第11話:逃走と戦い

(ホノカ視点)


 悪いけどハーグの勝利は意外だった。

 まさかA級がS級に勝つとは…最後のはもっと意外だったけどな。


 次はボンレか…

 さっきから癪に触ることばかり言うウザい奴だけど…

アイツが炎雨に勝てば俺は戦わなくて済む…

まぁ、難しいだろうな。ハーグがギードラに勝ったのは奇跡だ。

実際ハーグは限界だがギードラは余力を残している。

 

 そして先程からボンレが見当たらない。

 

 何処行ったんだ?


「なぁ、ウォード」


「何すか?」


「ボンレを何処に行った知らないか?」


「ボンレっすか?さっき『怪人』さんとハーグさんのおめでたの時に席を立って…ごめんなさい、わかんないっす」


「そうか」


 まさか…逃…


「まさか、S級の『炎雨』さんにビビったんじゃないっすか?」


 おいおい、フラグ立てるなよ…。同じ事思ったけど…


「アイツならあり得るな、アイツの異名の所以になってる『投槍』はアイツが遠く離れた所で攻撃する事でついた異名だからな」


 スカーレットまで…まぁコイツの場合名前侮辱されて、アイツに良い印象ないわな。


「あの、すみません…ボンレ様は?」


 おいおい、係員がボンレを呼びにきたぞ…


「それがわかんないんっすよ」


「え…え…」


 係員も困ってるし…ここはしょうがない…


「10分待って来なかったらあっちの不戦勝にしてくれ。

貴族も来てるみたいだからそうした方が賢明だ。

悪いがあっちにもそう伝えてくれないか?」


 ハーグ達のドタバタのときに消えて、20分以上経ってる。更に10分待って来なくかったら確信犯だろう。


「か、かしこまりました!」


(連合チーム)


「何!?本当か?!!」


 カサンドラは係員から、信じられない話を聞いて驚きを隠せないでいた。


 カサンドラの怒気に係員は怯えてしまう。


「は、はい…『黒刀』様がそうおっしゃっていて…」


 係員はカサンドラを宥める…というよりは自身が怒られない為にホノカの提案である事をしっかりと伝える。


「『黒刀』の話は理解できるが10分って…私はもうちょっと待っても良いと思うけどね」


「で、ですがその…」


 カサンドラに提案されるも係員はホノカと話すのが怖くて、行きたく無かった。


 するとそんな係員に助け船が来る。


「いや、『黒刀』殿の案に賛成します、恐らくもう彼は戻ってこないでしょうから…」


 カフィがカサンドラの意見を棄却し、ホノカの提案に賛成した。


 カサンドラはカフィの含みのある物言いに眉間に皺を寄せて訝しげる。


「?、あんたなんか知ってんの?」


 カサンドラの問い正すもカフィは答えようとしない。


「…」


「ちっ、だんまりか…いいよ!『黒刀』の話のままで!!」


 カサンドラは対戦が台無しになった事と気に入らないチームメイトが居る事に怒り、係員に当たってしまう。


「か、かしこまりました!」


 係員は逃げるように去っていく。


 そして、結局10分ちょっと待ったがボンレは来なかった。


 その事を係員が観客達に報告する。


「えー。ここでご報告があります!

『投槍』ボンレが不在のため、『炎雨』カサンドラの不戦勝となりました!!!

お客様をお待たせてしてしまいますが、10分後、大将戦を開始とします」


 この報告で観客達がざわつき、憶測が飛び交う。


「逃げたのか?」

「相手S級だからな…」

「さっきの試合を見た後だとな…」


 カサンドラも結局来なかったボンレに対して悪態を吐く。


「ちっ、ギードラのおかげで上がってたのに水を差されちまった…」


 ギードラも同じようで、付き合いたてでべったりとくっつくハーグに問いかける。


「俺、萎えた、夫、どうだ?」


 ギードラに無理矢理連れて来られたハーグは苦笑いをした。


「小心者だとは聞いていたけど、逃げる様な奴では無いと思ったんだが…」


 ハーグはボンレと一緒に戦った事があるので知っていた。遠距離で獲物を仕留めるが、近距離もかなり強い事を。


「夫、逃げた、奴、友達?」


「いや、違うが…」


 ハーグは思い出していた。

以前ボンレや他の冒険者達と大規模なモンスター討伐したときに、自身の背後から迫ったモンスターをボンレが撃退してくれたことを…


「恩人ではある…」


「そうか…俺、夫、恩人、悪口、言わない」


「じゃあ私ももうこれ以上愚痴止めよ」


 カサンドラとギードラはハーグの顔を見て、それ以上は何も言わなかった。



(闘技場)


