第二章

# 第2章


HE1327-2326──銀河系最古の星の一つとされるその天体は、見る者を圧倒するような光景を呈していた。


「信じられない…」


探査機のディスプレイに映し出された星の姿に、ライアは息を呑んだ。


淡い緑がかった光に包まれたHE1327-2326の表面は、巨大な構造物で覆われていたのだ。都市とも宮殿ともつかない建造物が、星全体に広がっている。


「ホモ・ステラリスの痕跡だわ。間違いない」


ライアの直感が、躍動する。


「レーダーに反応なし。人工物らしき熱源も検出されません」


アルファがスキャン結果を告げた。


「ということは、ここに住む知的生命体はいないのか?」


ゼフが尋ねる。


「かつては存在したのでしょうね。でも、いつの時代の話なのか…」


謎を呼ぶ光景に、ライアの胸が高鳴った。


***


探査機を降り立ったライアたちを出迎えたのは、荘厳なまでの静寂だった。


「大気組成は地球と酷似している。呼吸できるわ」


ライアはヘルメットを外し、古代の空気を吸い込んだ。


「ホモ・ステラリスは、私たちと同じ環境で生きていたのかもしれないね」


ゼフが感慨深げに呟く。


「ここなら、私たちの探す手がかりが見つかるはず」


希望に胸を膨らませながら、ライアは足を進めた。


やがて一行は、星の中心部に佇む巨大な宮殿へとたどり着いた。威容を誇る建造物は、まるで探索者を待ち構えていたかのようだ。


「中に入ってみよう」


ライアが仲間を促す。


宮殿の内部は、それはそれは不思議な空間だった。壁や床は鏡のように輝き、自分たちの姿が無限に反射している。まるで、ホモ・ステラリスの記憶の中に迷い込んだような錯覚すら覚える。


ふと、ライアは違和感を覚えた。鏡に映る自分の姿が、どこかおかしいのだ。


「ねえ、ゼフ。私、こんな格好だったかしら?」


「え? ああ、その…」


ゼフも戸惑ったように目を泳がせる。鏡の中のライアは、出発前とは明らかに違う服装をしていた。まるで、古代の女王のような装いなのだ。


「どういうこと…?」


ライアが呟くより先に、鏡が光り出した。


「ようこそ、我が子よ」


優しく響く声は、ライアの脳裏に直接語りかけているようだった。


「私は、ホモ・ステラリスのルシエンティア。そして、あなたの遠い祖先でもある」


「ルシエンティア…? 一体、どういうことなの?」


戸惑うライアに、アルファが言った。


「ホモ・ステラリスが過去から未来を見通していた可能性があります。そして、私たちの来訪を予期していたのかもしれません」


「未来を…? でも、どうして?」


ライアの問いに、鏡のルシエンティアが答えた。


「あなたの中に、私たちの遺伝子が眠っているのです。だから、この場所があなたを呼んだ。私たちはあなたを待っていたのです、何万年もの間」


「何万年…」


ライアの脳裏に、ホモ・ステラリスの壮大な計画の片鱗が浮かぶ。


「あなたには、使命があります。種を繁栄させる者の使命が」


「種を繁栄させる…」


ルシエンティアの言葉に、ライアは自身の存在そのものが揺さぶられるのを感じた。人類もまた、ホモ・ステラリスの実験の産物だったのだろうか。


「真実を知りたければ、私たちの足跡を辿るのです。銀河を巡る旅こそが、あなたの答えへの道標となるでしょう」


旅の先に待つ真実。それを求めて、ライアたちの冒険は加速する。


星々を繋ぐ鍵を手に入れるため、若き探求者たちは再び宇宙へと旅立った。

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