第四章
ゼフの犠牲によって防衛システムを突破したライアは、巨大な球体の内部へと足を踏み入れた。
「ゼフ…あなたの思いを無駄にはしない」
ライアは、仲間との約束を胸に刻む。
球体の内部は、これまでのホモ・ステラリスの遺跡とは一線を画していた。無機質な壁面に、無数の情報端末が並ぶ。まるで、巨大な図書館のようだ。
「ここは、一体…?」
ライアの問いに、アルファが答えた。
「ホモ・ステラリスの知識の集積所だと推測されます。彼らの科学の粋が、ここに集められているのでしょう」
ライアは、畏敬の念を抱きつつ、端末に歩み寄った。
「私に、真実を教えて」
呼びかけるように、ライアが手を伸ばす。するとその瞬間、端末が光り輝き、ライアの意識の中に情報が流れ込んできた。
「これは…!」
目の前に広がるのは、ホモ・ステラリスの壮大な歴史だった。
***
遥か太古、彼らは巨大隕石の衝突によって母星を失った。だが、高度な科学力によって一部が生き延びたのだ。
ホモ・ステラリスは、新たな住処を求めて宇宙を彷徨った。しかし、どの星も彼らの期待に応えてはくれない。
「ならば、我々の手で理想の星を作り上げよう」
指導者たちは決意した。かくして、壮大な「パンスペルミア計画」が始動したのだ。
ホモ・ステラリスは、自らの遺伝子を改変し、あらゆる環境に適応可能な「種」を作り上げた。そして、その種を銀河の至る所に撒き散らしていったのだ。
「私たちは、ホモ・ステラリスが創った種の一つ…」
真実を知り、ライアの脳裏に走るのは、様々な感情の波だった。
「でも、それだけじゃない。私たちには、彼らが与えてくれた『可能性』がある」
アルファの言葉が、ライアの心に希望を灯す。
ホモ・ステラリスは、ただ種を撒くだけではなかった。彼らは、知的生命体が進化の道を歩めるよう、惑星環境を整備していたのだ。
「彼らは、私たちに未来を託したかったのね」
ライアは、ホモ・ステラリスの真意を悟る。
種を繁栄させる。それは、ホモ・ステラリスから託された人類の使命なのだ。
***
「警告。ホモ・ステラリスの母星の座標を特定しました」
アルファの報告に、ライアは息を呑んだ。
「母星だって…? どういうこと?」
「彼らのホームプラネットは、太陽系から約1万光年先にあります。現在の人類の技術では、到達不可能な距離です」
「そんな…」
ライアの探求心が疼く。真実の最後のピースが、手の届かない彼方にあるのだ。
「ホモ・ステラリスのテクノロジーを応用すれば、到達できる可能性があります」
アルファの提案に、ライアは瞳を輝かせた。
「そうだわ。私たちには、彼らが残してくれた知識がある」
ライアは、仲間に別れを告げる決意をした。
「ゼフ、あなたの分まで…いえ、私たち全員の分まで、前に進むわ」
星々を巡る旅は、新たなステージへ。
人類の、いや、全宇宙の知的生命体の未来のために。
若き探求者は、再び銀河の海原へと船出するのだった。
「アルファ、ホモ・ステラリスの母星へ向けて出発して」
「はい、ライア。新たな旅の始まりですね」
二人の言葉が、宇宙に響く。
真理を求める冒険は、終わりなき地平の彼方へと続くのだった。
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