親子。

崔 梨遙(再)

1話完結:約2000字

 或る日、僕は知人から、


「女の娘(こ)を紹介したるわ」


と言われ、千秋という女性を紹介された。


 千秋は年齢不詳、自称40歳。だが、50代にしか見えない。顔も微妙だった。首筋を見ると、やっぱり50代だ。その頃、僕はまだ20代だった。知人が、何を考えて僕に千秋を紹介したのか? わからなかった。絶対にマッチングしないことがわかっていたと思う。仕事は、保険の外交員らしい。


 だが、後になって、何故知人が僕に千秋を紹介したのか? わかった。知人は、若い美人の外交員を狙っていて、その美人外交員から千秋のことを頼まれたらしいのだ。要するに、自分が美人に近付くために、僕を千秋に紹介したのだ。極端に言うと、僕は生け贄にされてしまったことになる。困ったものだ。


 僕と千秋は、引きあわされるとスグに、


「ほな、後は崔君と千秋さん2人きりで」


と言われ、知人は美人の外交員と消えた。2人きりにされた僕は、千秋を映画に連れて行った。映画なら、喋らなくてもいいからだ。だが、映画館で手を握られた。放置していたら腕を組まれた。僕はピンチだった。


 映画館を出て、


「じゃあ、今日はこれで」


と言ったのだが、千秋は食事に行きたいと駄々をこねた。ちょっとムカついた。僕は千秋を押しつけられて不愉快だったので、千秋に牛丼を食べさせた。千秋は怒っていたようだが、おとなしく牛丼を食べていた。僕は、千秋に嫌われたかったのだ。


 店を出て、


「ほな、今日はこれで」


と言ったのだが、“ホテルに行こう”と言われてしまい、丁重にお断りした。代わりに、カフェに入った。そこで、娘の千春の写真を見せて貰った。めちゃくちゃ美人だった。僕は、千春に興味を持った。その日は、それでようやく解散できた。


 千秋と会うのは嫌だったが、“千春に会わせたい”と言われたので再び会うことにした。娘の千春は写真と同じで美人だった。僕は千春と話が盛り上がった。そこで、千秋の、“千春にアタックしてもいい”という許可を得て、僕のテンションが上がった。その代わり、千秋に別の男性を紹介するという約束をさせられた。


 早速、千春とデートすることになった。そしてデートは成功。僕は千春と結ばれることができた。千春は最高の女性だった。僕は、千春との営みを思いっきり楽しんだ。だが、ホテルのベッドで、千春が“お母さんがかわいそう”と言い出した。僕は千秋に本当に男性を紹介することにした。



「崔君、本当にすぐにできるの?」

「はい、向こうは飢えていますから」

「崔君には何かお礼をしないといけないね」

「それは今日がうまくいってからの話ですよ」 


 僕は普段から親しい男性を連れて来た。経験人数を増やすことを楽しみにしている人だ。千秋も“経験人数の1人”と思ってもらえばOKだ。年齢も50代後半だから、千秋と釣り合いがとれるだろう。



「お待たせしました」


 駅前で人が多くても、美人の千春は目立つからすぐにわかる。千秋もドレスアップして、やる気充分のようだった。


「こちらが万田さん。万田さん、こちらが千秋さんです」

「こんにちは。千秋です。こちらは娘の千春です」

「じゃあ、ここからは別行動にしましょう」


 僕はサッサと万田社長に千秋を押しつけて千春とのデートを楽しんだ。


 その日、千春のリクエストで水族館に行った。楽しかった。千春を連れて歩くと、時々他の男から羨ましそうな顔で見られる。なかなか気分がいい。


 その日も僕と千春はホテルに泊まった。


 翌日、日曜日なのに朝早く電話が鳴った。万田さんからだった。


「おはようございます。どうかなさいましたか?」

「崔君、あれはひどいよ」

「千秋さんですか?」

「あの人とするのは拷問だよ」

「しなかったんですか?」

「したよ。栄養ドリンクを飲んで」

「あ、したんですね。それは良かったです」

「映画館で腕を組んでくるんだよ、断りたかったけど、断れなかったよ」

「それは大変でしたね」

「しかも、2回も3回も求めてくるんだよ。たまったもんじゃないよ」

「すみません。お疲れ様でした」

「“今度いつ会えるか?”ばかり聞いてくるんだけど」

「しつこいと思いますよ」

「崔君、俺はどうしたらいいの?」

「他の男性を紹介するのが1番いいと思います」

「あ、そうだね。わかった、そうするよ」

「どうも、すみません」

「じゃあね、崔君」

「はい」


 電話は切れた。


「万田さんから?」


 僕の電話で目を覚ました千春が聞いてきた。


「うん」

「なんて言ってた?」

「たまったもんじゃないよって。要するにクレーム」

「お母さん、何をしてるんやろ。お母さんって、寂しい人やなぁ」

「万田さんが千秋さんに男性を紹介するって言ってたから任せよう」


 僕は、千秋を押しつけた万田さんに対してちょっとだけ罪悪感を感じた。



 ちなみに、美人の外交員を狙っていた知人は派手にフラれたらしい。







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親子。 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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