた莉子が驚いたようにこちらを向く。
「Vtuber? どうしてまた急に?」
「この前、サークルの先輩の氷川愛梨さんがVtuberをやってるのを知ったの。ほら、この方よ」
スマホに映し出された動画には、3Dモデルのキュートな少女が踊っている。愛梨先輩の声で歌うその姿に、私は強く心惹かれていた。
「確かによく見るわね、この子。だけど美優、Vtuberになるってそんな簡単なことじゃないと思うわよ?」
「分かってる。でもね、私、本気でVtuberを目指したいの。夢中になれる何かを、ずっと探してたんだ」
大学生活にも慣れ、将来への焦燥感にもがき苦しむ日々。Vtuberとの出会いは、私に新たな人生の扉を開いてくれた気がしている。
「Vtuberって、たしかCGのキャラクターになるんでしょ? 機材とか必要そうだけど……」
「うん、まだよく分からないことだらけ。でも、本気でやろうと思ってる。応援してくれる?」
莉子の瞳をまっすぐ見つめると、彼女は小さく頷いた。幼馴染だからこそ、言葉にできない私の想いを、しっかりと受け止めてくれる。
「何か手伝えることあったら言ってね。美優の夢、私も全力で応援するから」
嬉しそうに微笑む親友の顔を見ながら、私はこみ上げてくる感情を堪えていた。一人では不安だけど、支えてくれる人がいる。一緒なら、きっと乗り越えていける。
冬のキャンパスに、凛とした風が吹き抜けていく。VTuberを目指す私の戦いは、これからが本番だ。果てしない可能性を胸に、夢への一歩を踏み出す。
***
「よし、Iive2dモデリングの方には連絡済みね。あとは実際に活動してみるだけ」
PCの前で椅子に深く腰掛け、愛梨先輩が画面を操作している。2018年の終わりも間近、VTuberはまだまだ新しい存在だった。
「愛梨さん、本当にありがとうございます。こんなに親身になってもらえるなんて……」
「そんな、先輩としてアドバイスするのは当たり前よ。美優ちゃんの配信、楽しみにしてるからね」
そう言って愛梨先輩は微笑む。実は彼女も、まだ活動を始めて日が浅いVTuberの一人だった。『雪宮あかり』の名で、可愛らしい歌声を披露するアイドル系VTuberとして人気急上昇中だ。
「いつかは愛梨さんみたいな人気VTuberになりたいです!」
「ふふ、目指すのは私じゃなくて美優ちゃん自身でいいのよ。その情熱と魅力を、しっかりリスナーさんに届けられるように頑張ってね」
温かな励ましに、私の心は満たされていく。愛梨先輩との出会いは、VTuberへの夢に一層の弾みをつけてくれた。
「桜宮みゆ……この名前なら、大丈夫そうですかね?」
「うん、とっても可愛い! ピンク髪のツインテール、青い瞳の女の子ってイメージかしら。性格は明るくて天真爛漫、ちょっぴり天然なところも」
「わあ、まさに理想通り……! 私そのまんまで活動したいです」
嬉しさのあまり、大きな声が出てしまう。VTuberとしての理想像が、どんどん膨らんでいく。
「活動時のテンションはそれくらいがちょうどいいわね。リスナーも元気をもらえるはず」
「はい、精一杯頑張ります! リスナーの皆さんに楽しんでもらえるよう、全力でいきますから」
愛梨先輩との打ち合わせを終え、私は心躍らせながら家路についた。これから、VTuber『桜宮みゆ』としての活動が始まる。配信に必要な機材を揃え、アバター作成の準備を進める。
そう、夢への扉は、もう目の前に広がっているのだから。
***
「はぁ……思ってたより大変ね、これ」
VTuberデビューに向けた準備を進める中、私は何度も溜息をついていた。機材のセッティングに悪戦苦闘しながら、スタジオ用の小さな部屋作りに励む。
「美優、このソフト使えばもっと簡単にできるよ」
隣で手伝ってくれる莉子が、操作画面を指差しながら提案してくれる。
「ほんと、助かるわ。一人だったら挫折してたかも……」
