2章3話 文明の遺産と獣人王

「はぁっ!はっ!」

エリーナは人の頭よりも二回りは大きな岩を両手で高速で持ち上げては下ろし、繰り返しトレーニングに励んでいた。彼女の持ち上げる岩の重さに、周りの女子達も男子達も圧倒され、思わず口々に驚きの声を上げる。


「エリーナってほんと化け物だよな...。」

「あんなの人間業じゃないって...。俺らじゃ大人になって無理じゃね?」

ざわめく周囲をものともせず、エリーナは黙々と己を鍛え上げていく。


「くそっ...負けてられるか...!」

近くにいたジェイクは、エリーナに負けじと顔を真っ赤にして岩に挑戦。

岩のサイズはエリーナの岩よりわずかに小さいぐらいだ。

「うおおおお!」

金切り声を上げながら必死に歯を食いしばって大岩を持ち上げ、

「ど、どりゃあああ!」

ドスンッと砂地に落とした後、

「はぁ...はぁ...く、くそお...。」

ゼーゼーと息切れしながらエリーナを睨みつける。


「ふぅ...。いい感じね!」

エリーナはさわやかな汗を拭うと、笑顔でトレーニング場を後にした。

一方、カーラは女子達とおしゃべりを楽しみつつ、

軽めのトレーニングをこなしている。

「エリーナってすごいよね。あんなに強いのに、全然偉ぶらないし。」

「ほんとそれ!私も見習いたいわ。」

仲間との会話に花を咲かせながら、カーラは適当に己の体を鍛えていた。


「カーラー!」

赤いブラに汗が染みんでいるぐらいの様子でエリーナが元気よく声をかける。

「エリーナ、お疲れ様!すごい汗かいてるね。」

「えへへ、今日も頑張っちゃった!カーラはどうだった?」

「私も楽しくトレーニングできたわ。女の子たちとおしゃべりしながらだと、

あっという間なのよね。」

「いいなぁ、それ!私も今度一緒にやりたいな。」

「ええ、ぜひ!みんなで一緒に鍛えるのって、すごくいい刺激になると思うの。」

笑顔で会話を弾ませながら、2人はトレーニング場を後にした。



トレーニングを終えたエリーナとカーラは、いつもの食事処へと向かう。

「いらっしゃい!エリーナちゃん、カーラちゃん!」

「おかみさん、いつもありがと!今日もおいしいご飯、楽しみにしてるから!」

エリーナは明るく笑いかけ、カーラと席に着いた。

領主の娘として、彼女は顔パスで無料の食事を頂けるのだ。


「それにしてもさ、エリーナの力ってほんとすごいよね。

みんなびっくりしてたもん。」

カーラが感心したように言う。

「えへへ、それほどでもないって!みんなだってすごいじゃん!」

エリーナは謙遜しつつも、自信に満ちた笑顔を見せる。


「ねえねえ、エリーナのパパが付けてる時計も、昔の文明の遺産だよね?測量機みたいな貴重品、獣人王ってどうしてあんなにたくさん持ってるんだろ?」

カーラが首を傾げる。

「うーん...。ナイフみたいに反抗されそうなものは処分して、都合のいいものだけ残したんじゃないの?」

「なるほど...。たしかに、そうかも。」

「でもさ、獣人王って呼ばれてるけど、だれも実際に会ったことないよね?」

エリーナが不思議そうに呟く。


カーラは頭に手を当てながら少し考えて、

「うん、そうだね。上級生が主役の闘技大会に来るのは、偉くない獣人だけだもんね。自分の貴重品持ってきて、賭け事しに来るんでしょ?」

「そう、物々交換の世界だからね。でもさ、バカな獣人が船をこぐのに

海を木の船で渡れるのかな?アメリカ南部の島からやってくるんでしょ?」

「あぁ、昔ジャマイカって呼ばれてた島のことだよね。文明が崩壊した後、ジャマイカにいた人類は滅ぼされて、今は獣人達の本拠地になってるんだって。」


「えぇ!?そうだったんだ...。じゃあ、もしかして獣人王は...。」

「うん、普通の獣人じゃないのかもしれないね。」

カーラの言葉に、エリーナの瞳が驚きで見開かれる。


「そっか...。わかんないことだらけだけど、すごく気になる!」

「ふふ、エリーナらしいわね。冒険心があって。」

謎めいた獣人王の正体を巡り、2人の女の子は胸を躍らせるのだった。

そんな彼女たちの楽しげな食事の時間は、ゆっくりと過ぎていくのだった。

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筋肉娘エリーナの日常 @gennraku

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