選択ルート③「輝くのは」

手持ち花火当日になった。

碧と翠は、バケツと大量の花火セットを持っていた。その後ろを彼女はスマホで撮影していた。


「そんなところ、わざわざ撮らなくていいから。」


碧が呆れたように答えると、翠が「まぁ、思い出作りってことでさ」とフォローした。いつか見返した時に、この日のことを思い出すかもしれない。そう思うと、一枚でも多く写真を撮りたかった。


花火セットにはいろんなものがあった。置き花火、色が変わる手持ち花火や変わり種など、どれも楽しそうだった。


彼女があれこれといろんな花火を試すそばで、「はしゃぎすぎ」と碧は微笑んだ。彼にも手持ち花火を持たせると、少し慌てたように受け取った。


置き花火に火をつけると、一気に火花が飛び散った。火花が燃え移らないように、翠は彼女の手を引き、少し距離を作った。彼のさりげない気遣いが心地よい。


翠の顔を覗き込むと、目が合った。彼は優しく微笑んだ。その顔をみて、思わず彼女は顔を紅潮させた。



いろんな花火で遊んだが、醍醐味は線香花火だった。小さい頃から、皆でどっちが長く線香花火が続くか勝負した。


3人はその場にしゃがみ込んで、線香花火に火をつけた。少し風が強く、なかなか火がつかなかった。


「じっとしてて」


そう言って、碧は彼女と肩をくっつけるようにしゃがんだ。風が入ってこないように、体で風を遮断したのだ。


ただ、彼女はいつもよりも近い碧の顔にドキッとした。思わず彼の顔を見つめると「そんなに見られたら、緊張するんだけど」と返されたので、そのまま俯いた。


来年も碧と一緒にできるのかな、と少し考えてしまった。もしかしたら、来年は彼の横で線香花火をしているのは、自分ではないのかもしれない。そう思うととても切ない気持ちになった。


無事に線香花火に火がつき、勝負が始まった。3人の線香花火はどんどん膨れ上がった。少しして、碧と翠の先端が落ちた。彼女の勝ちだ。


彼女の嬉しそうな様子を見て、碧と翠は微笑んだ。いつかこうして彼女を笑顔にするのは、自分ではないかもしれないと、心のどこかで感じながら…


***


「これが最後の花火だから。」


そう言って碧は、最後の線香花火を彼女に渡した。「どうせやりたいと思ってそうだし」と彼は言った。


風除けのため、彼女を挟むように、碧と翠はその場に座り込む。両肩が彼らと触れて、先ほどと同じように、ドキドキした。


線香花火に火がついた。少しずつ先端が膨れ上がった。これまでよりも大きく、そして長く続いた。


やがて最後の花火が消えると、あたりは一層暗く感じた。黙々と片付けをする3人の間に、沈黙が流れた。


「こんな時間が続けばいいのに」と彼女は思った。スマホの中の写真を見返す。3人の楽しそうな顔が並んでいる。その中でも、一枚の写真に目がいった。それは…


【選択肢】

A「手持ち花火を名残惜しそうに握る自分」

→エンディング②(https://kakuyomu.jp/works/16818093075927510526/episodes/16818093075928981790)に進む

B「手持ち花火でハートを作っている自分」

→エンディング④(https://kakuyomu.jp/works/16818093075927510526/episodes/16818093075929097727)に進む

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