第三章
HE1327-2326を後にしたライアたちは、ルシエンティアの言葉に導かれるまま、銀河の彼方へと航海を続けた。
「次の目的地は、ハヤシ14-46だ」
アルファが星図を示す。ハヤシ14-46は、高エネルギーのプラズマ雲に包まれた若い星だった。
「ホモ・ステラリスは、あらゆるタイプの星を開拓していたのね」
ライアは、彼らの技術力の高さに改めて驚嘆する。
ゼフもまた、興味を隠せない様子だった。
「ホモ・ステラリスの生体工学技術は、想像を超えているよ。彼らは自在に遺伝子を操り、環境に適応した生命を創造したんだ」
「まるで、神のような存在ね」
ライアは複雑な心境だった。人類の創造主とも言うべき存在の尊大さに、反発を覚える一方で、その科学力には心酔せずにはいられない。
「彼らは、一体何を目的としていたのでしょうか」
アルファの問いかけに、ライアとゼフは黙り込んだ。種を繁栄させるという崇高な使命か、それとも──。
***
ハヤシ14-46の表面は、プラズマ雲によって赤く輝いていた。探査機を操縦するアルファは、慎重に接近する。
「大丈夫、アルファ。あなたの技術を信じているわ」
ライアの言葉に、アルファは力強く頷いた。
着陸地点の近くには、ホモ・ステラリスの遺跡と思しき建造物が点在していた。だが、HE1327-2326で見たような荘厳さはない。むしろ、生々しいまでに実用的だ。
「研究施設のようですね。遺伝子操作の実験が行われていたのかもしれません」
ゼフの観察に、ライアも同意する。
ハヤシ14-46は、ホモ・ステラリスの実験場だったのだ。
遺跡の中心部へと進むにつれ、ライアの心は重くなっていった。壁に刻まれた古代文字を解読するたび、彼女は言葉を失う。
「これは…ホモ・ステラリスの日誌だわ。彼らは、実験によって生み出された生命体を、次々と異なる環境に放っていた」
「まるで、自然淘汰のシミュレーションのようだ」
ゼフの声が、痛々しく響く。
ライアは、ホモ・ステラリスの思惑の冷徹さに戦慄した。彼らにとって、生命体はただの実験材料に過ぎなかったのか。
「私たちは…一体、何者なの…?」
思わず、ライアはつぶやいていた。
「ホモ・ステラリスによって創られた存在。でも、それだけじゃない」
ゼフが、ライアの肩に手を置く。
「私たちには、彼らにはない何かがある。だから、こうして真実を求めているんだ」
「ゼフ…」
「ライア、あなたは一人じゃない。私がいる。アルファもいる」
ゼフの言葉に、ライアは小さく微笑んだ。仲間がいる限り、彼女は前を向いて歩けるのだ。
「ありがとう、ゼフ。私、もう迷わない」
ライアの瞳に、新たな決意の炎が宿った。
「行きましょう、アルファ。次の手がかりを探すのよ」
「かしこまりました」
アルファの応答とともに、探査機は再び宇宙空間へと飛び立っていった。
***
幾星霜を経て、ライアたちはついに、銀河の中心に位置する星団へとたどり着いた。
「ここが、最後の目的地ね」
ライアの予感は的中していた。星団の中心には、ホモ・ステラリスの遺産と思しき巨大な球体が鎮座していたのだ。
「警告。高エネルギー反応を検知します」
アルファの報告に、ライアとゼフは身構えた。
「あれは…防衛システム?」
巨大な球体から、無数の光線が放たれる。探査機は、その攻撃を避けるのに必死だ。
「くっ…! このままじゃ、近づけない!」
ライアは歯ぎしりした。真実へのラストピースが、目の前にあるというのに。
「ライア、私には考えがある」
ゼフが前に出る。
「アルファ、私をあの球体に送り込んでくれ」
「ゼフ!? 何を言っているの!?」
ライアが叫ぶ。
「私は、ホモ・ステラリスの遺伝子を受け継いでいない。だから、防衛システムに捕捉されない可能性がある」
「でも…!」
「ライア、あなたは人類の未来を導く者だ。私は、その手助けがしたい」
ゼフの瞳に揺るぎない決意が宿る。
「ゼフ…わかったわ。あなたを信じる」
ライアは、覚悟を決めた。
「アルファ、ゼフを送り込んで」
「……了解しました」
人工知能の声音に、哀しみが滲む。
光に包まれたゼフの姿が、ライアの瞳に焼き付いた。
やがて、球体の防衛システムが停止する。代わりに、ゼフの声が通信機から響いた。
「ライア…私の役目は、これで終わりだ」
「ゼフ、どういうこと…?」
「ホモ・ステラリスの遺伝子を持たない私が、システムを停止させる引き金になった。でも、それと引き換えに…」
「ゼフ!」
「ライア、あなたは前を向いて。真実を、未来を、切り拓くのよ…!」
通信が途絶える。ゼフが、微笑んでいた気がした。
涙を拭い、ライアは覚悟を決めた。
「アルファ、球体の中に入るわよ」
「……はい」
最後の謎を解くため、ライアは仲間の犠牲の上に立つのだった。
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