消えた自主企画に寄せて──2024年4月26日の講義より
崇期
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今回は第2章『消えた自主企画について』を学んでいきましょう。カクヨムのテキスト35ページを開いてください。
(受講生たちがせわしなくページをめくる)
二十四節気ごとに、太陽と地球の関係性が変化するように、私たちユーザーと運営側の思惑、作者と読者の意図も一秒ごとに変わっていきます。
たとえば主人公の名前は
板坂家は実は、四百年続くマジックリアリズムの家系なのです。だけどもう、時代遅れな感は否めない。Z世代にα世代、マジックリアリズム自体を知らない世代が多いはずです。大名は参勤交代となり、飛脚は佐川急便となり、
(受講生が手を挙げる)「先生。ソース(The source)が……大丈夫でしょうか? 髙山質店は福岡にしかありませんが」
※注……福岡県以外にもあります。
いいところに気づきましたね。このクラスには留年された方も数名いて、昨年秋ごろに学習したページに書いてあったことを憶えておられるかもしれません。テキストは……520ページ。
読みますね。……たとえば、人に道を教えるとき、『あの納豆の発泡スチロール製パックをくわえたカラスがとまっているバックミラーがある角を曲がって……』などと言ったら、次の瞬間にはカラスは時空の彼方へ飛び去っているかもしれません。そういう案内の仕方をしてはいけないと有史以来言われていますように、『今、この瞬間には手に入れていても、次の瞬間にはこの手を離れている』ということを常に念頭に入れておかなければなりません。
五十年後、百年後もその店は世界に存在するのか。今、ここにいる皆さんも、このまま無料小説投稿サイトで活動を続けているのか。小説を書き続けているのか。そんなことは誰にも判断できるもんじゃない。
(受講生たち、静まり返る)
では続きまして、テキストは──少し飛んで、42ページ。
第一幕
(舞台中央にコーヒーの香りが浮かんでいる。上手から夔が現れ、舞台中央に辿り着くと、左右を見回す仕草をくり返す。)
夔「ゴトーと待ち合わせたつもりが、ムトーが来そうな気がする。仕方ない、代わりに聴いてもらえませんか? セレストブルー好天銀行の口座を開設してもう四年になるのですが、一度もパスワードを変更していないのに、残高が勝手に抜き取られるということもない。この間、預金利息が五百三十一円もついておりました。もうずっとVIP会員なのです」
観客「重要なお知らせ──のところに、なにかメッセージが届いていませんでしたか?」
夔「メールが……。該当銘柄を保有している方にお送りしております、というタイトルの後、米国株式の決算予定日のお知らせ、と書いてありました。一体どうすればよいのやら」
観客「まず送信元のアドレスを確認しましょう。URLもなにかおかしいな、と思ったらすぐにタップはしないように」
(受講生の一人が挙手する)
では、**さん、お答えください。
(受講生**)「この場合にも、今、預金残高が消えていないからといって、未来も同じとは限らない、ということではないかと思います」
そのとおりです。ほかに、気づいた方はいませんか?
(受講生、テキストを睨みながら悩んでいる様子)
では、こうしましょう。一旦テキストから手を離してください。
人が本当に見たくないと思うものの中で、目に見えないような仕組みになっているものというのは、どういうものだろう。ここでは汚物や汚点といった話をするつもりはない。そういう「者たち」が棲む世界があるのだ。
あなたが夜空に見る月、その月の裏側などがそうだ。そこには、「ああはなりたくない」という者がうじゃうじゃいるらしいのだが、隠しておいてやろう、という配慮から月の裏側に押しやられているのではない。あなたが草むらにある石をひっくり返したとき、そこに潜んでいる虫を見たとしても、「隠れている」わけではないということは知っておいた方がいい。
どうしました?(受講生たちの顔を見る)皆さんの顔色……そうですね、まるで、春の新作キッチン用品のおしゃれなダスティーカラー(スモーキー・ブルー)といった具合ですね。鏡を見たら私が言っていることがきっとわかるでしょう。
しかし、その顔色でさえも、次の瞬間には消えてなくなっているかもしれない。そういうものです。自主企画は──
(ここでチャイムが鳴る)キーンコーン、カーンコーン……。
では、本日の講義はここまで。日直さん、次のホームルームの時間、プリントの配布がありますので、後で事務所に取りに来てもらえますか?
(該当の受講生、講師の顔を見て頷く)
講義室のドアが開放される。
消えた自主企画に寄せて──2024年4月26日の講義より 崇期 @suuki-shu
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