君の記憶のカケラを両手いっぱいに持って

リュウ

第1話 君の記憶のカケラを両手いっぱいに抱えて

僕の頭の中に散らばらされた君の小さな記憶のカケラ。


不意に頭の中いっぱいに蘇る。

君の匂いも、もうあいまいなのに。


君の無邪気な笑顔。

耳の気持ちがいい声。

僕の耳にあたる君の吐息。

突然、背中に抱き着く君の柔らかい胸。

細い指の白い手。

アキレス腱のくぼみ。


このまま、僕が死ぬまで君の記憶が、

小さな記憶のカケラが頭の中に残り続けるのか。

君を思い出すたびに、僕の口角が緩む。


ああ、君に会いたい。


あの頃のあの時間の僕らは、変わらない。

あの頃の気持ちもずーとそこにあるはずだ。


一緒に過ごした部屋や

一緒に歩いた道や

一緒に見た映画館

一緒に食べたバターをかけたポップコーン

一緒に抱いた猫や

君との時間は、そのまま続いているはずだ。

僕はそれを見つめる。

見つめ続ける。

ずーっと。

永遠に。


「忘れなさいって」人は言うけど

僕にはできない。

だって、カケラが、君の小さな記憶のカケラがあるから。


僕の心の底に沈めよう。

なるべく、深いところに。

何もなかったように暮らそう。

「大丈夫だよ」って僕の周りに知らせるために。


僕が死ぬときに、深い深い心の底に沈めてあった君のカケラを取り出そう。

その時、君は生きているか亡くなっているか分からない。

でも、あの時の君はそのままの筈。

心の底に沈めてあったのだから。

僕は、思い出すんだ。

待ち合わせ場所で、僕は待っていて。

小さな花柄のワンピースに麦わら帽子の君を見つけて、

僕は、幸せいっぱいの笑顔で君を迎えるんだ。

そして、やさしく抱き寄せるんだ。

「会いたかったよ」って。


僕は君の記憶のカケラを両手にいっぱい持って、

花束を抱えるように両手で持って、旅立んだ。


君の記憶のカケラを持って。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

君の記憶のカケラを両手いっぱいに持って リュウ @ryu_labo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