ようやくセッティングを終え、モニターの前に座る。緊張した面持ちで、マイクに向かって声を出してみる。
「あ、あの……みゆちゃんだよ! みんな、よろしくね!」
いざ自分の声を聞いてみると、なんとも歯切れが悪い。役になりきるのは、思った以上に難しかった。
「美優、表情がかたいよ。もっと自然体で喋ってみては?」
「う、うん……わたし、桜宮みゆ! これからVTuberとして頑張るから、応援よろしくお願いします!」
精一杯の声を張り上げ、ポーズを取ってみる。すると莉子が、盛大に拍手を送ってくれた。
「よかったよ美優! すごく良い感じ。これなら大丈夫そう!」
「そ、そうかな……? まだまだ全然だと思うけど」
嬉しさ半分、不安半分で言葉を返す。きっと私には、VTuberに必要な才能なんてないのだろう。そんな弱気な思いが、心をよぎっていく。
窓の外は、雪が舞っている。絶え間なく降り積もる純白の結晶に、街は少しずつ色を変えていく。冬のキャンパスライフも、あと僅か。
「ほら美優、愛梨先輩からメッセージだよ」
ふと差し出された莉子のスマホ。そこには、励ましの言葉が並んでいた。
『美優ちゃんなら大丈夫。自分を信じて、思いっきりやってみて!』
温かな言葉に、胸の奥がじんわりと熱くなる。期待に応えたい。せっかく与えられたチャンスを、無駄にはできない。
「ありがとう、莉子。私、もう一度挑戦してみる!」
大切な親友とアドバイスをくれる先輩。二人の支えがあれば、どんな壁も乗り越えられる気がした。
***
「みなさん、桜宮みゆです! 初配信ドキドキしてます!」
画面の中で、キラキラ輝く瞳の少女が手を振っている。ついに迎えた、VTuberデビューの瞬間だ。
「今日は自己紹介からしていくね。わたしは女子大生で、趣味は……」
いつもの自分の言葉遣いを意識しつつ、明るく振る舞うことに必死だ。でも、声に籠る緊張は隠しきれない。
「あれ、コメントが……わあ、ありがとうございます!」
思わぬ反響の多さに、思わず嬉しさが込み上げる。温かな応援の言葉が、次々と画面を埋め尽くしていく。
配信時間はあっという間に過ぎていった。緊張と喜びが入り混じる、一つの大仕事を終えた充実感。
「お疲れ様、美優! 素晴らしい配信だったわ」
涙を浮かべながら抱きつく莉子。心からの喜びが、伝わってくる。
「ありがとう、莉子……うん、私やったよ! 夢への第一歩、踏み出せた!」
その笑顔に、私も精一杯の笑みを返す。VTuberとしてのスタートラインに、ようやく立てたのだ。
「フォロワーもたくさん増えたね。これからSNSでも情報発信していかないと」
「そうだね。配信だけじゃなくて、VTuberは発信力も大事なんだって」
これから『桜宮みゆ』として、様々な活動の幅を広げていく。リスナーとの交流を大切にし、共に成長していきたい。
「美優、一緒に外で雪だるま作らない? 気分転換になるよ」
「うん、そうだね! ちょっと息抜きしてこよっか」
こんな楽しいひとときを、ずっと続けていきたい。友達や応援してくれるみんなと、最高の思い出を作るのだ。
降り積もる雪の下で、私たちは歓声を上げながら駆け回っていた。VTuberへの道のりはまだまだ長い。それでも、今はただ全力で、かけがえのない瞬間を楽しみたかった。
窓から差し込む冬の日差しが、純白の雪を輝かせている。キラキラと煌めくその光景に、私の心も弾むのを感じる。
夢への歩みは、確かな手応えを伴って進んでいく。『桜宮みゆ』の物語は、始まったばかりなのだから。
***
「えっと、今日はゲーム実況をしていこうと思います!」
春の訪れとともに、『桜宮みゆ』としての活動も軌道に乗り始めていた。リスナーからのコメントに言及しながら、私は明るく話を進めていく。
「今回プレイするのは『ミラクルドリーマー』っていうRPGです。ファンタジー世界が舞台なんだけど……」
冒険の旅に出る前に、ゲームの概要を説明する。画面の端で、応援の言葉が弾幕のように流れていく光景が、すっかり日常になっていた。
