第11話 優しさの結論

 ベッドを萌と毬に占拠された走は、友達からもらったちょっとくたびれたソファに座っていたが、いつしか眠るともなく横になっていた。どれくらい時間が経ったのか感覚が無いなか「毬の中でどんな話し合いが行われているんだろう、決裂して沈黙したままなんだろうか…」と萌の性格から考えて、有り得そうにないことまで考えたりしていた。視線を感じてベッドの方を見ると、萌か毬かが上体を起こして自分の方を見ていた。走が隣に座れるように体を起こし座り直すと間髪入れず起きてきて隣に座った。「萌だ」走はすぐに分かった。「毬なら座っていいか聞いてくるはず」だからだ。思ったとおり萌のしゃべり方で「いろいろ話し合った結果…」まで言って言葉を止めた。走が途中で止まった話の後が聞きたくて萌をじっと見ていると萌が嬉しそうな顔で「聞きたい?」と聞いてきた。走が「もちろん。というより途中で話を止めるのはずるいよ。僕だってどうなるか気になって心穏やかじゃないんだから」と言うと萌が「じゃ、この後は毬ちゃんに話してもらおう」とちゃんづけで言った。そしてすぐに萌が引っ込んだようで、毬の口調になり「私、毬だけど今、神様と友達になりました」と言った。走が「体の取り合いで、口論してたんだと思ってた」と言うと毬が「確かに最初はそうだったんですけど、話してるうちにどんどん萌さんのことが好きになって…。なので、約束通り私が消えますって言ったら萌さんが私が消えるよって言い出して、長いこと譲りあいしてたんです。そしたら萌さんが私は神だから再生出来るから大丈夫だよって言って、でも私そこそこ頭がいいんでそれって変だなって思ったんです。それならなぜ私の体に固執したのかなって。それでそのことを言ったら萌さんがバレちゃったかー、そう嘘だよってなって。本当は消えちゃうんだって言ってました。だけどずいぶん長いこと生きてきたからもういいって。でもそんなの絶対嘘だと思うから私から提案してみました」と言ったので走が「何を」と聞くと毬が「私の中で二人一緒に暮らすことです。それが出来ないか聞いてみたんです。今、私の体の中に二人でいるけど何も問題ないんです。でもそれが長い間続くと何か問題がおきるのか私には分からないので聞いてみたんです」と言った。走が「それで」と聞くと毬が「萌さん暫くじっと考えてたんですけど、そのうち笑顔になって、それ良い考えだねと言ってくれました。そして過去のいろんな事例を思い出してみた結果、それで何か問題が起きたこと無いと思うから大丈夫って言ってくれたんです」と言って毬も心から嬉しそうに笑った。その毬の姿を見て嬉しくなった走だったが、内心二人の関係が良くなると自分が仲間外れになるんじゃないかと不安になった。なので恐る恐る毬に聞いた。「僕のそばからいなくならないよね?」っと。すると毬が困り顔で「どうでしょう。それは萌さんに聞いてみないと分からないです」と言った。その言葉でより不安そうな顔になった走を見て嬉しそうに毬が「結論は出てますよ」と言った。走が「からかわないで教えてくれよ」と言うと毬が「結論は決まってるじゃないですか。萌さんの結論なんですから」と続けた。その言葉で萌の今までの自分に対する態度から、結論は推測出来たがやはりそれを言葉で聞きたくて走が「教えて!」と言うと毬が「私が言ったんじゃないですよ萌さんが言ったんです。走がなんと言おうと走と一緒に三人で暮らすって」と言って笑った。「毬も納得してくれてる」毬の明白な態度に安心し走も笑顔になった。すると毬と入れ代わって萌が現れ「毬に言ってもらって良かった。ちょっとだけ不安だったんだよね。走の気持ちが毬の方に変わったんじゃないかって」と言った。走は「確かに毬も可愛く思うようになったけど、萌は僕にとって…」と言って斜め上を見た。萌が心配そうに「僕にとって何?」と聞いてきた。走は言った。「萌は僕にとって…今日出逢ってまだわずかな時間しか過ごしてないのに不思議なんだけど、僕が生きていくために絶対必要な存在だと確信出来るんだ。だから一緒にいてくれないと…、でも萌を拘束することは出来ない。でも一緒にいてほしいんだ」と、すると萌が両手を開いて笑顔を走に向けた。まさに神の眼差しで。走は吸い込まれるようにその両手の中に入っていった。とたん「いくら萌さんへの思いで抱きしめてもこの体は私のものですからね」という声が…。走は気付いていた。萌を抱きしめる直前に毬に変わったことを。二人の微妙に違う何かを認識出来るようになっていた。萌のつもりで抱きしめにいって毬に代わったことで走は少しだけ動揺したが、毬のことも大好きになっていたので、「僕が抱きしめる瞬間、萌と入れ替わったよね。分かってるよ」と言いながら毬を強く抱きしめた。萌と自分では走の評価に大きな差があると思っていた毬は一瞬驚いたが、直ぐに「嬉しい」と言って走を抱きしめ返した。暫くそのままでいると「もうそろそろいいんじゃない…」という声が聞こえた。すると毬が「そうですね代わりまーす」と答えた。その後、直ぐに「しっかり私を抱きしめて!大好きだよ」という萌の声が走の中に響いてきた。走も「僕も、二人共大好きだよ」と言って二人の体を包み込むように抱きしめた。そして「どんなことでも上には上が、下には下があると思う。幸せだと思えば幸せだし不幸だと思えば不幸だと思う。だけど、今の僕にそんなことなんの意味もない。そういうこと全てを超えた所にいる。二人といればこれ以上の居場所はない」と言うと、萌と毬の二人のハモった声で「私達も走と一緒が最高」と言うのが聞こえた。三人から溢れ出した幸せが部屋中に満ちていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

青瞬2in1ガール 奈平京和 @husparrow

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