第3話 その名はマグスタ 後編

 仰向けとなった状態。

 隙を突かれ内違う1機に体制を崩された。

 他の別個体も体制を立て直しながら、後ろでこちらの様子を窺いながら武器を構えている。

 向かい合っている機体のほうは、頭部から発射する砲撃でこちらの動きを完全に止めるつもりだろう。

 左側は張りぼてが剥き出し状態となっており、まともに戦えるような状態じゃない。


「くそ、武器がひとつもない! このままだと相手に焼き尽くされてしまう」


 まずい、このままではやられてしまう。

 俺の戦闘経験は浅はかだが、俺とそして隣にいるカナミのためにもここでは死ぬわけにはいかないんだ。


 なにか手はないのか?

 現状、この機体が所持する武器はひとつもない。

 単純に拳で殴り合う、機体のようだがなにか引っかかる。

 実は違う武器が内部に格納されてたりと、危険な状況下で微かな希望を密かに寄せる。

 そんな時、コクピットにある画面にあるメッセージが表示され。


「? 何か表示されたぞ」

「修復が完了しましたみたいなことが書いてあると思うけど……これは」



【修復源となる十分な金属を確認。これより装甲の修復に移ります。おおよそ1分】



 おおよそ1分?

 金属って、拾った覚えもないしいったいどのタイミングで俺は拾ったんだ?

 そういえば、さっき敵からもぎ取った機体のパーツがいつの間にかなくなっているがこれは。


「ユウセイくん、敵から取った装甲部分はどこにやった?」

「いや、見てなくてわからなかったんだが気がついたらなかったんだよ」

「……予測だけどさ、この機体には磁力があるって話したよね? もしかすると機体にはその力を利用して金属の部位を吸い寄せ分解し吸収したんじゃない?」


 そうこう考えていると敵の砲撃が俺たちの方へ飛んでくる。


「危ない!」

「っ!」


 瞬く間の閃光。

 辺りを一瞬でまばゆく包むその光は俺たちを機体ごと包み込む。

 避けようのないその砲撃に俺たちはなすすべもなかった。


 やられると目をつむった。

 死を甘んじ必死に操縦するレバーに手の力が入る。


 だが。


「……? 生きてる」


 それも一瞬のことで、なんとその機体はその攻撃ではもろともせず装甲の一部さえ無傷だった。

 結果が意外だったのか、存外な反応をみせる目の前にいる敵は二の足を踏みながら。

 1歩、また1歩と引き下がる様子をみせる。


 どうなっているんだ、本気でもう死んだと思ったのに操縦している俺が一番機体の頑丈さに恐怖を覚えていた。


「あの攻撃を受けてなんともないですって? そんな混合材を持ったMAなんて聞いたことも見たこともないわよ」

「怯んでるよし今だ!」


 おびえ引き下がる敵に、力強い蹴りを足に向かっていれる。

 蹴った反動により、俺の乗る機体は一瞬で起き上がり直立する。


 周りに目を配りながら敵の動きを捉えていると。

 剣を構えた機体が躍り出るように飛び込んでくる。


 足音を立てながら向かうまがまがしい機体。

 鋭利な刃で飛び込んでくるその様をみて、俺は思わず陳套な左の腕を振り上げ攻撃を塞ごうとする。


「うぉぉッ!」

「…………見てユウセイくん。塞いだ腕のほうを」

「? ……腕。……なに?」


 骨組が剥き出しになっていた部分は。

 丈夫な、白い装甲を身にまとい、攻撃を受け流していた。

 数秒前まで、剥き出しだったはずなのになぜ?