「このゲーム、わたしのハートを鷲掴みにしちゃったの! だって……」
感情を込めて語り出した、その時だった。突如として、ゲーム画面が消え、配信が止まってしまう。
「あれ……? ど、どうしよう、急に画面が……!」
焦りながら操作を試みるも、一向に改善の兆しはない。VTuberあるあるのトラブルに、私は頭を抱えていた。
「み、皆さんごめんなさい! ちょっと技術的なトラブルで……」
冷や汗を流しながら謝罪する。でも、リスナーの反応は優しかった。
「そういうこともあるよね」「気にしなくていいよ!」「ゆっくり直してね」
温かな言葉の数々に、ほっと胸を撫で下ろす。リスナーとの絆の強さを、改めて実感する瞬間だった。
「皆さん、本当にありがとう……! こんな風に応援してくれるなんて」
感激の思いを口にしつつ、私はなんとか配信を再開した。トラブルを乗り越えられたのは、リスナーの支えがあったからこそ。
そうして『桜宮みゆ』の人気は、日に日に高まっていく。配信時間も長くなり、ゲーム実況以外のお話配信なども好評だった。
キャンパスの片隅で、私はスマホを操作しながら莉子に話しかけていた。
「ねえ見て! 『#みゆファンアート』で検索したらファンアートが増えてるの」
「わあ、すごい! ファンの人が描いてくれたイラストがいっぱい」
Twitterのタイムラインには、『桜宮みゆ』の可愛らしい姿が並ぶ。二次創作という形で届けられる愛に、私の心は満たされていく。
「みゆちゃんって呼ばれるの、なんだか不思議な感じ」
「ふふ、私もまだ慣れないわ。こんなに愛されるなんて、夢みたい」
春風に揺れる木々を見上げながら、幸せな溜息をつく。こんな日々が、ずっと続けばいいのに。そう思わずにはいられない。
「美優、調子に乗り過ぎちゃダメよ。炎上だってありえるんだから」
「わ、分かってるって! 気をつけるよ」
現実を突きつけられ、少し顔を赤らめる。でも莉子の言う通り、VTuberには常にリスクが付きまとう。慢心は禁物だ。
ふいに通知音が鳴り、スマホを見る。愛梨先輩からのメッセージだった。
「あ、愛梨さんだ! 今度コラボ配信がしたいですって……」
「ほんと!? すごいじゃない、憧れの先輩とコラボなんて」
嬉しさに声を弾ませる私を、莉子も心から喜んでくれる。夢にまで見た先輩との共演。この上ない幸せに、胸が高鳴っていく。
「絶対成功させないと! 気合い入れて準備しなくちゃ」
「うん、私も協力するわ。二人の息の合った配信になるよう、頑張ろう」
春のキャンパスに希望を感じながら、私たちは意気込んでいた。VTuberとしての活動も、充実の日々を迎えている。
でも、私は知らなかった。運命の歯車が、音を立てて回り始めていることに――。
***
「桜宮みゆです……今日は、いつもと違う動画をアップします」
カメラの前で、私は消え入りそうな声で語り始めていた。頬を伝う涙を、そっと拭う。
「この間、とても嬉しいことがありました。愛梨さんとのコラボ配信です。ずっと夢見ていた機会で……」
言葉を続けようとして、声が震えてしまう。コラボ配信は大成功のうちに終わった。二人の息もぴったりで、まるで天国のようなひとときだった。
だが、その後に悲劇は起きたのだ。配信の切り抜き動画がSNSで拡散され、一部の発言が問題視されてしまった。
「正直、あの発言は軽率だったと反省しています。決して人を傷つける意図はありませんでした。心よりお詫び申し上げます」
必死に頭を下げる。でも画面の向こうからは、心無い言葉の数々が降り注いでいた。
悪意に晒され、傷つき、どん底に落ちていく。VTuberとしての活動は、一瞬にして崩れ去ろうとしていた。
春の陽射しが差し込む部屋で、私はただ泣いていた。まるで悪夢のように、現実が私を追い詰めていく。夢の終わりは、あまりにも唐突だった。
窓の外では、桜の花びらが舞っている。儚く散っていくその姿に、自分自身を重ねずにはいられない。
