第45話「親友同士」
























 お互いファッションに興味があって、あたしは特に色んな系統の服を好むから前もよくやっていたショッピングでもしようと、暇潰しがてら渚と一緒に街中へと繰り出した。

 そういえば最近は椿さんの家に入り浸ってばっかりで、こういうお出かけらしいお出かけもそんなに多くはなかったな…と、久々の自由な買い物を大親友と楽しむため行きつけのブランドショップに足を運んだ。

 椿さんと出かけるとお金の使い方を気にしちゃうから…その点、今日のデート相手は渚。あいつもそこそこ金持ちだから、好き勝手使っても驚かせないでしょ。


「…桃、ほんと何でも似合うね」

「当たり前でしょ。この美少女を前に何言ってんの?」

「貧乳なところだけ残念」

「はい、ここの会計担当はあんたに決定。あの棚全部買ってやる。てか渚も貧乳じゃん、Bカップのくせに」

「それは勘弁してくださいAカップさん…」

「誰がAカップだ、誰が!こう見えて一応Bはあるから、Bカップだから!」

「ははっ…お客様、お静かに。迷惑だよ」

「あんたのせいで怒鳴ってんでしょうが!」


 相変わらずの会話を繰り広げながら、ムカついたから本当に何着かは買わせて、残りは自分で買って店を出た。

 その後も主に服屋を重点的に、気になったら寄って回って、そのついでに成長期の紅葉のために先を見越して今より大きめの服をいくつか選んでおいた。あんまり高いのは怒られるから、庶民的なお値段の範囲で。

 渚も渚で、楓へのプレゼントにアクセサリーやらを買ったみたいで満足げに紙袋を店員から受け取っていた。


「楓に何買ったの?」

「ブレスレッド。お揃いで」

「相変わらず仲良いね」

「はは、当たり前だよ。大好きだから」


 そう言って笑った、包み隠さず好意を伝えられるようになったらしいヘタレじゃなくなった渚を見て、安心してあたしも笑った。

 買い物も程々にして、夕方も近くなってチラホラと人も増えた駅前で、ふたり。


「桃さん」

「ん?」

「ああいうしつこいナンパ、経験豊富な桃はどうやって解決しますか」


 たまたま見かけた光景を指差した渚が冗談交じりに聞いてきたから、鼻を鳴らして苦笑する。


「しかたない…男たらしの本気、見せてあげる」


 自信満々に呟いて、渚に持っていた紙袋を全部渡した後で、お得意のかわいらしい作り笑いを浮かべて男の元へと駆け寄った。


「っしつこい…ってば」

「いいじゃん、俺とこの後」

「あ!お兄さん」


 嫌がる女の腕を掴むナンパ野郎に、あたかも知り合いを見かけた時のような反応で声を掛けて、顔を覗きこんだ。

 会うのは完全に初めてだけど…あくまでも運命的にまた出会えた感を演出しよう。

 …こんなとこでナンパするやつは大体ヤれればいいとしか思ってないから、今までに声をかけてきた女の顔なんて覚えてない。落とせなかった女ともなれば余計に、早々に気持ちを切り替えて忘れるはず。

 その足りてない脳みその、記憶の悪さを利用する。


「…やっぱり!また会えた」

「え…?」

「前に会った時、連絡先交換しそびれちゃったから…ずっと探してたんですよ?お久しぶりです!」

「は?……え、あ、俺…君みたいな可愛い子知らないけど」

「えー…あたしのこと忘れちゃったんですか?かなしい……あたしはあれからお兄さんのこと忘れられなかったのに」

「あ、ご…ごめん。どこで会ったっけ?」

「まぁいいや。とりあえず、あたしと連絡先交換しません?その子、乗り気じゃないみたいだし」

「え。交換してくれんの?」

「もちろん!今日は今から友達と予定入ってて無理だけど…今度またぜひ食事でも行きませんか?」

「お…おう!行くいく」

「うん、じゃあスマホ出して?」


 あたしが鞄から先にスマホを出したら、男も嬉々としてポケットから同じような物を取り出す。

 …もちろんこのスマホは男と連絡する用に契約してる、メッセージアプリしか入ってないやつで、だから交換しても何ひとつ影響も問題もない。名前も本名と少し変えて登録してるし。


「……よし、交換できたかな。ちゃんと登録されてるか確認して?」

「ああ、しっかりゲットしたぜ」

「ってことだから、あたしを前に他の女口説かないよね?」

「あ…ああ、もちろん」

「じゃ、ばいばーい。また今度ね」

「おう、またな」


 スムーズな流れで連絡先を交換して、それで一時的に欲求を満たしてくれた男は元々ナンパしていた女を諦めて、その場からおとなしく離れていった。

 にこにこ笑顔でそれを見送って、男の背中が見えなくなったら交換した連絡先は念のため秒で消して、笑顔だけは消さずにそのまま残して女の方へ振り返る。


「…大丈夫でした?お姉さん」

「え……は、はい」

「よかった。今度から変なやつに引っかかったら、あたしに回していーよ。あんた美人だからいちいち断わんのも大変でしょ?困ったらこの連絡先伝えときな、後はこっちで対応するから」


 こういう時のために普段から持ち歩いてる、これもまた知られても問題ない方のメッセージアプリのIDが書かれた紙を手渡して、丁寧に何度も頭を下げた女には「気にしないで」と伝えた。


「さすがに申し訳ないから…お礼させてください」

「ほんとにいらない。女には興味ないから。じゃあね」


 律儀なお礼はバッサリ断って、渚の元へと足早に戻る。


「桃って……女からもモテそうだね」

「なにその感想。もっと他にあったでしょ」

「いやほんとすごい…尊敬します」

「ま、あたしにかかればこんなもんよ」


 得意げに髪を後ろへとかき上げて、もはやふたりの中で趣味みたいになってるナンパ男からの救出はこうして今日も無事に終えた。


 ちなみに、渚のナンパ男への対応はというと。


「君たち、かわいいね」

「桃、行こうか」


 男に声をかけられた瞬間に、あたしの肩を抱いて流れるように歩き出す。


「…あんたもなかなか、強いと思うわ」

「あんなのに構ってる時間が無駄だからね」


 渚はこんな感じで、ガン無視一択。

 あたしとはまた違った対応の仕方に面白くなって笑ったら、渚もつられて砕けた笑顔を見せていた。


「はぁー…やっぱ渚って、まじで最高。大好き」

「桃もね。私も大好きだよ」

「あんたは一生、大親友だわ」


 似た者同士で、だけど全然違ったあたし達は、そんな事を言いながら笑いあって帰路についた。




































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愛を教えて、椿さん 小坂あと @kosaka_ato

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