第4話 My Advice, You Listen!?

 が明ける頃、わらでまれたベッドからい出るように起きたカンナは、人の気配を感じて外に出る。


「んぁ~。あれ、もう起きてたんだ」


 をして目をこすりながら見ると、そこには昨日カンナが助けた少年がいた。 


「ああ、起きている」

「なにか用でもあるの?」


 昨日はあれからたいした会話もなく、別々べつべつに夜を明かした二人だっただけに、朝はやく、村の人たちでさえ起きてこない時間帯じかんたいになぜここにいるのか。


「ああ。お前は昨日、『指定していされた場所』に『Cランク』の魔獣まじゅう討伐とうばつしに行くと言っていたな」

「ええ、確かに言ったわよ」


 すると、少年はカンナに近づき、より小さな声で、して言った。


「お前、だまされてるぞ。このまま『指定された場所』とやらに行ったら十中八九じゅっちゅうはっく、お前は死ぬ。これは忠告アドバイスだ。その『指定していされた場所ばしょ』に行くのはやめておけ。とっとと荷物にもつをまとめて、この村からるんだ」

「……なにそれ、なんであなたにそんなことを言われなきゃならないのよ」


 カンナは先程さきほどまでのねむそうな顔をやめて、きゅう真面目まじめな顔になった。


「……おかしいとは思わないのか。昨日の女は、この村が自給自足じきゅうじそくだからたいしたもてなしはできない、と言った。なのに、この村には自給じきゅうをするためのはたけもない」

「え……まあ、確かに言われてみればそうだけど……」


「畑も何も無いのは、からだ。あの大きな祭壇さいだんえがかれている魔法陣まほうじん、あれは悪魔あくま契約けいやくするときのものだ」


 話が見えてこない様子のカンナは首をかしげる。


悪魔あくま生命力せいめいりょく消費しょうひしてどんな魔法まほうだって使うことができる。例えば、『雑草ざっそう小麦畑こむぎばたけに変える』魔法なんてのもできるだろうな」


 ようやく話が見えてきたのか、カンナの陶器とうきのように白い肌が青ざめる。


「じゃ、じゃあ、私が村の人達の行ったとおりの場所に行ったら生命力せいめいりょくうばわれるかもしれないってこと?」

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。あとはお前が決めろ。俺はこの村から去る」

 

 げることはげた。

 そう言わんばかりに少年は振り返って去っていく。

 残された少女は、ただだまってその背中せなかを見つめていた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 日が登り始めた頃、魔王はひそかに村をあとにした。

 ふと、背中せなかいや予感よかんがよぎる。


 ……何かに追いかけられている、ような気がする。


 「――おい、そこに『いる』んだろ?出てこい」

 

  右手に魔力を封印ふういんする包帯ほうたいが巻かれていて、魔力探知能力まりょくたんちのうりょくいちじるしく下がっているので、半信半疑はんしんはんぎだが。

 ふと足を止め、『左目の暴走ぼうそうおさえる人』ポーズを取る。


「――だまっていても『無駄むだ』だ」

 

 ……


 次の『考えながら右手がうずいている人』ポーズを取っている間も反応はんのうはない。


「――おい、『いい加減』に出てきたらどうなんだ」


 ……

 

 ……


「――フッ。俺としたことが、ただの勘違かんちがいだっt――」

「まおうさま……なに、してるの」


 突如とつじょからかけられたねこごえのような声におどろかされる。


「ひぇあ!?」


 びくり、体がのけぞってしまって思わずこしを痛めた。


「俺の背後はいごを取るとは……なかなかやるな。アイリス」

「まおうさまが……よわくなった、だけ」

 

 アイリス、と言われた銀髪ぎんぱつの少女は魔王に頭をでられてうれしそうに微笑ほほえみ、トレードマークの猫耳ねこみみがピョコンとはねた。


「しかし、なぜお前がここに?」

「こっそり、魔王様を転送てんそうした魔法陣を複製コピーして……あとはこので、ここまで、きた」


 猫のような上目遣うわめづかいをしながら、星のように光る千里眼をこちらに向けるアイリス。


「いまなら、逆転送魔法ぎゃくてんそうまほうがまだつかえる……まおうさま、いっしょに、かえろ?」


 アイリスはそう言いながら、自分のやってきた方向ほうこうゆびさした。


「でも、ここからすうキロはなれてるから……急がないと、魔法陣まほうじん……失効しっこう

「……俺がいない間に、魔王城は、魔王軍の幹部たちはどうなってる?」


 魔王が思ったより深刻しんこく表情ひょうじょうをしているのを見て、アイリス。

 

「いまのまおうさま……むかしと、ぜんぜんちがう。いまのまおうさま……『らしくない』」 


 らしくない、とはどういう意味なのか。 

 

魔王城まおうじょう心配しんぱいとか、ほかの幹部かんぶの心配とか……ほかにも、あの人間……どうして、アドバイスしたの?むかしならぜったい、見捨みすててた」

「おまえ……そのシーンから見ていたのか」


 言われてみれば、これまで誰かに忠告アドバイスすることも、されることもなかった。

 

 自分が唯一ゆいいつで、絶対ぜったい


 その思想しそうは百年前、アセロラと対峙たいじしたとき、確実かくじつに『なにか』が変わったのだが、それは魔王自身まおうじしんにもわからなかった。


「でも、けっきょく、無駄むだわりそう。あの女……結局けっきょく悪魔あくまのいる方に向かってる」


 どこにも焦点しょうてんのあっていない黄金色こがねいろ千里眼ひとみは、少し離れた場所で地図を広げながら進むカンナの姿を見ている。


「なんでまた……俺はやめておけって言ったはずだぞ」

「まおうさま……信頼しんらい、されてない。それに、多分たぶん……あの女は『けたおんかならかえす』タイプ」

たしかに『村の人に良くしてもらってた』って言ってたな……」


 あのカンナとか言う少女は、『義理人情ぎりにんじょう』とかいうものにあついのだろう。


「だからって、わざわざ死にに行くほどのものなのか?『一宿一飯いっしゅくいっぱんおん』ってのは」

「さあ……でも、このままだと間違まちがいなく、『瞬殺しゅんさつ』」


 アイリスの言っていることは正しかった。 

 悪魔と言ってもピンからキリまでいるが、彼らにとって異種族いしゅぞくである人間にんげんが食べることのできる食材を顕現けんげんするような魔法を使う悪魔はおそらく、悪魔の中でも上位種じょういしゅだ。

 そんな悪魔と『二流』の冒険者ぼうけんしゃが戦えば、勝負にすらならないだろう。


「……」


 ふ、と勇者アセロラの顔がよぎると同時に、ケルベロスに立ちふさがるカンナの姿すがたが重なった。

 

『あなたは知らない人だけど、知らないフリはできない』


 何故なぜか耳に残っていたカンナの言葉がふと、脳裏のうり再生さいせいされた。 


「……アイリス。悪いが、あの女の居場所を教えてくれるか」


 アイリスは以外いがいそうな顔をかべ、千里眼せんりがん魔力まりょくをこめた。

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魔王様は病気です! 田中健太 @MAV

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