『桜宮みゆ』の、そして私自身の夢は、こんな形で幕を下ろすことになるのだろうか。
答えの見えない闇の中で、私の心は引き裂かれるように痛んでいた。
***
「美優、大丈夫?」
ドアの向こうから、優しい声が聞こえてくる。炎上騒動に心を痛めた私を、莉子が気遣ってくれていた。
「……ごめん。今はひとりになりたいの」
か細い声で答える。ベッドに横たわったまま、ただ虚ろな目で天井を見つめている。
「そう……無理しないでね。いつでも話聞くから」
申し訳なさそうに言って、莉子は部屋を後にした。親友の優しさが、かえって胸を締め付ける。
春の日差しは、カーテン越しにも眩しい。だというのに、私の心には雲がかかったままだ。SNSでの誹謗中傷は、予想以上の広がりを見せていた。
「どうしてこんなことに……私、間違ったこと言ったかな……」
枕に顔を埋めて、嗚咽を漏らす。正直に思いを伝えただけなのに。それがなぜ、こんなにも責められることになるのか。
そっと視線を向けたスマホには、着信もメッセージもない。愛梨先輩からの連絡も、途絶えたままだ。
「愛梨さん……私のこと、きっとがっかりしたんだろうな」
落胆の色を隠せずにいる。尊敬する先輩を、私は裏切ってしまったのかもしれない。
三日が過ぎ、一週間が過ぎた。私はずっと、うつむいたままベッドと部屋を往復する日々を送っている。外の世界が、恐ろしくてたまらなかった。
「美優、少しは外の空気吸ったら? ずっと篭ってるのよくないよ」
心配そうに覗き込む莉子に、辛そうに微笑む。優しさに甘えてばかりで、情けない。
意を決して部屋を出ると、外は晴れ渡っていた。木々の緑が、眩しいほど美しい。
大学のキャンパスを歩きながら、私は大きく深呼吸をする。春の空気に、少しだけ心が軽くなるような気がした。
「……みゆちゃん?」
背後から聞こえた呼び名に、びくりと肩を震わせる。
振り返ると、そこには『桜宮みゆ』のリスナーだという女の子が立っていた。
「あの、炎上のことで……本当に辛かったですよね。私、ずっとみゆちゃんの味方です! 応援してますから……!」
涙ながらに語りかける彼女の姿に、私は言葉を失う。こんなにも真っ直ぐに想ってくれる人がいたのだ。
「『桜宮みゆ』でいいんですか? わたし……」
「もちろんです! だってみゆちゃんは、みゆちゃんだもん。みんな分かってくれるはずです」
そう言って、彼女は私の手を握った。暖かな温もりに、じんと胸が熱くなる。
私は、たくさんの人に支えられていた。莉子も、愛梨先輩も、リスナーのみんなも。一人じゃない。孤独じゃない。
「ありがとう……本当に、ありがとう……!」
堪えきれずに涙を流しながら、私は何度も何度も頭を下げた。これほどまでの優しさに、どう言葉を返せばいいのか分からない。
「もう一度、配信してみようかな……」
ふと、漏らした言葉に我ながら驚く。めげずに頑張れと背中を押されたような、不思議な気持ちがしていた。
「うん、きっとできるよ! 美優の全力、見せつけちゃえ!」
莉子も力強く握手を求めてくる。親友の笑顔に、勇気を分けてもらったような気がした。
春風が頬を撫でていく。きらきらと輝く新緑の向こうに、私なりの答えが見えた気がした。
悔しさも、辛さも、全部引き連れて。それでも私は、もう一度歩き始めたかった。
「みゆちゃん……また会えるの、楽しみにしています!」
去り際に手を振るリスナーの女の子。その笑顔を胸に、私はゆっくりと踏み出していく。
『桜宮みゆ』の、そして桜井美優の物語は、まだ終わっちゃいない。
新たな一歩を、力強く踏み出す勇気を、私は信じていた。
***
「みなさん、お久しぶりです。桜宮みゆです」
カメラの前で、私は精一杯の笑顔を作る。久方ぶりの配信に、緊張が隠せない。
「この度は、私の不適切な発言により、多くの方にご迷惑をおかけしました。心よりお詫び申し上げます」
