ドラゴンと龍の戦争
明鏡止水
第1話
むかしむかし。
戦争をしているヒガシ国とニシ国がありました。
ふたつの国の戦争に、キタ国とミナミ国も巻き込まれたり、仲裁したりしていましたが。
もう無理でした。
狙われるのは。行われるのは。
「死人の数を増やす為」。
「より戦士でないもの残虐に殺す為」。
弱くない、でも身を守れない、犠牲になるは、無辜の民。
より死ぬ前に苦痛を与え、見ているものに恐怖よりも叫びを押し殺させ、最後にお前も同じ目に遭うんだよ、と脅す。
子供たち、女たちは連れ去られ、男たちは抵抗もできずに家族を守りたいのに動けば死、動かなくても何も守れず。
全員が蹂躙される。
地獄。
この世に地獄がある。
天国もある。それなのに。いま、天国は死の先にしかない。
なぜですか! なぜ私に!
命令から毒ガスを使う部隊の指揮を取る隊長が、心の中でほんの少しだけ苦悩した。
自分は兵士だ。戦士だ。
でもそれ以前は、人間の形をした、ただのハリボテだったのだ。そんな、存在だったのだ。
やるしかない。
みな殺戮、残虐、無惨、無慈悲を笑いながら行っている。
にんげんは、どこにいった……。
そんな時。
とある国の四獣や、極東の妖怪たち、世界の幻想種たちが集まり。
戦争を応援することにした。
なぜなら。
「今度こそ自分たちを滅ぼしてくれる」
たくさんの争いと乱獲、探知、解明、追跡の歴史から、われわれを解放してくれる。
人ならざる者にとって、人間の戦争は、「解放」だったのです。
すると、一匹のニシのドラゴンと。
ヒガシの龍が言いました。
「わたしたちは、それでもまた生まれてしまう。ヒトが滅んでも、不死鳥ではなくても、この世界で息を吹き返し、また苦しむだろう」
生きているからこそ生まれてきて。
生まれてきたのは生きているものたちの思いから発露。
また終わりを迎えようにも彼らは祈るので、われわれは。
消えない……。
すると、UMAのものたちが訴えた。
わたしたちは、生きたい。わたしたちは、現れるために生まれて、生きて、存在している。
伝説たちが争う。
死にたい。
生きたい。
途絶えたい。
永らえたい。
やがて、ニシのドラゴンは我慢ならぬという様子で、ついに毒ガスの情報を得た。
「ガスにわたしが火を吐き、全てを燃やす。なんとしても終わらせる。ひとをたくさん、滅ぼす。滅ぼすことがわれわれへの解放だ。もう願われるのも身を晒すのも、もう終わりだ。人の思いの知ることか。わたしは、焼く。全てを焼く」
すると、ヒガシの龍が威厳を持って。
「ならば、わたしは、空を泳ぎ雲の波を起こし、人々を惑わそう。われらの骨が世に晒されるだけも、わたしにはもう我慢ならない。人とのごくわずかな付き合いも今日限りだ」
果たして。
龍は泳ぎ、ドラゴンは焼いた。
今まででいちばんの、戦争被害だった。
人間は、とても減った。
やがてドラゴンと龍は痛みもなく消える。
ふと、二匹に、数千年以上は生きている二匹に。
奇跡の声が降ってきた。
神の声だった。
たくさんの、わたしの作品たちを殺したお前たちに、地獄を与える。そのかわり、全てを天国に変えて死徒へと成り下がれ。
ドラゴンと龍は、人間の感情を無理やり植え付けられた。そして、後悔と未練を語ることになる。二匹は人間にされたのだ。そして、それは最初死者であった。
「後悔や未練を抱かない、そんな最期を突き抜け、滅するさだめのわれらに、〈未知〉はなにを、残すのだっ……!」
やがて、二匹は人の形をした吸血鬼になり、一人は善なる者の血を好むもの。一人は悪しき者の血を好むものとなった。
ああっ!! おいしい!!
人間て、なんて、おいしい!
やがて、二人が出会う時。
世界の人間はすべてが吸血鬼になるだろう。
そして、二人は長く生きて自分がなんだったのか忘れていた。
このまま永遠を生きなくては!
いつかの思いは消滅することだったのに。
生き延びて永らえれば、今の心は不老不死への願いへと向かっていた。
さあ、人間を助けなければ。
わたしたちの、美味しいご飯。新しい仲間。
わたしたちは自由。
ドラゴンと龍の戦争は、本望を迎えることができず。
死者たちを食い物にし、仲間を増やし、一度人間にされてから吸血種となる、悲願とは別の道を辿った。
あの時、一度死んで良かった。
わたしたちはまだ、人間を食べたことがなかった。
ドラゴンと龍の戦争 明鏡止水 @miuraharuma30
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