第30話:夢見た未来
家族は誰も参列はしてくれないが、父親代わりのエスコートは、後見人だった母親の従兄弟が引き受けてくれた。
母方の祖父は既に他界している。
父方の祖父は、フルールと婚姻した際に縁が切れているらしい。
らしい、と言うのは、既に絶縁手続きがされているので、簡単には遡れないからだ。
まだ女性が爵位を継げるようになってすぐの頃。父方の祖父は、婿に入る息子を恥と思ったのだろう。
その為、どこの誰だかも知らないので、今現在の状況も判らない。
淡い水色で作られたウェディングドレスは、清らかで可憐な雰囲気のフローラにとてもよく似合っている。
対してアルベールは、同じ色を基調に藤色を差し色に使っている。差し色と言うには
特務部隊の中でも群を抜いて体格の良いアルベールと、どちらかと言えば小柄なフローラが並ぶと、完全に大人と子供である。
それでも微笑み合う二人は、最高に幸せそうに見えた。
「おめでとう! フローラ様」
アストリがフローラを抱きしめる。
体型の誤魔化しが効かない紺色のドレスは、大人っぽいアストリによく似合っている。紺色は隣に居る夫であるデュリュイ辺境伯令息の色だ。
「おめでとうございます、フローラ様」
頬を擦り寄せるように祝いの言葉を口にするのは、レティシアである。
レティシアも既に婚姻を済ませているので、今ではバルビエ伯爵夫人となっている。因みにバルビエ伯爵とは、バルビエ侯爵家の後継者が
「
フローラが心配そうに顔を曇らせると、レティシアは全然! と笑顔で答える。
「むしろ何を食べても美味しくて、太りすぎないようにって先生に怒られたくらいよ」
まだ目立たない腹へ、レティシアはそっと手を添える。
「うちも頑張ってるのだけどな、なあシプリアン?」
アストリが声を掛けると、意味が解っていないだろうにシプリアンは「あぁ」と笑顔で返事をする。
そのやり取りが面白くて、フローラとレティシアは笑った。
美しい容貌をしていながら、一際大きな体格と無表情で仕事を
比喩ではなく、揶揄である。
フローラとの婚姻をきっかけに雰囲気が柔らかくなり、しかも社交界にも積極的に参加するようになり、妾や愛人希望者が殺到するようになるのだが、一度も浮いた噂が流れた事は無い。
「おや、今日は一人で参加か? 珍しい」
夜会に一人で参加していたアルベールへ声を掛けて来たのは、モーリアック侯爵家長子ユルリッシュ……アルベールの兄である。
「子供が熱を出したので、フローラは参加出来なくなった」
「それは大変だね。どの子だい?」
アルベールとフローラの間には、年子で三人の子供がいる。
「全員だ。こういう時には仲が良いのが裏目に出るな」
苦笑するアルベールは、完全に父親の顔である。
長女・次女・長男と三人も続けて産んだフローラは、大変だと言いながら楽しそうに子育てをしている。
乳母に任せ切りにはせず、伯爵家当主の仕事と上手く両立しながら子育てにも積極的に関わっているのは、貴族には珍しい事だろう。
「俺もそろそろ帰るつもりだ」
アルベールが手に持っていたグラスの中身を飲み干し、丁度側を通った給仕に渡す。
「父が遊びに行きたいと言っていたよ」
おそらく今日の本題を、ユルリッシュが笑顔で告げる。主催者であるモーリアック侯爵は、まだ挨拶をする来客に囲まれていた。
「子供達が元気になったら連絡する」
それだけを言うと、アルベールは
ファビウス伯爵家では、子供達三人が並んで寝ていた。
風邪などではなく、長男が
仲が良いのが裏目に出た、とはそういう事である。
長女の見た目はフローラ似で、中身はアルベール似の、清楚に見えて実は活発で面倒見が良い姉御肌。
次女は逆に見た目はアルベール似の派手な美人で、中身はフローラ似で少し内気な面がある。
長男はフワフワの銀髪で、顔も両親の良いとこ取りをしている。性格はまだ判らないが、アルベールは「アストリの小さい頃みたいだ」と言っていたので、フローラは何も心配していない。
フローラが眠っている三人を眺めて微笑んでいたら、静かに部屋の扉が開いた。
アルベールが帰宅したのである。
「おかえりなさい。お疲れ様です」
小声でフローラがアルベールを
「ただいま」
愛しい妻の額にくちづけを落としてから、アルベールは帰宅の挨拶をする。
何気ない日常。
当たり前の家族の形。
フローラがずっと夢見ていた世界が、今はすぐ傍にある。
間違い無く、フローラは幸せだった。
終
───────────────
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
最初に(LINEオプチャのお遊びで)題名を決め、それから中身を考えた珍しいパターンのお話です。
いつもは設定→あらすじ→題名
コメディっぽい題名ですが、結構なシリアス設定でした。
騙された方、すみません。
また次作でお会い出来たら幸いです
(*^_^*)
天使がゴーレムになって戻って来ました〜虐げてきた家族とは決別し、私は幸せになります〜 仲村 嘉高 @y_nakamura
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます