俺なんかよりも

 リディアに挨拶を済ませて、俺たちは四人で一緒に教室に入った。

 そしてそのまま、空いていた後ろの方の席に座った。

 

 それに続くようにして、主人公達も教室に入ってきて来たかと思うと、俺たちとは真逆の前の方に座って、主人公は俺に注意を向けていた。

 ……俺としては主人公達と関わりたいだなんて思ってないし、ちょうどいいんだけど、俺は何もしないし、俺なんかよりも幼馴染に注意を向けた方がいいんじゃないか? って思うんだが。

 俺の記憶じゃ幼馴染ヒロインは最初から主人公に惚れていて、もっと距離感も近かったはずなのに、今は全然そんなことないし。


「ノヴァ、ちゃんと聞いてる?」


 そう思っていると、リディアにそんな注意をされてしまった。


「……悪い。ちょっと聞いてなかった」


 ……これじゃあ人の事を言えないな。

 俺も関わる気のない主人公達なんかに注意なんて向けてないで、友達や恋人達の話を聞こう。

 どう考えてもそっちの方が大事だ。


「また?」


 ……そういえば、馬車の中でも同じようなことがあったか。

 あの時は別に主人公たちに注意を向けていたわけではないけど。


「悪い。ちょっと考え事をしてたんだよ。次からはちゃんと聞くよ」


「ん、大丈夫だけど、何か悩み事? 私でいいなら、聞くよ」


「私も聞くよ、兄さん」


「わ、私も、聞きますよ!」


 心配してくれるのは嬉しいけど、今は悩みがあって話を聞いてなかった訳じゃないんだよな。

 ……まぁ、馬車の中で話を聞いてなかった時は関わったら確実に面倒なイベントに巻き込まれてしまうリディアのことで悩んでたから、その時は悩みがあったんだけどな。


「ありがとな。でも、大丈夫だから、気にしないでくれ。……三人には悪いんだが、ただ俺が話を聞いてなかっただけだからさ」


「ほんとに大丈夫? 兄さん。入学式の日から良くボーッとしてるよね?」


 俺の言葉を聞いたルラは俺を更に心配するようにそう聞いてきた。

 ……天使に心配をされるのは嬉しいけど、主人公の話をする訳には行かないし、ましてはその時はリディアのことで悩んでたなんて言えるわけが無いし、何とか誤魔化さないと。


「大丈夫だよ。……あれだ。俺も何だかんだ学園に通うのなんて初めてだからな。色々と新鮮で、ちょっとボーッとしちゃってたんだよ」


 前世では学校に通ってたし、新鮮さはちょっと薄いけど、まぁ、嘘では無い。

 イベントが色々と起きるから来たくはなかったけど、そこを除けば友達もできたし、ちゃんと俺は楽しんでる。


「そうなの? じゃあ、私と一緒だ。私も楽しいよ、兄さん」


「……良かったよ」


 ルラが天使すぎてつい色々と言いたくなってしまったけど、それを全て飲み込んで、俺は一言だけそう言った。

 イベントに巻き込まれるからって無理に二人を学園に通わせないようになんてしないで良かったな。


「あー、それで、結局リディア達はなんの話をしてたんだ?」


「も、もう授業が始まりますし、さっきの話はいいんじゃないですか?」


 ノノが何故か恥ずかしそうにしつつそう言ってきた。

 さっきはそんな様子なんて無かったのに、なんでだ? ……気になるじゃないか。

 本当に先生がそろそろ教室に入ってきそうな時間だし、深くは聞かないけどさ。


「ん、確かに。今日の授業、実技だし、緊張する?」


 なんで疑問形なんだよ。

 と言うか、実技なのかよ、今日の授業。

 まぁ、ルラには俺が魔法を教えてるし、ノノも本人の頼みで最低限ではあるけど、戦い方を教えてあるし、大丈夫だろう。

 その変なやつが教えたならともかく、弱体化もしてない本当に最強な俺が直接教えたんだからな。大丈夫に決まってる。

 リディアは分からないけど。

 強い方だとは思うけど、初期時点でのリディアってどの程度のことができるんだっけな。あんまり覚えてないな。

 まぁ、授業が始まったら分かるし、深く考えることでもないか。

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もしも最強すぎたが故に作者の都合で弱体化されてしまった悪役キャラが弱体化イベントを回避してしまったら? シャルねる @neru3656

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