90度に頭を下げて、心からの謝罪の言葉を述べる。沈黙の向こう側が、どんな反応をしているのか分からずに怖かった。
でも、画面の隅に、コメントが流れ始める。
「おかえり、みゆちゃん!」「待ってたよ!」「これからも応援してる!」
優しさに溢れた言葉の数々に、思わず目頭が熱くなる。こんなにも温かく迎えてくれるなんて。
「本当に……ありがとうございます。あの、今日は私の本音を、話させてください」
覚悟を決めて、言葉を紡ぎ始める。Vtuberを目指したきっかけ。夢に向かって頑張ってきた日々。挫折して、投げ出しそうになった自分。
「正直、心が折れそうになりました。この夢を諦めようかとも思いました。でも……」
一呼吸置いて、カメラを見つめる。映し出される自分は、今までで一番輝いているように感じた。
「私はVtuberが大好きなんです。みなさんと繋がれること、夢を追いかけられること。そのかけがえのない日々を、簡単には手放したくない」
ありのままの思いを、全力で伝える。リスナーへの感謝の気持ちを、精一杯込めて。
「だからこれからも、桜宮みゆは頑張ります。みなさんと一緒に、もっと大きな夢を叶えたい。どうか……最後まで、見守っていてください!」
涙をこらえながら、わたしは深々と頭を下げた。今この瞬間、私とリスナーの心は一つに繋がっている。
「みゆちゃん、大好き!」「ずっと応援してるからね!」「これからもよろしくね!」
あたたかなコメントの嵐に包まれて、私は幸せを感じずにはいられなかった。ここが私の居場所。帰る場所。
「……ありがとうございます! これからもみゆちゃんをよろしくお願いします!」
最高の笑顔で、配信を締めくくる。心の底から、Vtuberを続けてきて良かったと思える瞬間だった。
***
「美優、おめでとう! 復活配信大成功だね!」
配信終了後、莉子が抱きついてくる。彼女の応援がなければ、ここまで来られなかった。
「これも莉子のおかげだよ。本当に感謝してる」
そう言って、親友の肩をぎゅっと抱き寄せた。喜びを分かち合える幸せを、かみしめる。
「美優ちゃん、よく頑張ったわ。あなたの勇気に、私も元気をもらったの」
不意に、愛梨先輩の姿が目に飛び込んでくる。穏やかな笑みを浮かべて、私を見つめている。
「愛梨さん……! 本当にすみませんでした。私……」
詫びの言葉を口にしようとして、先輩に遮られる。そっと、私の頭を撫でてくれた。
「謝ることないわ。炎上なんて、誰にでもあること。それを乗り越えて、もっと強くなれたあなたが誇らしいもの」
優しさに包まれるようで、じんと胸が熱くなる。先輩もずっと、見守ってくれていたのだ。
「みゆは、Vの世界に欠かせない存在になったわ。次は私とのコラボリベンジ、楽しみにしてるからね」
「はい……! 絶対成功させます。もっともっと、頑張ります!」
私は無我夢中で頷いた。夢に向かって、もう迷わない。どんな困難にも、仲間と一緒に立ち向かっていく。
窓の外は、青空が広がっている。太陽の光を浴びて、木々の葉がきらめいている。
「みゆちゃんって、本当に太陽みたい。私も、あなたから元気をもらえる」
莉子がふと、つぶやいた。その言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなる。
「みんなの太陽になりたいな。いつも明るく、希望を与えられるVtuberに」
晴れやかな顔で告げると、二人も嬉しそうに微笑む。最高の仲間たちに囲まれて、私はこの上ない幸福感に包まれていた。
『桜宮みゆ』の新たな一歩は、無限の可能性を秘めている。
理想のVtuberを目指して、私はこれからも、全力で夢に向かって走り続ける。
新しい季節の風が、やさしく頬を撫でていった。
(了)
Vtuber「桜宮みゆ」の夢は、わたしの夢。 島原大知 @SHIMAHARA_DAICHI
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