第5話 スピーカーモンキー

 ハカセとジョシュは二人の目的のために仲良く自分の記憶探しの旅に出かけた、かに思われたがそんなことはなかった。


 「なんで僕の食べ物を探してくれないのさ。自分でいくら探しても見つからないし、ジョシュのレーダーで探してくれたらいいじゃないか」


 ハカセは自分の食べ物を探してくれないジョシュに怒っていた。


 「ハカセは人に、まあ厳密に言うとヒトではないけど、他人に頼りすぎニャ。現に最初の何回かは可哀そうだと思って探してあげたニャ。でも人って愚かニャ。それがあたりまえになって自分が苦労することを忘れて頼ってくるニャ」


 「そんなことはないよ。今日だって食べ物を探したけど全然見つからないし・・・」


 ハカセは少し気まずそうだった。


 「そんなことあるニャ。最初は夜遅くまで自分の力で探していたのが、数日経った今日は、たった数時探しただけで頼ってくるようになったニャ。それはただの怠慢ニャ」


 ハカセは図星をつかれて反論に困っていた。それでもなんとか自分の行いを正当化しようとした。


 「それはジョシュが探すのが得意だからでしょ? 僕だって自分ができるならしているよ」


 「得意だからって人に頼るだけじゃ良くないニャ。ワガハイがしたことに対して君は何かしてくれたことはあるかニャ?」


 ジョシュのまっとうな意見を聞いてハカセは黙り込んだ。


「でも・・・」


 何か言いかけたハカセたちの目の前を一匹のマウスが横切った。


 そのマウスは他のマウスとは違い、黒い斑点の模様をしていた。手に丸いボタンのような物を抱え、耳が傷ついていて血が流れていた。


 そのマウスはハカセたちを見て逃げるようにその場を去っていった。


 そのあとすぐに大勢のマウスたちが物騒な格好で駆けつけてきた。小さなマウスが持てる物は限られているのだろう。爪楊枝やカッターの折れた芯など、人間としては脅威ではないけれど、たぶん同じマウスであれば致命傷を負うような武器を持っていた。


 先頭にいたマウスが言葉を荒げた。


 「オマエたち! ボタンを持ったマウスを見なかったか!?」


 先ほど見たことをハカセが言おうとすると、それを遮るようにジョシュが答えた。


 「見てないニャ」


 「そうか。お前たち! アイツはまだこのあたりにいるはずだ! 必ず見つけ出せ!」


 おー! という威勢のいい掛け声とともにマウスたちは散り散りとなった。


 その場に残った先頭にいたマウスにジョシュは話しかけた。


 「なんでそんなに必死に探しているのニャ?」


 「アイツはこの村の大事な物を奪っていったんだ」


 「大事な物って」


 ジョシュが言い終わる前にマウスは去っていた。


 「ワケがわからないニャ」


 「とりあえず村まで行ってみようよ。何かわかるかもしれないし」


 ハカセの提案どおり近くの村に向かった二人は、村に着いて異様な光景を目にした。


 村にいるマウスたちには元気がなく、何もせずにただうなだれているだけだったからだ。目についたマウスにジョシュは声をかけた。


 「どうかしたのニャ?」


 話しかけられたマウスは力なく答えた。


 「どーしたもこーしたもないよ。僕の生きがいだった音楽を奪われて。僕はどーしたらいいんだ」


 話しかけたマウスは心底落ち込んでいて話す余裕もなさそうだった。話を聞くのをあきらめて村を歩いていると、丸い円盤の上に座り道を颯爽と行くマウスを見かけた。


 ジョシュはすぐに走り寄り、そのマウスに声をかけた。


 「お前の乗っているそれは電気で動いてるニャ?」


 話しかけられたマウスは驚きながらも答えた。


 「ええ、そうですけど」


 「ちょうどよかったニャ。この乗り物の充電している場所を教えてもらいたいニャ」


 「いいですけど、それ私の家ですよ」


 「ちょうどよかったニャ! 電気の残量が無くなっていたところだったニャ!」


 ジョシュは今までに聞いたことのないくらい嬉しそうな声をあげた。


 「あの、喜んでいるところ悪いのですが、電気をあげることはできませんよ?」


 申し訳なさそうにマウスが言った。


 「一家庭あたりの電気の配給量が決められているんです。私みたいに仕事に使うモノや、生活を豊かにしようとするモノなどそれぞれです。単純に言ってしまえば電力は貴重なのでおいそれと他の人にあげることは難しいんです」


 謝罪をするかのようにマウスはジョシュに深々に頭を下げた。


 「そうだニャ。なら仕方ないニャ」


 猫が肩を落とす場面をハカセは初めて見たかもしれない。それくらいジョシュは落胆していた。 


 ハカセがジョシュを慰めようとしたとき、村の中に異様にマウスたちが集まっている家があった。


 「ジョシュ、なにかおかしな家があるよ」


 そう言ってジョシュを連れて、外にいるマウスたちを押しのけ家に入ると、その中には大きなスピーカーを担いだサルが肩を落とし、部屋の中央に座っていた。


 ハカセとジョシュが家に入ってきたことに気づくと話しかけてきた。


 「君たちは誰だっキ?」


 明らかに思い詰めている割におかしな語尾を使うのでハカセはどうしていいかわからなくなった。


 ハカセの対応にため息をつきながらジョシュは答えた。


 「ワガハイたちは旅人ニャ。さっきたくさんのマウスたちが何かを追っているようだったけど知ってることはないかニャ?」


 あからさまにオドオドした態度でサルは言った。


 「僕のスピーカーのスイッチをブチに盗られたッキ」


 ハカセは部屋の隅にあるピアノに目を止めて近づいて行った。そんなハカセの行動をジョシュは気にせずに会話を続ける。


 「ブチっていうのは?」


 たぶん分かっているだろう、さっき会ったマウスだ。


 「そんなことであんなにたくさんのネズミが探しているのかニャ?」


  サルは視線を横に向けたまま答えた。


 「この村の人たちにとって、僕のスピーカーから流れる音楽は生きがいだったッキ。だからみんなが探しているんだと思うッキ」


 気まずそうに答えるサルを見たジョシュは提案した。


 「じゃあワガハイたちもブチを探そう! お前もついてこい! ハカセもニャ!」


 ピアノの前の椅子に腰を掛けたハカセをたしなめるように、ジョシュは嘘くさく大声をあげてサルを連れて森の中へと進んでいった。

 

 周りにネズミがいなくなったことを確認するとジョシュはサルに話しかけた。

 

 「ところで、お前の名はなんというニャ」


 「僕の名前はスピーカーモンキー。村の人からはスピモンって言われてるッキ」


 「そうかスピモンっていうのニャ。スピモンは何を隠しているのかニャ? ワガハイたちは旅人ニャ。本来なら無視して通り過ぎる場にめぐり合わせるぐらいの関係ニャ。他の人に言えないことも言ってくれてもいいんだニャ」


 ジョシュの言葉に感激したのか、せきを切ったようにスピモンが話し出した。


 「ブチは僕のマブダチだッキ。この村で嫌われていたブチは何故か僕に優しくしてくれたッキ。僕にとっては良いヤツだッキ」


 「嫌われていたって、ブチは何をしたの?」


 ハカセは問いかけスピモンが答えた。


 「村の大事なルールをやぶったッキ」


 「村の大事なルールって?」


 少しの沈黙のあとにスピモンが答えた。


 「村にいるネズミたちは自分たちで電力を作って村に納めないといけないきまりだッキ。ブチはそれを放棄したから他の人から責められているッキ」


 

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