ラブレター 1人台本 不問1

サイ

第1話



拝啓




うららかな春の日差しが心地よいこのごろ




あなたは今、何を思い、何を見て、何をしているのでしょう




誕生日でも、記念日でもない今日、筆をとったのは、




この気持ちを、あなたに伝えたかったからです







あの日、真っ暗闇の谷底にいた私を、あなたは見つけてくれました




そして、手を握ってくれた




手を、ひいてくれた




幸せにするから、なんて、大きな口で




でも、嬉しかった




あたたかかった






私はどんくさいから、よく足を滑らせるけど、




その度に、あなたは、




ひきあげてくれた




そして、抱きしめてくれた




詳しく事情を聞いたりしない、だから、否定も肯定もしない




ただただ、寄り添ってくれた




私にはそれが、どれだけ救いになったか






死にたいと思っても、死ぬ勇気なんてなくて




カッターナイフを持つ手は震えて




足は凍ったように動かなかった




それに




私が死んだとしても、誰も悲しんだりしない




泣いてはくれない




私が死んで喜ぶ人はいても、困る人はいない




そう思うと、余計に死ねなくて




死ねないから生きている




死んでも困ってくれないのなら、生きて困らせてしまえばいいとさえ、思ったこともありました




でもあなたは、きっと私が死んだら、涙を流すでしょう




悲しくて、食事も喉を通らないでしょう




だから、よくわからなくなってしまったことがありました




私は、何のために生きているのか




死を悲しむくらいの愛を、




両の手で抱えきれないほどの愛をもらって




私が生きる理由を覆すには、十分すぎる力でした




あなたのそばにいるために、私は生きている




今なら、胸を張って、そう言えると思います






この気持ちを、きっと、幸せって言うんですよね




あなたは、最近構ってあげられなくて、なんて言うけど、




ひしひしと、愛は感じていますよ




そりゃあもちろん、たくさん話せた方が楽しいし、




ぎゅっと抱きしめてもらえたら、胸が張り裂けそうなほど嬉しいけど、




そうでなくても、温もりを感じていますよ




私、今、すごく幸せです






きっと、この言葉をあなたに伝えたら、あなたは、




自分は何もしていない




なんて言うでしょう




こんなに愛をくれているのに、何を今さらそんなことを




思わず笑ってしまいます






いつも、私を愛してくれてありがとう




すごく、すごく、幸せです




溢れかえったこの愛、




もう持ちきれないので、そろそろ一緒に持ってほしいのですが…




なんて




またお返し、しますからね




敬具

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ラブレター 1人台本 不問1 サイ @tailed-tit

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