 ホノカとカフィの二人は互いに礼を済ませて、開始の合図を待っていた。


「お仲間の事は残念でしたね」


 カフィは何故か鼻にかけた笑みを浮かべ、ホノカを労う。


 しかし、ホノカはそれを否定する。


「チームメンバーと仲間は別だ。一時的に利害が一致していただけだ」


「そうだね…でも彼には感謝しているよ。『黒刀』…君と戦えるのだから」


「それはボンレがお宅のS級に勝てる可能性があるって言いたいのか?」


「さぁ、でも君の様に実力を隠しているならもしかして…ね?」


 ホノカもカフィの含みのある物言いに苛立ち、目を細め睨みつける。


「…」


 カフィはホノカの睨みを意に返さずほくそ笑んでいる。


 二人の口撃が終わるやいなや…


「それでは…はじめぇ!!!」


 合図が聞こえるとカフィが早速攻勢に出る。


「アイスカット」


バリ


 ホノカは向かって来た氷の刃を刀の風圧で薙ぎ払う。


 カフィはそのまま中距離を保ったまま更に攻撃をする。


「ランドカット」


「はぁ…」


 ホノカはため息を吐きながら先ほどと同じように薙ぎ払う。


 ホノカは始まって数分だけどカフィの芸の少なさに呆れた。


 それを見てカフィの眉がピクつく。


「“身体強化・極”、パワーハイブースト、

“剣砲”」


 カフィはアイテムのスキルと魔法で自身を強化して攻撃をした。


 ホノカはまた同じようにして薙ぎ払う。


 すると…


「強いんですね…」


 カフィが声をかける始めた。


「…」


 しかし、ホノカは無視をする。


 それにカフィは眉間に皺を寄せてアイテムの魔法で攻撃する。


「トライ・ランドランス」


「“斬波”」


スパン


 刀技で両断し魔法は消され、ホノカの斬撃はそのままカフィを襲う。


「何っ!?、ゴールドシールド!」


 カフィはアイテムの魔法で黄金の盾を作りだすが、それも虚しく両断される。


「くっ…」


ギリギリ


 カフィはギリギリのところを剣で受け止めるが押されてしまう。


「“豪剣”」


 何とか斬撃の軌道を逸らす。


 ホノカはその様子を呆れた顔で見学していた。


 そして…


「あんた…降参しろ」


 ホノカは降参するように促した。


 カフィはそれに怒り、怒りで歪ませた顔を隠すように俯き、ホノカを問い正す。


「それはどういう意味だい…?」


 ホノカはその問いにつまらそうに答える。


「あんたが良くわかっている筈だ」


 数秒二人の間に沈黙が流れると…


「アイスカット、ランドカット、

トライ・ランドランス、

トライ・ポイズンランス、

ウォーターブレス、

アイスカット、ランドカット、

トライ・ランドランス、

トライ・ポイズンランス、

ウォーターブレス」


 カフィは怒りのままに無数の魔法をアイテムの使用回数が切れるまで放ち続ける。


 ホノカはその全てをスキルを使わずに避け続ける。


「はぁ…はぁ…」


 アイテムを殆ど使い切ったカフィはまともに動いてたのに息を切らしていた。


 そしてカフィはまだ諦めないz


「我が力よ

炎の力を武器に纏わせよ

付与魔法 エンチャント・炎

ストームスラッシュ!

合技・炎徹甲砲!!!」


 カフィは最後の一撃と言わんばかりに強大な攻撃を合わせて放つ。


「“斬波”」


スパン


「っか」


 斬撃はカフィの攻撃を消しさり、カフィへと向かった。


 カフィは斬撃に反応出来ずに、吹き飛ばされ場外へと落とされる。


「…そ、そこまで!!勝者トーカ!!!!!」


「すげぇ!?!?!!!!!」

「あり得ねぇ!!??!!??!!」

「圧倒的だ!!!!?!」


 ホノカの圧倒的な勝利に会場は大盛りだ。


 そして連合チームもホノカの実力に驚愕していた。


「ここまでとはねぇ…」


「俺、『黒刀』、勝てない」


「俺もここまでとは…」


 一人だけ別の事に驚き、声すら出せずにいた。


(「あの目…まさか…?」)


 ベロニカもホノカの実力に驚いていたが、ホノカの別の何かに気づき始めていた。

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異世界再生神話〜神は万能ではない〜 犬星梟太 @fatowl

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