選択ルート⑤「はぐれないように」

花火大会当日になった。

自宅前で待ち合わせした彼女と翠は、そのまま会場へ向かった。


「花火を近くで見るなんて、久しぶりだな。」


会場へ向かう道のりは、たくさんの人で混雑していた。道路は歩行者天国となっており、あちこちに誘導係が立っていた。


「はぐれないように、手を握ってもいいか?」


彼はそういうと、手を差し出してきた。彼女はその手を握る。すると彼はギュっと握り返してくれた。彼の体温が伝わってくる。それがどうも恥ずかしかったが、嬉しかった。



***


会場はすでに観客でいっぱいだった。座って見られるエリアはどこも満席であり、2人は立ち見席の方へ向かった。


辿り着いた立ち見席もそれなりに混んでいたが、2人が立って花火を見るだけのスペースは確保できた。


「始まるぞ。」


花火が始まった。最近流行りの音楽に合わせて、様々な花火が夜空に輝く。


王道の大きな花火、下から湧き出てくる花火や変わり種まで様々だった。どの花火も素敵で、迫力があった。



いよいよクライマックスだ。一斉に花火が上がり、夜空一面が光のカーテンのようだった。周りの観客は、何度も写真を撮っていた。


しかし2人は写真を撮ることもなく、ただじっと花火を見上げた。この時間を忘れないように、目の奥に焼けつけておきたかった。


2人の手の甲が触れた。大きな音から守ってくれたあの手は、もう自分よりも遥かに大きく、角張っていた。いつかこの手は、彼女以外を守る日が来るのだろうか。そう思うと、どうしてもこの時間が続けばいいのにと思ってしまうのだった。


「あのさ…」


翠のその声は、花火の後にかき消された。なんと言おうとしたかはわからない。ただ彼は、ゆっくりと彼女の手を優しく包んだ。その体温が心地よくて、彼女は握り返した。



***


花火大会は無事終了した。多くの人が同じ出口を目指して、歩き出した。


2人は離れ離れにならないよう、しっかり手を握った。それは会場に向かう時のものとは違った。まるで、両思いになった恋人同士の、初めてのスキンシップのようだった。


「また来年も一緒に行けたら嬉しい。」


翠はそういうと、恥ずかしそうに笑った。それをみて彼女は…


【選択肢】

A「一緒に笑った」

→エンディング③(https://kakuyomu.jp/works/16818093075927510526/episodes/16818093075929047825)に進む

B「下を向いて頷いた」

→エンディング④(https://kakuyomu.jp/works/16818093075927510526/episodes/16818093075929097727)に進む


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