 すると画面にメッセージが表示される。


【左腕修復完了。武器のロード可能までの時間はあと、10秒ほどです。続いて右足部分の修復に移ります 100/45%】


「腕が修復しているだと? やはりカナミの言ったとおりこいつには修復機能が備わっているのか」


 受け止めた武器を指で今度は掴んで、強引に力を入れる。

 敵の持つ武器はその力に耐えきれず破壊。

 壊れた断片が飛び散る拍子に敵の上半身目がけて拳を放つと、転がりこむように向こうへと滑っていく。


 耐久だけでなく、なんという馬鹿力だ。

 あんな硬そうな武器を手で折ってしまうだなんて。


「たぶんもうちょっとでこの機体は完全な状態に修復されると思うよ、とりあえず敵の体制が少し偏ってきたから大回りして時間稼ぎでもして」

「了解」


 カナミの指示通りに廃棄場のゴミ山を壁にしながら、外周を大回りして時間を稼ぐ。

 間合いを開きながらも敵は銃でこちらを撃ってくるが、やはりびくともしない。


 数秒、時間が経つとカナミが教えてくる。

 そろそろ時間か。


「ユウセイくんそろそろ完了するよ」

「よし……って敵がこっちに向かってくるぞ」


【修復まで……5、4……】


 偶然にも先ほど剣を持っていた敵と鉢合わせとなり、こちらへと急接近。

 中距離なため距離はギリギリといった度合い。

 俺の乗る機体が修復されるのが先か、はたまた相手が攻撃するのが先か。


「間に合うか?」


 そして機体が接触し敵が予備の武器を取り出し。


【……1】



「間に合ぇぇッ!」


「……0」


 武器を振るう音と、画面のカウントダウンのタイミングは同時だった。

 機先を制したのはどちらか。


「…………………………どうやら間に合ったみたいね」


 機体は。


【0。完全修復完了。機動性は正常値に戻りました】


 1歩早かったのは俺のほうだった。

 機体全体から巨大な駆動音がこだますると、広大な機体からかかる高音、圧力とともに攻撃する敵を払い飛ばす。

 そこへ、先ほど戦った他の2匹がゴミの中から現れ、俺たちに襲いかかる。


「ユウセイくん!」


 武器、武器はないのか?

……そういえばさっき武器が使えるとかどうとか……ってメッセージが表示されていたような。

 いくら頑丈なこの機体でも、腕を拘束なんかされたら攻撃のしようが……。


……どうすればいいんだ、肝心の呼び出す方法は何かないのか?


「……ユウセイくん外線が来てるよ」

「こんな時になんだ!」


 大声を出しながらその通信に耳を傾ける。


『……画面に表示されたSのボタンを押してみて』

「なんだよ急に」


 名乗りもなしに指示をしてきたのは女性の声。

 ただ、俺になにかで助けようとする意図が微かに伝わってくる。


 S。


 画面右上にM,G,S,Tと表示された部分がある。

 ここを押せってことか?


「……これか?」

「いくつもの武器の一覧のようなものが表示されたわね」

『BTSそれと、スプラングシールド、上のほうにあるから押してみて』


 騙されたつもりで順当にそれらしき項目を瞬時に見つけ押す。

 すると。


 機体の手のひらから、長い剣と硬度の高そうな大型の盾が機体を覆う。


【ロード完了】


 のメッセージとともに完了の文が表示された。


「よし、これなら! たああああああああぁッ!」


 剣をなぎ払うように使うと、武器が発光させまばゆい剣を作り出した。

 せまりくる敵にその攻撃が直撃すると。


「やったか⁉」


 攻撃が入り込み、敵の胴体を貫いた。

 そのまま切り落とすようにレバーに力を入れ押し切る。


「ぐぉぉッ切り裂けぇ!」


 襲ってきた敵の体は2機ごとまっ二つに切り裂かれ、その場で爆散する。

 爆風の中に飲まれるが依然として無傷だ。

 撃破した直後、体からは汗が額から浮き出た。


 初めて機体に乗って戦ったというのにこんなに体力を消耗するとは。

 感覚的には全力疾走でもしたかのような汗だ。

 体がこういうのになれたないのか、とても疲れというものを過度に感じてしまう。


「大丈夫、汗すごいよ?」

「心配いらないよ、残すはあと1機だけだよな」


 次の敵を見つけようと、先へと進み敵を探す。

 先ほど蹴り飛ばした敵は……この先のはずだ。

 直進して前へと進み、山々となったゴミ処理場を突き進む。

 障害となる壁は、かき分けるように視野を開かせ前進する。


「? あれはさっき飛ばしたやつだ」

「駆け上がってどこか行って……撤退してるんじゃないかな。追う?」

「あぁ当たり前だ、自分のコロニーをむちゃくちゃにされたんだ、ならいっそこの力で」


 歩みを進めていると先ほど飛ばした機体を見つける。

 あいつらのせいで俺たちの生活をくずされたのだ。なのでただでは返さない考え方になる。

 ここで安々見逃せば、ヒドラの状況は悪くなる一方だろう。


 よし、あいつを撃破するば……。


『悪いけど中断してくれる?』

「さっきからなんだよあなたは」

「落ち着いてユウセイくん。この人なにか訳あって私たちと話しているみたい。従ったほうが賢明かもしれないよ」


 と俺をなだめさせるカナミ。



『……今からあなたに直接会って話したいことがあるから……これる?』


 引き留めるように俺の行動を制してくる。


 先ほど、俺たちを助けてくれたこと。

 画面を見ていないのに、見ているかのような的確な指示。

 その様子からして、感情はつかめないもののこの機体となにか関係がある人物ではないかと考えた。


 密接な関係柄。この機体と密接な関係の者。

 ならここは彼女の声に従ってついて行くほうがいいかもしれない。

 敵を見逃すのは少したまりかねないが、今は彼女に会うことに重きを置くことが先決するべきだと考えた俺は彼女のいうことに従う。


「……わかった。わかりました、とりあえず待ち合わせをしましょう」

『ありがとう、じゃあ場所をわかりやすく指定するわね……場所は』


 謎の通話の女性。

 少し怪しく思いながらも、戦闘で助けてくれたことを尊重し彼女の指定した場所へ俺とカナミはそこへ向かうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

磁力装士マグスタ もえがみ @Moegami101

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