確率投影 世界一幸運で不幸な男

ラム

確率投影

「くそっ、また外れた!」

「お前まだそのソシャゲハマってんのか」

「1%! 1%の確率でウルトラレアが出るんだよ!」

「低いな……そもそもお前運悪いだろ」

「な、そんなことないって……ってあー! カラスが俺のパン持ってった!」

「ほらな」


 俺が夢中になっている馬ガールというソシャゲはなかなかウルトラレアが出ないことで有名だ。

 ネットではウルトラレアが出たというだけで自慢できるほど。

 特に俺は子供の時から運が悪く、出かければ雨が降り、新品の服を買っては転んで汚し、修学旅行の日には熱が出るなど枚挙に暇がない。

 俺は帰宅し、またガチャを回すがやはりウルトラレアは出なかった。


「はあ、超幸運の持ち主になれたらなあ…」


 ──


「さて、今日もガチャ回すか……どうせ当たらないけど」


 その時奇蹟が起きた。

 なんとウルトラレアが出たのだ。

 それも10回分回して10枚全部。

 画面を虹色のカードが埋め尽くしている。


「なっ、なんだこれ! 夢、なのか……?」


 ネットに上げると、コラージュだと疑われ見向きもされなかった。

 しかし紛れもなく10回分当たりが出た。


「そんなことがあったんだよ! ほら、スクショ!」

「嘘くせえ……じゃあもう10回回してみろよ」

「あ、あぁ……」


 しかし運は使い果たしてしまっただろう。

 当たりなどもう2度と出ることは……

 そう思ったがまたしても10枚全てがウルトラレアだった。


「な、なんだ、これ……! バグってんのか?」

「いや、俺にも分からん」

「ジャンケンだ!」


 友人とジャンケンをする。言うまでもなく俺は勝ったことがない。

 しかし10回中10回が俺の勝ちだった。


「マジかよ……」

「な、凄いだろ!」

「お前の運、検証したい。麻雀やるぞ」


 さっそく麻雀牌をシャッフルし、並べる。


「天和は流石にないか……」


 天和とは始めた時点で上がることが出来る役のことで、その確率は0.002%。

 役満も出ることは無かった。

 それでも俺の圧勝だった。

 友人は出た役を細かにメモにしている。


「お前の役で一番多いのはチャンタか。チャンタは1%の確率と言われている。一方次に出にくい三暗刻は0.7%だが1度も出ていない」


 友人はある仮説を立てる。


「お前は1%の確率までなら確実に当たるらしい」


 俺にそんな能力が……!

 これはもしかしてギャンブルには最強の能力なのでは?

 つまり俺は億万長者になれる……!

 放課後、俺はさっそくパチスロ店へ向かう。

 すると当たりが出るわ出るわ。


(す、すげえ……! この能力があれば……)

「兄ちゃん、凄い当たってるな……」

「あ、一掴み分けますよ!」

「悪いね。俺も不慮の事故で仕事を失ってね……」

「そりゃ気の毒に……」


 しかし途端に当たりが出なくなってしまった。


(あれ、どういうことだ?)


 そう言えばパチスロは確率を操作出来る店があると聞いたことがある。

 パチスロでは俺の能力を発揮できないかもしれない。

 それでも30万円の勝ちになった。


──


「ということがあったんだ! 次は何がいいかな?」

「能力悪用してんな……」

「悪用じゃないって!」

「まあ手っ取り早いのは競馬じゃないか」

「競馬か……よし、分かった!」


 30万円を元手に競馬で賭ける。


「頼む、勝ってくれ、トウエイ! お前に全財産賭けたんだ!」

(残念ながら俺が賭けたのは別の馬だ)


 予想通り俺が賭けた馬が一着になる。


「あぁ……俺の人生が……」

(ご愁傷様……)


 30万円は60万円に、60万円は120万円に増えた。


(これ以上は目をつけられそうだな……やめとこう)


 120万円もの大金を目にし、身震いがした。あるいは俺の能力の恐ろしさに、かもしれない。


──


「ほれ、ご祝儀」

「サンキュー、実は親父が入院して大変だったんだ。それよりその能力、ヤバくないのか?」

「今のところなんてことない」

「そうか……ならいいんだが」


 帰宅したらまた別の競馬場で賭けるか。

 今度は500万円になるまで……!

 そう思ったときだった。


「動くな!」

「ひっひぃ……」


 女性が男に拘束され、銃で脅されている様を見たのは。


「動いたら撃つぞ!」

「たっ、助け……」


 女性は恐怖のあまり失禁する。

 まさか俺の能力が暴走して犯罪が起きる確率を100%にしてしまったのか?

 いや、人質を取った犯罪が起きる確率なんて1%に満たないだろう。

 警察が呼びかける。


「やめなさい! 人質を放しなさい!」

「俺は妻と娘が事故で一斉に亡くなり、訴えられて1000万円もの借金を負った。お前らにその苦しみが分かるか!」


 確かに不幸だ。俺の真逆と言っていい。

 いや、真逆?


『俺も不慮の事故で仕事を失ってね……』

『あぁ……俺の人生が……』

『サンキュー、実は親父が入院して大変だったんだ』


 これらの言葉が突然フラッシュバックした。

 もしかして、この能力は……

 俺は犯人に向けて駆ける。


「あっこら君、待ちなさい!」

「よ、寄るなあああ! 撃つぞ!」


 俺は構わず犯人に近寄る。

 そして犯人は発砲する。


「ぐわああああ!」


 苦痛の悲鳴をあげるのは……犯人。

 銃が暴発したのだ。


(やはり、この能力は周りの人の運を吸い取っているんだ! だから暴発も犯人が不幸になり1%の確率を超えて起きた)


 女性は救助され、犯人は連行される。


「畜生……なんて人生なんだ……なにもかもめちゃくちゃだ……」


 号泣する犯人を見て罪悪感に苛まれる。

 そんな時に友人からメッセージが届く。


『親父が死んだ』


 それを見て俺は悟った。


(この能力は途轍もなく残酷な代物だった……俺は周りの人を不幸にする……ただ生きているだけで……)


 ふらふらと赤信号の中歩道に向けて歩き……俺は車に跳ねられた。


──


「あれ、ここは……」


 見ると白い天井。

 そして俺の顔を覗き込むナース。


「信じられない、奇跡が起きたわ! 生存する確率は1%と言われていたのに……」

「な、なんで俺を助けた……!」

「そりゃ助けるに決まってるでしょ! あなたを跳ねた人は敗訴になったわ! 多額の賠償金が貰えるわよ!」

「あ、あぁ、ああああああああ!!!」


 俺は絶望の雄叫びを上げるも、ナースは不審に思うだけであった。

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